Appleは「Siri」を救えるか 迷走するAI戦略で“失われた信頼”を取り戻す一手
AI(人工知能)技術の開発競争でIT企業がしのぎを削る中、画像やテキストを自動生成するAI技術「生成AI」分野におけるAppleの取り組みには物足りなさを指摘する声が後を絶たない。2025年6月に同社が開催した開発者向けイベント「WWDC25」で発表されたAI機能群「Apple Intelligence」に対しても、事前の期待を大きく下回るという意見があった。その後、同社はこれらの新機能の公開を2026年まで延期すると発表した。 追い打ちをかけるように、2025年7月にはMeta PlatformsがAppleから複数のAI研究者を引き抜いたことが報じられ、技術開発の人材層にも穴が開くことになった。 この苦境を脱し、なかなか改良が進まないデジタルアシスタント「Siri」を救う“起爆剤”として、何が必要なのか。その答えを示唆する情報が、AppleによるAI検索ツールベンダーPerplexity AIの買収交渉のうわさだ。Perplexity AIのCEOは売却を拒否する意思を示しているものの、専門家はAppleがAI分野の最前線に立つためには、企業買収が必要な一手になると考えている。それはなぜなのか。
デジタル制作会社Code and Theoryの共同創設者であるダン・ガードナー氏は、Appleが掲げるSiriの進化を、「一般ユーザーにとって『本当に使えるSiri』の登場を意味する」と評価する。同氏が考える現在のSiriの問題は、他のデジタルアシスタントよりも性能が劣ることに加えて、Apple Intelligenceが掲げた「複数のアプリケーションを横断してシームレスなアシスト機能を提供する」という約束も果たせていない点だ。 Appleは、Apple Intelligenceのさまざまな機能を搭載する「iOS 18」のアップデートを通じて、Siriに複数の新機能を段階的に追加している。具体的には、テキスト入力でSiriに指示できる機能「Type to Siri」、より自然な音声会話機能、エンドユーザーが言いよどんだ場合でも文脈を理解する機能などだ。だがエンドユーザー個人の状況に合わせて応答を変化させたり、複数のアプリケーションを横断してエンドユーザーの代わりに操作を実行したりするエージェント機能については、「完成までにもう少し時間が必要」だと説明する。 ガードナー氏は、Perplexity AIのようなAIベンダーを買収すれば、AppleはOpenAIやGoogleが主導するAI技術開発競争に再び加わることができると指摘する。AIモデルの性能を高められるだけではなく、一般エンドユーザーに優れたAI体験を提供するという点でも競争力を高められるからだ。 「世間の関心は、より大規模なAIモデルを開発する競争に集まりがちだ。だがその裏では、『次に消費者の注目を引き、生活の中心になるサービスを提供するのは誰か』という、もう一つの競争が繰り広げられている」(ガードナー氏)