「車内は阿鼻叫喚のるつぼ、その走りはもはや狂気の沙汰」と斎藤聡(自動車評論家)が絶句したクルマとは? 2025年上半期注目の5台の輸入車にイッキ乗り!

今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗! 斎藤聡さんが乗ったのは、フェラーリ・プロサングエ、ロータス・エメヤR、ベントレー・ベンテイガEWBマリナー、フォルクスワーゲン・ティグアンeTSI Rライン、ロールス・ロイス・スペクターの5台だ! ありきたりな感想だが、プロサングエが発表されたとき、“フェラーリお前もか”という気分が少なからずあった。けれども詳細を見ていくと、このクルマが只者じゃないことが徐々にわかってきた。そもそもイマ世に6.5リットル V12エンジンを搭載していることが、つまりすべてを物語っているということだ。じつは、試乗した時はあまりの乗りやすさに驚き、それほど強い印象を持たなかったのだが、クルマを降りて興奮と感動が沸き上がってきた。リヤ観音開きの4ドアとBピラーの採用によって、明らかにボディが硬いと感じられるほど剛性感があり、堅牢なボディに取り付けられているサスペンションの精度の高い仕事ぶり。それらすべてが作り出す一体感のある操縦性。とどめは6.5リットル V12エンジンだ。2000回転以下の驚くほどのフレキシビリティと、4500回転から先のフェラーリ・サウンド。骨格(からだ)が共鳴するようなしびれる快感。ああ、このクルマはSUVじゃなく純血種のフェラーリだと強く感じた。同時に絶滅危惧種でもあると。 「うおおおおおお!」「ひええええええ!」「どひゃああああ!」車内は阿鼻叫喚のるつぼだった。ロータスが本気で作った完全電動のハイパーGT、エメヤRのパフォーマンスは、もはや狂気の 沙汰と言ってい い。918ps/985Nmのパワーとトルクが発揮する超絶の加速性能は、他に例えようがない。只々未知の体験に絶叫するばかり。だからと言ってガツン! と乱暴に加速を始めるような不作法さがない。前後モーターも、前 後の車輪速(同調)制御を行っている印 象で、4WDが持つ安定性、安定感も感じることができた。これ見よがしにパワーの強力さを誇るのではなく、操る人を第一に考えた優しさを持っている。操縦性はロータスの得意分野、重心の低さを生かした、電子制御エア・サスペンションが、文字通り路面に吸い付くような操縦感覚を見せてくれる。しかもロール感や重心の変化の様子まで短いストロークの中で作り出し体感することができる。ハイパーEVでもロータスはロータスだった。 ベントレーのwebページに登場する“エフォートレス”という言葉は、ストレスを最小限にとどめるといった意味だと思うが、ベンテイガEWBマリナーは、まさにそんなクルマだ。高速道路を1200回転ほどで巡航しているときの、4リットル V8ツイン・ターボ・エンジンのかすかな振動が心地よい。ボディは堅牢な骨格で作られ、センターデフにトルセンを採用するフルタイム4WDシステムが落ち着いた走りを補完してくれる。ドライブ・モードはベントレー・モードが良い。しんなりしっとりした乗り心地を提供し、荒れた有料道路をまるで舗装が改修されたのかと思えるほど滑らかに走ってくれる。そしてベンテイガEWBマリナーでもう1つ感心したのが後輪操舵の見事な味付け。違和感なく低速域では逆位相に、中高速域では同位相に働いて、小回りの効きと抜群の高速安定性を発揮してくれる。すべてに押しつけがましさがなく、ストレス・フリーにドライブを楽しむことができる。まさにベントレーの言うエフォートレスがここにあると思った。 なんでこれほど確信をもって節を曲げずに、変わらない乗り味のクルマを作り続けることができるのだろう。ティグアンeTSIで箱根ターンパイクを下りながらずっと考えていた。もちろん、クルマ個体としての出来は、プラットフォームがMQBからMQB evoに進化し、2リットル直噴ガソリンエンジンは1.5リットル 24Vマイルドハイブリッドとなっているのだが、そういう表層的なところではなく、路面のうねりや段差を受けた時のショックのいなし方や、ハンドルを切った時の応答よく、しかし過度にシャープと感じさせずにするりとコーナーを曲がっていく所作は、ずっと前からよく知っているフォルクスワーゲンのそれなのだ。誤解を恐れずに言えば、沸き立つような興奮は、正直なところ感じないが、頭の中がしんと静まったかのような、落ち着きとか安定感がある。しかものんびり走っていてもまったく退屈しない。社名である国民のクルマという、この会社のクルマ作りの拠って立つところになっているのだろう。 ああ、EVはラグジュアリー・サルーンとの親和性が高いんだな、というのをいまさらながら強烈に感じながら、西湘バイパスを西に走っていた。ターンパイクのきつく長い上り坂を軽々と駆け上がっていく様子はまさに圧巻だった。操縦性も優秀で、精度感が高く、コーナーが楽しくさえ感じる。最高級なクルマはガソリン・エンジンを搭載している。どこかにそんな思い込みを持っていた。ところがスペクターに乗ってみると、それを強く否定する強烈なインパクトがあった。モーターの極低速トルクのぶ厚さを生かし、3t近いボディを軽々と加速させる。モーターの低速トルクの太さは、いかようにでも加速フィールを作れるということでもある。もともと音源、振動源のないモーターは静粛性、快適性に有利。巨大バッテリーの搭載による重量増も、重厚感のある乗り味に作り直すのはロールス・ロイスにとってはお手のモノ。となればじつは、モーター駆動はロールス・ロイスにとって、とても親和性の高いパワーユニットなのではないか。 今回試乗したクルマについていえば、いまのガイシャのスゴさは、それぞれのクルマがメーカーのDNAを体現しているところにあると思う。例えばフェラーリがロールス・ロイスのような世界最高峰のサルーンを作ったら、逆にロールスが、フェラーリのようなス-パ-・スポーツを作ったら、いったいどんなクルマが出来上がるのだろう。そもそもその設問自体あり得ないが、もし仮に作ったとしたら、ロールス・ロイスとフェラーリ的ロールス・ロイス、フェラーリとロールス・ロイス的フェラーリはいったいどんな車になるのだろう。かなり違ったものになるのは確かだ。風土・文化が違うということはそういうことだ。だからガイシャに魅力があるのだ。“そのクルマを選ぶ理由”がちゃんとある。情報や技術が世界にいきわたり平均化した現在、クルマごとの差別化に風土・文化が占める比重が増している。ガイシャのスゴさはここにあるのだと思う。文=斎藤聡

(ENGINE2025年4月号)

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