韓国大統領の罷免、5つの争点で尹氏「完敗」…憲法裁判所「国会を排除対象とした」と指摘
【ソウル=依田和彩】韓国の 尹錫悦(ユンソンニョル) 大統領を 罷免(ひめん) する判断を下した憲法裁判所は、尹氏の行為について「国会を排除の対象とした」と指摘し、戒厳令宣布の適法性など五つの争点全てで尹氏側の主張を退けた。十分な証拠がそろい、政権幹部らが尹氏に不利な証言を繰り返したことが影響したとみられる。
4日、ソウルの憲法裁判所近くで、中継を見ながら尹大統領の弾劾審判の宣告を待つ人たち=ロイター憲法裁は、裁判官8人(9人のうち欠員1)の全員一致で罷免を決定した。
宣告文を読み上げた 文炯培(ムンヒョンベ) 所長代行は「罷免によって得られる憲法守護の利益が、大統領の罷免による国家的損失を圧倒するほど大きい」と強調した。
【一覧】弾劾審判の五つの争点を巡る憲法裁の判断弾劾(だんがい) 審判では、〈1〉戒厳令宣布の目的や手続きの適法性〈2〉一切の政党活動を禁じた布告令の発表の適法性〈3〉国会に軍部隊を投入した目的〈4〉主要政治家らの逮捕を指示したのかどうか〈5〉選挙管理委員会に軍部隊を投入した目的――の五つが争点となった。
争点の中で最も判断が注目されたのは、〈1〉の目的や手続きの違法性だ。尹氏は、野党が弾劾訴追案の度重なる提出などで「国政まひ」を招いたと主張しており、憲法裁の判断が焦点となったが、憲法裁は「(尹氏の)判断を客観的に正当化できるほどの危機的状況が存在したといえない」と断じ、尹氏の主張を退けた。「遅滞なく国会に通告する」などと憲法が定めた戒厳令宣布の手続き的要件に違反したと判断した。
〈5〉の選管へ軍部隊投入に関しても、大きな争点となった。尹氏は不正選挙疑惑を解明するため、軍部隊を中央選挙管理委員会に投入したと主張し、その適法性が問われた。これに対し、憲法裁は「捜索令状なしの捜索で選管の独立性を侵害した」と結論付け、尹氏の主張を 一蹴(いっしゅう) した。
憲法裁が罷免の決断を下す根拠となったのが、弾劾審判と並行して進む尹氏の刑事裁判の起訴状や、戒厳令宣布当日の国会や中央選挙管理委員会の防犯カメラの映像などの証拠だ。証人として出廷した政権幹部や軍幹部ら16人の多くが尹氏に不利な証言を行ったことも影響したとみられる。
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憲法裁は〈2〉を巡り、戒厳令宣布時に発表された一切の政党活動などを禁じる戒厳司令部布告令を通じて、国会に戒厳令解除の要求権を与えることを定めている憲法の条項に違反したと指摘した。韓国のニュース専門テレビYTNは4日、法曹関係者の話として、布告令に国会活動の禁止が盛り込まれた点について「違憲・違法であることを免れるのは困難だった」と伝えた。
〈3〉の国会への軍部隊投入を巡っては、憲法裁は「政治的目的で兵力を投入することで、国のために奉仕してきた軍人を一般市民と 対峙 ( たいじ ) させた」とし、国軍の政治的中立性を侵害したと説明した。〈4〉の軍や警察を国会に投入して国会議員らの逮捕を試みたことについては「国会議員を引きずり出すように指示することで、不逮捕特権を侵害し、政党活動の自由を侵害した」と断じた。
一方、憲法裁は宣告の中で、国会(定数300)で過半数を占める野党が政府高官らへの弾劾訴追案提出を繰り返すなど強引な対応をとってきたことに苦言を呈した。左派の文所長代行は、野党の対応について「国会は少数意見を尊重し、対話と妥協を通じて結論を導き出すよう努力すべきだった」と指摘した。