トランプ氏の次の出資先はどこか、AI駆使して銘柄選別に動く投資家

アダム・ギデンズ氏はこれまで、株式を選ぶ際にスクリーニングサービスやソーシャルメディア上の話題を主な手がかりにしていた。しかし最近では、まったく別の種類のインフルエンサー、ドナルド・トランプ氏に注目するようになっている。

  現政権は前例を破り、米政府名義で上場企業の株式を次々と取得しており、ギデンズ氏のようなトレーダーは次に買われる銘柄を探るため、トランプ大統領の思考を読み解こうとしている。というのも、米国が株式取得に動いたと報じられた企業の株価は、その後大幅に上昇する傾向があるためだ。

  最近、ギデンズ氏が注目しているのはミリタリー・メタルズだ。同社は爆薬や核兵器の製造、赤外線センサーなど軍用装備に使われるアンチモンの新たな供給源を模索している。現在、アンチモンの最大の生産国は中国で、ロシアも主要な供給国だ。

  ギデンズ氏は「戦略的な重要性と供給網の脆弱(ぜいじゃく)性という組み合わせが目に留まり、アンチモンに関わる上場企業を探し始めた」と述べ、有望銘柄を探そうと政府文書にも目を通しているという。「埋蔵資源の規模と立地を考えると、同社はこの分野における次の戦略的投資先として有力候補だと思う」と述べた。

  トレーダーの間で思惑が広がる中、現政権は半導体の供給網の確保や、中国による重要鉱物の供給遮断を防ぐことなどを重要な戦略的目標と位置づけ、上場企業への出資を進めている。こうした流れを反映し、ラウンドヒル・ファイナンシャルは、米政府の投資戦略に沿った業種に投資する上場投資信託(ETF)の立ち上げを規制当局に申請した。

  こうした動きには批判も出ている。とりわけ過去の歴代政権、特に自由市場の擁護と企業への政府介入を避ける方針を掲げてきた共和党政権とは一線を画す政策転換だからだ。ただ、これを問題視しているのは政治家やエコノミスト、研究者にとどまる。ファンドマネージャーやギデンズ氏のような個人トレーダーにとっては、「次はどの銘柄か」が最大の関心事だ。

  ギデンズ氏のポートフォリオはすでに、ホワイトハウスの投資対象となった企業の株を保有していたことで恩恵を受けている。資本市場で働きながら、余暇に株取引を行っている31歳のバンクーバー在住の同氏は、7月に国防総省が15%の出資を発表する前に、レアアース(希土類)生産企業のMPマテリアルズ株を購入していたという。この出資をきっかけに、電気自動車(EV)やロボット、各種電子機器に欠かせないレアアースを供給する同社の株価は95%の急騰を遂げた。

  ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループでサステナビリティおよびトランジション戦略部門のグローバル責任者を務め、トランプ氏の政策が経済に与える影響を追っているアニケット・シャー氏によれば、トランプ氏の産業政策重視や政府による市場介入、方向づけといった姿勢は、今後の企業評価のあり方を変えつつあるという。

  シャー氏は「今後、企業を分析する際には、政府との政治的関係という要素も考慮に入れる必要がある」と述べた。

会談を終えた後にホワイトハウスを去るインテルのリップブー・タン最高経営責任者(CEO、8月)

  MPマテリアルズへの出資に続き、政府はバイデン政権下で成立した国内半導体業界支援法(CHIPS法)に基づき、8月にはインテルへの出資に踏み切った。出資比率は約10%で、業績低迷が続く同社の立て直しを後押しするのが狙いとされる。

  9月にはカナダの資源会社リチウム・アメリカズに5%出資し、さらに10月にはカナダの鉱物探査会社トリロジー・メタルズに10%出資した。ラトニック商務長官は、防衛産業企業への出資も検討対象に含まれていることを示唆している。

  今年の株式相場上昇をけん引してきた注目技術、人工知能(AI)が、次の投資対象を探る手段として活用されているのは、当然の流れとも言える。

  ボストン在住のアマチュア投資家コール・ハンセン氏は、配送・物流関連の仕事を本業としながら、OpenAIのChatGPTなど人気のチャットボットに対して、なぜトランプ氏は特定の業種を選んだのか、それらに共通点はあるのか、次はどこが狙われるのかといった質問を投げかけた。チャットボットがエネルギー、コンピューター、ロボティクスといった業種を挙げたのをきっかけに、ハンセン氏は電池関連銘柄を調べ始めたという。その後、やりとりを続ける中で、グラファイト生産企業に注目するようになった。

