このまま地球の気温が上昇すれば、サンゴ礁が消失する未来がやってくる
気候変動が進み、海洋の温暖化と頻発する熱波がサンゴ礁を形成するサンゴに深刻な影響を及ぼしている。こうしたなか英国やオーストラリアの科学者の国際研究チームが、環境に適応した個体が生き残る自然選択でサンゴがどのように進化していくのかを評価するためのシミュレーションモデルを構築した。
研究を主導したニューカッスル大学のリアム・ラクスらの研究チームは、西太平洋に位置するパラオ諸島の個体群を対象に、サンゴが自然選択による進化と環境への適応によって地球温暖化を生き残れるかどうかをシミュレーションした。その結果、温暖化のスピードによってはサンゴの適応力が限界に達する可能性が高いことがわかった。サンゴ礁の未来は、パリ協定の目標を達成できるか否かにかかっているという。
「海洋熱波は熱帯の浅海でサンゴの大量白化を引き起こしており、この状況は今後も悪化していくことが予想されます」と、ラクスは説明する。サンゴの大量白化とは、海水温の上昇やサンゴと共生する植物プランクトンである褐虫藻が水質悪化により失われることで、サンゴの白い骨格が透けて見える現象である。
現行の気候政策なら気温は約3°C上昇
サンゴ礁は、天然の防波堤として海岸の侵食や浸水被害を低減してくれるほか、沿岸部における生態系の保全や炭素の吸収源といった役割を担っている。また、沿岸地域に住む人々にとっては、漁業や観光業といった経済活動を支える重要な存在でもある。
研究者たちによると、現行の気候政策を維持すれば、地球の気温は21世紀末までに約3°C上昇することが予想される。この場合、自然選択による進化で熱耐性を高めた一部のサンゴの個体群は生存する可能性があるものの、サンゴ礁全体では深刻な健康被害につながるという。特に、熱に敏感な種が局所的に絶滅するリスクが高まることがわかった。
さらに各国がパリ協定の目標を達成できなければ、21世紀のうちに地球の気温は3℃から5℃も上昇すると考えられている。このシナリオでは、もはや自然選択による進化に頼るだけではサンゴ礁を健康な状態に維持できない可能性が高いという。
こうした状況を回避するためには、世界規模での温室効果ガスの排出量削減と、サンゴ礁の保護を目的とした戦略的管理が必要不可欠とされている。後者については現在、自然環境におけるサンゴの遺伝的適応力を促進する研究が進められている。例えば、熱に強いサンゴの個体を選別して交配させることで、次世代の熱耐性を高めて気候変動によるストレスに耐えられるサンゴ礁の形成を目指すというものだ。
すべては気候変動対策の実現次第
この手法はいまのところ実験段階にあり、自然環境における応用に向けた技術的な課題が議論されている。このほか、サンゴ礁の一部を人工的に冷却するシステムや、サンゴに環境の変化に対する適応を促す刺激を与える手法なども研究されている。
サンゴ礁は海洋生態系における重要な役割を担っていることから、完全に喪失してしまえば生物多様性や海洋機能に及ぼす影響は計り知れない。今回のシミュレーションの結果は、サンゴ礁の機能と生物多様性の損失を自然選択による進化が緩和してくれる可能性を示している。しかし、それは迅速な気候変動対策が実現できるかどうかにかかっていると、ラクスは警鐘を鳴らしている。
(Edited by Daisuke Takimoto)
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