東京工科大学、NVIDIA製GPU搭載の私大最速スパコン「青嵐」導入、八王子市と連携協定締結

 「AI大学」構想を掲げる東京工科大学は2025年10月2日、八王子キャンパスにてNVIDIAのGPUを活用したAIスーパーコンピュータ「青嵐(SEIRAN)」を公開した。同時に、所在する八王子市とAI人材育成を踏まえた地域の発展を目指してAI/DX連携協定を締結すると発表し、「八王子市と東京工科大学のAI・DX連携協定締結式および私立大学最速AIスパコン『青嵐』発表会」を行なった。

 青嵐に採用したのは生成AIや大規模言語モデルなど計算負荷の高いAIワークロード向けの最新システムであるNVIDIA DGX B200。DGX B200は、NVIDIAの最新GPUアーキテクチャ、NVIDIA BlackwellおよびNVIDIA AI Enterpriseソフトウェアプラットフォームを搭載している。東京工科大学はDGX B200を国内で最初に導入する大学の1つ。

NVIDIA DGX B200を12台採用
合計96個のGPUから構成される
NVIDIA Quantum InfiniBandの高速ネットワークで接続
システム全景

 青嵐は、12台のDGX B200をNVIDIA Quantum InfiniBandの高速ネットワークで接続し、合計96個のGPUによる大規模なAIスパコンとして設計された。システム全体のAIの学習理論性能は0.9EFLOPS(1秒間に90京回の計算)に達し、私立大学最大規模のAIスパコンとなる。

 導入費用は非公開。現在はスパコンランキング「TOP500」申請向けのベンチマーク準備中の段階で、本格稼働は11月上旬以降を予定する。

東京工科大学 八王子キャンパス
学校法人片柳学園 理事長 千葉茂氏

 今回、八王子市は、AIおよびDX技術を持つ東京工科大学と「東京工科大学と八王子市とのAI・DX技術を活用した連携に関する協定」を締結した。高齢化や人手不足が進む地域農業の持続可能性の確保や交通インフラ維持をはじめとした地域課題の解決に寄与することを目的とする。

 会見では学校法人片柳学園理事長の千葉茂氏が「我々の歴史を話せば、なぜAIスパコンを導入したかも理解して頂ける」と話を始めた。「昭和30年前後は我々の学校はテレビ技術者を多数養成しており“テレビ学校”と呼ばれていた。昭和41年には実習用大型電子計算機を導入して、日本で初めての本格的なコンピュータ教育にも乗り出した」と紹介。そして「時代を切り開くエンジニアを養成していこうというのが、この学校の方針。今回、NVIDIAのGPUを導入したのも、そのDNAであり、新たなチャレンジに心弾ませている」と述べた。

 そして「八王子市にはこの地に開設して以来、親身になってご協力いただいており、さまざまな取り組みを共同で行なってきた。たとえばこの地域は大変樹木が多いので、落ち葉を利用して清掃車を走らせる実験も行なった。地域課題の解決と人材育成に、新しい環境を活用して貢献していきたい。八王子地域はものづくりの地域でもある。どのように活用していくのか楽しみだ」と語り、自動運転やバイオミメティック、金融などさまざまな研究分野や、地域の子ども達への教育面での還元への期待を示した。

東京工科大学 学長 香川豊氏

 東京工科大学 学長の香川豊氏は「これから我々の大学が地域連携、教育/産業の振興に貢献できると考えている。このスパコンはかなり高性能なものであり、企業の方でも普通は使うことは難しい。その高性能を味わっていただきたい。スパコンが導入されたことによって違う世界が拓けていく、あるいは『将来のAIはこういうことができる』ということを八王子市の皆さんにも感じてもらえるだろう。さまざまな産学連携にもつなげていけると考えている。将来、それが当たり前の世界になるのも近い。それに至るまでにハイパフォーマンス、高性能とはどういうことかを感じて味わってもらいたい」と述べ、「八王子市といろいろな面で連携できることは教育面でもプラスが大きい。小学生から大人までコンピュータをどういうふうに使えばいいのか考えてもらえれば、地域全体の発展にも寄与するのではないか」と語った。

八王子市長 初宿和夫氏

 八王子市長の初宿和夫氏は、これまでの大学との連携の歴史について触れた後、「行政課題とスパコンでの掛け算で何が生み出されてくるか。これは市役所側に問われており、結果を出さないといけない。第一義は教育と研究だが、市もそこに便乗させてもらい、しっかり市民サービスを提供させてもらいたい。その希望を持っている」と述べた。

東京工科大学と八王子市のあいだで協定書が締結された
東京工科大学学長 香川豊氏

 青嵐の発表会では改めて東京工科大学学長の香川豊氏は「東京工科大学はAI Universityになる」というコンセプトを紹介。具体的には情報関連の学生だけではなく全学部でAIを使いこなせる人材の養成を目指す。スパコンを余すことなく使いこなすための仕組みとして「AI/DX価値創造機構」を立ち上げており、AIを生かす、使う、知るといったそれぞれのステージで学習を行なう。AIは社会の中でどう使われているのか、知識と基礎、応用を学び、実践研究や基礎教養とのかけあわせ、そして未来創造ができる人材の養成を目指す。「AIをまったく知らない人にも、スパコンを使った学びを提供できる。スパコンだけでなく、使える仕組みも導入してきた。地域連携、産学連携に活用して使いこなしてもらいたい」と期待を述べた。