  「ほとんどのAIモデルは同じような答えを返してきた」とハンセン氏は話す。「すでに出資を受けた企業の共通点を具体的に尋ねたところ、中国が支配的な産業分野を挙げるようになり、その中でもグラファイトを主要な例として挙げた」という。

  その後、ハンセン氏は豪ノボニックスにたどり着いた。同社は米国内で初となる、電池向けの大規模な合成グラファイト生産施設建設に向け、エネルギー省から昨年12月に最大7億5500万ドル(約1160億円)の融資を受けた。同氏はノボニックス株が政府出資の流れに乗るのに「最適なポジションにある」と考えたという。しかし10月中旬に株を購入して以降、同社株は約40%下落している。

  オールド・ウエスト・インベストメント・マネジメントのパートナー兼ポートフォリオ・マネジャー、ブライアン・ラックス氏は、TMC・ザ・メタルズオデッセイ・マリン・エクスプロレーションといった海底採掘関連企業が、今後政府の出資対象となる可能性があるとみている。トランプ政権は4月に海底採掘に関する大統領令を発出しており、この分野については議会の公聴会でも議論されている。

  ラックス氏によれば、オールド・ウエストはすでに、MPマテリアルズ、リチウム・アメリカズ、トリロジー・メタルズといった企業に対し、米政府が出資する前に投資していた。中国以外からの重要鉱物の供給にはプレミアムが付くと見込んでいたためだという。

  タトル・キャピタル・マネジメントのマシュー・タトル氏のように、政府の出資発表後でも利益を上げているトレーダーもいる。タトル氏は10月、米政府の出資が発表されたインテル株についてプットオプションを売却し、投資家が政府に追随して買いに動くと見て株価上昇に賭けた。ポジションは11月5日に利益を確定するために手じまったという。

「自分の判断は正しかった」

  タトル氏は次の特定企業を予想することにはこだわっていないが、自身が既に投資している分野への確信をこうしたトレンドがさらに強めていると述べた。重要鉱物やドローンなどの分野は今後、政府支援の恩恵を受けると期待しているという。

  タトル氏は「私がまだ検討していないような業種や分野に政府が出資する可能性は低い」とした上で、政府が自分と同じ分野に出資しているという事実は、「自分の判断が正しかったことの証明だ」と述べた。

  もっとも、米政府による出資は関係銘柄を短期的に押し上げているものの、こうした動きが長期的にどこへ向かうのかは、今のところ誰にも分からない。

「社会主義への一歩」

  こうした政権による株式取得の動きには、トランプ氏の所属する共和党内からも批判が出ている。ランド・ポール上院議員はインテルへの政府出資について、「社会主義への一歩だ」とホワイトハウスの対応を非難した。

  防衛産業企業への出資を検討しているというラトニック商務長官の方針についても、アナリストから疑問の声が上がっている。ジェフリーズはこの動きが「利益相反の極み」になりかねないと警告している。

  株主への長期的なリスクも指摘されている。BCAリサーチのチーフ地政学ストラテジスト、マット・ガートケン氏は、政府の支援を受けた企業は市場競争から保護されることで非効率に陥る可能性があると指摘。中国のように、政府が過度な競争を生み出した結果、企業が利益を出せなくなる事態もあり得るとの見方を示した。

  さらに、政府出資の対象とならなかった場合には、投資家にとって大きなリスクが伴う。クリティカル・メタルズの株価は、米政権が同社への出資を検討しているとの報道を受けて一時109%急騰したが、その日のうちに当局者が「現時点では協議していない」と発言すると、急速に上げ幅を縮小した。

  鉱山会社エナジー・フューエルズラマコ・リソーシズも10月、B・ライリー証券が目標株価を引き上げ、レアアース分野における政府介入の可能性が高いと分析したことを受けて上昇したが、その後は上げ幅を消失している。

  とはいえ、近い将来に政府がこの戦略を撤回する兆しは見られない。市場では次の投資先を探る動きが続いている。

  BCAリサーチのガートケン氏は「現時点では、特定の企業を保護し、サプライチェーンの強靱(きょうじん)性を確保することが重要だとの認識が働いている」と述べた。「将来的には、非効率性や財政赤字、インフレといった要因を背景に、この方針が見直される可能性もあるが、今は風向きを正しく読むことが重要だ」と語った。

原題:What Will Trump Buy Next? Hunt Is On for White House Stock Picks(抜粋)

— 取材協力 Yiqin Shen

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