ロシアのスパイ船が英軍機にレーザー照射、英国防相は「軍事的選択肢」も準備ととヒーリー国防相

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画像説明, ロシアのスパイ船について会見するジョン・ヒーリー英国防相(19日、ロンドン)

ブライアン・ウィーラー政治記者、ポール・セッドン政治記者

イギリスのジョン・ヒーリー国防相は19日、イギリス周辺海域で目撃されたロシアのスパイ船「ヤンタル」が、その活動を追跡していた英王立空軍機のパイロットを妨害するため、初めてレーザーを使用したと発表した。

ヒーリー国防相は記者会見で、ヤンタルの「極めて危険な」行為を政府が「非常に深刻に」受け止めていると述べた。また、ヤンタルが目撃されたのはスコットランド北方で、過去数週間に今年2度目となる英領海への侵入を行ったと説明した。

そのうえで、イギリスは引き続きこの船を監視し、「ヤンタルが進路を変更した場合に備えて軍事的選択肢を準備している」と付け加えた。

「ロシアと(ウラジーミル・)プーチン(大統領)への私のメッセージはこうだ。我々は見ている。我々はあなたが何をしているか知っている。そして、ヤンタルが今週、南へ向かえば、我々は準備ができている」

ヒーリー氏は、レーザーによる妨害が発生したのは、英海軍のフリゲート艦と空軍の哨戒機「ポセイドンP-8」が、ヤンタルを追尾していた際だと説明した。哨戒機などは、ヤンタルの「あらゆる動きを追跡する」ために配備されていたという。レーザー照射は、過去2週間以内に発生したとみられている。

ヒーリー氏は首相官邸の記者会見で、ヤンタルが「我々の広域海域にある場合」に、英軍のより細かい追尾を可能にするため、海軍の交戦規定を変更したと説明した。

同氏によると、2015年に就役したヤンタルは、ロシアの深海調査総局(GUGI)に所属し、「平時には監視、紛争時には破壊工作を行う」ことが役割とされる。

同氏は、「ヤンタルが進路を変更した場合に備えて軍事的選択肢を準備している。それを明かすつもりはない。なぜなら、それはプーチン氏をより賢くするだけだからだ」と語った。

レーザーがもたらす危険性について問われると、ヒーリー氏は、「英軍機を操縦するパイロットを妨害、阻害、危険にさらすものは、いずれも極めて危険だ」と答えた。

在英ロシア大使館は声明を発表し、「イギリスの海底通信には関心がない」と述べた。

声明では「我が国の行動はイギリスの利益に触れるものではなく、その安全を損なうことを目的としたものでもない」としている。

さらに「しかしロンドンが、反ロシア的な路線を取り、軍事的ヒステリーを高めることで、欧州の安全保障は一層悪化し、新たな危険な状況を生み出す前提を提供している」と付け加えた。

そして、「欧州大陸の危機的状況を悪化させる恐れのある破壊的な措置を取ることを控えるよう、イギリス側に求める」と呼びかけている。

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画像説明, 英国防省は19日、イギリス海軍の艦艇(手前)がヤンタルを追跡している新たな写真を公開した

英下院で国家安全保障戦略合同委員会の委員長を務めるマット・ウェスタン議員(労働党)は「今日のニュースは、ロシアがイギリスの安全保障に対して現実的かつ差し迫った脅威をもたらしていることをあらためて示している」と述べた。

ウェスタン議員はまた、「国防相がこの問題を真剣に扱っていることを歓迎するが、我々にはまだできることがある。より強硬な報復が必要になるかもしれない」と語った。

ヒーリー国防相は、今年1月にヤンタルが英領海で確認された際にも警告を発しており、「ロシアの攻撃性が高まっていることの新たな例」だと話していた。

船舶追跡サイト「マリーン・トラフィック」によると、この船は11月2日以降、位置情報を発信しておらず、最後に追跡されたのはバルト海のラトヴィア沿岸北方だった。

同船はその後、オランダ領海付近で活動しており、オランダ海軍は11月6日、同海軍の艦艇2隻がヤンタルを北海の外に移動させたと発表した。

ヤンタルの現在の位置は不明だが、航空機追跡サイト「フライトレーダー24」には、スコットランド沖で英空軍の「ポセイドンP-8」が旋回(せんかい)している様子が示されている。ただし、同機がヤンタルを追跡しているかは不明だ。

ロシアは、国防省が運用するヤンタルを海洋調査船と説明している。一方で西側諸国は、欧州の海域で同船を頻繁に追跡しており、その任務の一部が海底ケーブルの地図作成ではないかとみている。

アメリカの安全保障シンクタンク「大西洋評議会」のエリザベス・ブラ上級フェローは、ヤンタルによるレーザー照射は「確実なエスカレーションだ」と述べた。

同氏はBBCラジオ4の取材で、「(レーザー照射とは)基本的に、パイロットの任務遂行を妨げるために行うものだ」と説明。「レーザーの強度がどの程度だったかは正確には分からないが、たとえパイロットを失明させなかったとしても、挑発的な行為だった」と述べた。

イギリスと北大西洋条約機構(NATO)の同盟国は、ロシアが海底ケーブルやパイプライン、インターネット接続に不可欠なその他のインフラに対してもたらすリスクを懸念している。

ヒーリー国防相は記者会見で、ロシアによるNATO空域への侵入や、中国がもたらす脅威、世界各地の武力紛争について警告し、「我々の世界は変化している。予測可能性は低下し、より危険になっている」と述べた。

こうしたなか、英国防省は、アメリカの防衛資源に過度に依存し、イギリスやその海外領土を軍事攻撃から守る準備ができていないとして、議会委員会から批判を受けている。

委員会は、アメリカのNATO撤退の可能性に備え、イギリスとヨーロッパの同盟国が能力を強化すべきだと指摘した。

ヒーリー氏は、アメリカのNATOへの貢献について、政府は委員会とは「異なる見解を持っている」と述べた。

一方で、委員会がイギリスの「貢献のペースを上げるべきだ」指摘したことは「正しい」とし、それは昨年、労働党が政権を握って以来取り組んでいることだと語った。

イギリスは現在、来年開始予定の新たな欧州連合(EU)防衛融資制度に基づくプロジェクトに自国の防衛企業が参加できるよう、EUとの合意を急いでいると報じられている。このプログラムは、総額1500億ユーロ(約27兆円)規模とされている。

労働党政権は、今月末に締め切られる初回入札にイギリス企業が参加できるよう、数週間以内に合意をまとめたい考えだ。しかしEUはイギリスの参加に先立ち、数十億ユーロ規模の加盟料を要求していると報じられている。

ヒーリー氏は記者会見で、英・EUがこの加盟料をめぐって対立しているとの報道に言及。イギリスはこの計画に参加したいとしながらも、「どんな代償を払っても」というわけではないと述べた。

また、参加のための財政的負担は「納税者と産業にとって費用対効果の高いものでなければならない」と付け加えた。

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