AIスパコンを活用するため「AI/DX価値創造機構」を立ち上げ

 そして「AI University」として目指す姿は「AI-ウェルビーイング」の実現だと述べ、「人材の育成と輩出、技術の社会還元として、自動運転の実現や医療へのVRの導入などを目指していきたい。地域社会へ導入するための知見は八王子市から得たい」と語った。

「AI-ウェルビーイング」の実現を目指す
NVIDIA エンタープライズマーケティング本部 本部長 堀内朗氏

 導入したNVIDIA エンタープライズマーケティング本部 本部長の堀内朗氏は「青嵐は比類なきAIインフラであり、AIワークロードに対応する最新のシステム。システム全体の学習理論性能は0.9エクサフロップス(EFLOPS)に達している。AIを加速するための究極のプラットフォームだ」とアピールした。

 そして「青嵐の進化はスペックの高さだけではない、圧倒的な計算資源を学生一人ひとり、彼らの成長と、社会課題の解決に直結させることが素晴らしいポイント。学生は小規模なコンピューティング環境では難しかった大規模なAI学習を実践でき、即戦力となるスキルを習得できる。AI倫理やガバナンス、説明可能なAI、デジタルツインといった最先端のプロジェクトが間違いなく加速すると考えている」とコメントした。

 NVIDIAと東京工科大学は2023年に本格的に連携をスタートした。「NVIDIA学生アンバサダープログラム」を通じてAI人材育成にも積極的に取り組んできた。

東京工科大学の「NVIDIA学生アンバサダー」

 そして「青嵐という名前からは未来を切り開く力強いエネルギーを感じることができる。このスパコンがAI時代の次のブレイクスルーを生み出す中核拠点として発展していくことを確信している。最先端プラットフォームを使って想像もできない未来を作り上げていくことを楽しみにしている。NVIDIAはこれからももっとも信頼できるテクノロジーパートナーとして手伝いを継続していきたい」と祝辞を送った。

フロリダ大学 AI2センター ハンス・ファン・オーストロム氏

 東京工科大学はフロリダ大学とも連携している。フロリダ大学 AI2センターのハンス・ファン・オーストロム氏からのビデオメッセージも紹介された。オーストロム氏は「フロリダ大学でもスパコン『HiPer Gator AI』の導入はカリキュラム全体でAIを教える取り組みを推進する上で決定的な瞬間となった。古代ギリシャ語やラテン語の文献分析による社会的特徴の発見から、脳卒中回復を促進する可能性のある化合物の探索まで、幅広い研究分野において極めて重要な役割を果たした」と成果を紹介。

 そして「年間で12,000人以上の学生がAI関連科目を履修し、1,000人以上の学生がAI基礎と応用認定プログラムを修了している。私たちは常に“倫理的なAI活用”を念頭に置いており、そのための講義も開講している」と述べ、東京工科大学での活用にも期待を示した。

東京工科大学 AIテクノロジーセンターICT部門長 生野壮一郎氏

 AIスパコンによる今後の展開の解説は、東京工科大学 AIテクノロジーセンターICT部門長の生野壮一郎氏が行なった。「青嵐」導入以前にさかのぼること2023年1月に、コンピュータサイエンス学部の学生向けにNVIDIAのA100を使ったシステムを導入して開放したところ、ほぼ100%の使用率となった。これは教官側の想定を超えた使用率であり、主にAIモデルの学習に使われていることが多かったという。

 その後、NVIDIAと東京工科大学は学術交流の協定を締結。NVIDIA学生アンバサダープログラムが走り始め、東京工科大学からも現在までに8名が「学生アンバサダー」として認定されている。2024年から2025年にかけてはワークショップを3回開催した。

すべての学生がAIを活用するスキルを身につけることを目指す

 青嵐はとにかくAIに特化したスパコンを導入することを目指した。名前は西行法師の歌「浅川を渡れば 富士の雪白く 桑の都に青嵐吹く」からとっているが、青は東京工科大学のシンボルカラーでもあり、“知”を意味する色でもある。そういう意味で「八王子の地から知の嵐を静かに吹き出そう」という意味で青嵐と名付けたと紹介した。

青嵐の名前の由来
知性と膨大な演算力を表現した名前

 ほかのスパコン「京」や「富岳」との比較は難しいが、京や富岳はどちらも基本的には科学技術計算をするためのスパコンとして設計された。一方、青嵐はNVIDIAの最新アーキテクチャBlackwellによるGPUを合計96基搭載しており、0.9EFLOPS、すなわち、1秒間に90京回の演算をこなす性能を持つ。特にこれがAI学習には向いているとされている。

京や富岳との比較。青嵐はAI特化型で低消費電力

 東京工科大学では「AI University」を根付かせることを第一義とし、「AIウェルビーイング」の実現を目指す。それをサポートするデジタルツインセンター、AIテクノロジーセンターによる技術向上を通して、先端技術や文化を再現するようなデジタルツインやAIを使った八王子への寄与を考える。AIを使った技術サポートも八王子に対して行なう。市民講座なども行なう予定だと紹介した。

「AI-ウェルビーイング」の実現を目指す

 まずは「24時間自由に使えるGPU環境」であることを最大の利点として教育に使うことに重きを置いて利用するが、東京工科大学独自の大規模言語モデル開発や、大規模な流体シミュレーションなども実施する計画があるとのことだった。

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