オープンソースで廉価な量子センサーが登場、その鍵は特殊なダイヤモンド
量子コンピューティングが「遠い夢」なのか「差し迫った現実」なのかは、人によって意見が分かれるところだ。ラスベガスで毎年開催されるセキュリティ国際会議「Defcon」において、量子技術に特化したセクション「Quantum Village」では、2025年の主要なテーマとして新たな研究や脅威分析が取り上げられている。
その一方で、Quantum Villageを共同で立ち上げたビクトリア・クマランとマーク・カーニーは、現在利用可能な量子技術をハッカーをはじめとする誰もが利用しやすいものにするための取り組みも行っている。
8月9日(現地時間)のDefconのメインステージでの講演で、ふたりは医療技術からGPSの代替まで、さまざまな用途に活用できるオープンソースで手頃な価格の量子センサーを発表した。
「Uncut Gem」プロジェクト始動
この量子センサーの核となるのは、特殊な原子の性質をもちながら、手頃な価格で入手できる特別なダイヤモンドだ。
第一世代のデザインは、サプライヤーや配送時間にもよるが、約120ドル(18,000円)から160ドル(24,000円)で組み立てることができた。クマランとカーニーが発表した第二世代はさらに低コストで構築可能だ。そして、コミュニティのテストと意見に基づいて、25年秋には第三世代をリリースする予定で、ふたりによると、最終的には50ドル(約7,400円)ほどの費用で組み立てられるようにしたいという。
量子センサーは、磁場や電場の極めてわずかな変化を検知することで、超高精度の測定を可能にする。例えば、ほぼ完璧な時間を刻む原子時計は、何十年も前から使われている量子センサーである。
だが、量子センシングに関心をもつ研究者や愛好家にとって、この分野に足を踏み入れるハードルは非常に高かった。そこで、Quantum Villageは比較的手頃な価格でオープンソースの「Uncut Gem」プロジェクトを立ち上げ、より多くの人々が独自の量子センサーを構築し、この技術を探求する真の機会を生み出している。
「量子センサーを使って、あらゆる国で使用できるポータブルなMRI(磁気共鳴画像)装置の開発を始めるなど、これまでは不可能だったことが可能になります」と、クマランはプレゼンテーションに先立ち『WIRED』に語った。「これらは欠陥のある、最も安価な合成ダイヤモンドの端材です。合成ダイヤモンドにこのような有用性があるということには、詩的な印象さえ覚えます」
量子センサーに必要な部品のほとんどは、市販のシンプルなコンピューター部品だが、ダイヤモンドは「窒素-空孔(NV)ダイヤモンド」と呼ばれるものでなければならない。その特殊な分子特性は、ダイヤモンドの原子構造にある一部の炭素原子が窒素原子に置換されることで生じる。
量子センサーは、医療用途の可能性に加えて、電磁波干渉を追跡する代替ナビゲーション技術にも活用できる。このようなツールは、地球規模のシステム障害や標的型妨害(ジャミング)が発生してGPSシステムが使えなくなった場合でも、その地域だけで機能する代替手段として活用できる可能性がある。
米宇宙軍は現在、「宇宙で試験されたなかで最も高性能な量子慣性センサー」と称されるセンサーの試験を実施中だ。
しかし、世界最高性能の量子センサーを利用できない大多数の人々にとっては、Uncut Gemプロジェクトは量子センシング技術を使えるようになり、その可能性を拡げる機会となる。Uncut Gemプロジェクトは、低コストで入手しやすいデザインや部品の開発を目指す、さまざまなハッキング分野のほかのプロジェクトと方向性を同じくするものだ。
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最初の完全なオープンソース
独立系研究者のダヴィデ・ゲッサは、Uncut Gemの回路図とコードをテストしている。