アロンソの”二の舞い”は御免だ!ハミルトンが幹部に宛てた「3通の改革文書」、7度の王者が仕掛けるフェラーリ革命の全貌

かつてフェラーリの復権に挑みながらもタイトルには届かなかった歴代王者たち──その轍を踏むつもりはない。そう語るルイス・ハミルトンは、シーズン前半の成果と課題を踏まえ、マシン開発や組織改革に向けた複数の提案文書をフェラーリ上層部に提出していることを明かした。

7度の王者が仕掛ける「フェラーリ革命」

フェラーリでの最初の半年は、ハミルトンにとってまさに波乱の連続だった。中国GPでスプリント勝利を飾った一方で、連続して予選Q2敗退を喫するなど苦戦が続き、チームメイトのシャルル・ルクレールが4度の表彰台を獲得するなか、ハミルトンは未だグランプリでの表彰台に手が届いていない。

だが、7度の世界王者は、ただの「名ばかりのエース」に甘んじることはなかった。彼はチームの変革を促す“内部改革者”として積極的な改革提案を行っている。

最も注目すべきは、ハミルトンがフェラーリ幹部に提出した複数の提案書の存在だ。いずれも、メルセデスで過ごした12年間の経験と知見を礎とし、技術開発から組織体制の強化に至るまで、多岐にわたる課題を網羅するものとなっている。

「最初の数戦が終わった後に1通目を送り、その後、今回の休みの間にさらに2通を提出したんだ」と語るハミルトン。文書のうち1つは組織構造に関する改善提案、もう1つは現行マシンの技術的課題の洗い出し、もう一つは2026年型マシンへの提言に焦点を当てたものだという。

特筆すべきは、ハミルトンがフェラーリの最上層部との直接対話を重視している点だ。チーム代表フレデリック・バスールはもちろん、ジョン・エルカン会長やベネデット・ヴィーニャCEO、さらにはパワーユニットや車体開発部門の責任者とも、綿密な技術的ディスカッションを行っている。

モチベーションは極めて高い。ハミルトンはすでに2026年型マシンの開発作業にも深く関与しており、「部屋に集まった30人のエンジニア、一人ひとりとデブリーフを行った」と明かし、その本気度をうかがわせた。

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

スパ・フランコルシャンのガレージ前に停車するルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月25日F1ベルギーGP FP1

ルクレールとの連携と共闘

この改革は、ハミルトン個人による単独行動ではない。チームメイトのルクレールもその一翼を担っている。

「僕らは2人でミーティングに参加し、改善すべき点を率直に話し合っている。すべての分野で足並みを揃えてチームと共に進んでいる」とルクレールは語る。若きモナコ人ドライバーとの連携は、ハミルトンにとって大きな推進力になっているようだ。

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

フェラーリのシャルル・ルクレールとルイス・ハミルトン、2025年7月24日F1ベルギーGPメディアデー

メルセデス流の成功哲学を移植

ハミルトンは、自身が築いたメルセデスでの成功体験をベースにしつつも、フェラーリの文化や伝統を尊重した上で改革を進めている。

「文化が違うんだから、状況だって当然違う。それと同時に、同じ道を歩いていては同じ結果しか得られない。だからこそ挑戦しているわけで、今は特定のことに取り組んでいる」と説明する。

フェラーリ側の反応も上々のようで、その取り組みは実際に効果を見せ始めているという。

「チームは非常に前向きに反応してくれている。マーケティングからスポンサー対応まで、多方面で改善が進んでいるし、エンジニアたちの働き方にも好影響が出ている」と手応えを口にした。

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

ガレージ内でチームメンバーと握手を交わすルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月24日F1ベルギーGPメディアデー

ハミルトンの積極的な行動の背景には、明確な危機感がある。過去20年間でフェラーリには数々の世界王者が在籍したが、キミ・ライコネンを除いて誰もタイトルを獲得できていない。フェルナンド・アロンソは5年間、セバスチャン・ベッテルは6年間在籍したが、いずれもタイトルには届かなかった。

「彼らと同じ運命を辿るなんてお断りだ」──ハミルトンの言葉には強い執念が込められていた。

「フェラーリには計り知れないポテンシャルがある。情熱の面では他の追随を許さない。ただ、組織が大きすぎるがゆえに、すべての部門が最大限に機能していない。それが、これまでタイトルを獲れなかった最大の理由だと思う」

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

表彰台の上で感極まったフェルナンド・アロンソ(フェラーリ)とミハエル・シューマッハ(メルセデス)、2012年ヨーロッパGPにて

オーストリアGPで投入された新型フロアに続き、ベルギーGPでは新型サスペンションが導入された。だがハミルトンは、その性能向上に対しては慎重な見方を崩していない。

ムジェロでのフィルミングデーにおいて初めてこのサスペンションを試した際の印象について、「特に変わった感触はなかった」と率直に評価した。また、スプリントフォーマットにより走行時間が限られるベルギーGPの週末においては、アップグレードの真価を引き出すのは容易ではないとの見方を示した。

それでも今後のサーキットでの効果には期待を寄せており、「新パーツが届くのを見るだけでもモチベーションになる」と前向きな面も強調した。

Courtesy Of Ferrari S.p.A.

スパ・フランコルシャンを周回するルイス・ハミルトン(フェラーリ)、2025年7月25日F1ベルギーGP FP1

崖っぷちの覚悟、フェラーリへの信念

「彼(18歳のアンドレア・キミ・アントネッリ)とは違って、僕にはもうそれほど多くの時間が残されていない。今が勝負の時なんだ」

37歳のハミルトンにとって、フェラーリでのタイトル獲得は、まさにキャリアの集大成であり、最後の挑戦と言っても過言ではない。本人も、その覚悟を胸に日々の取り組みに全力を注いでいる。

「このチームが再び、そして何度もタイトルを獲れると信じている」──そう語るハミルトンの強い信念は、停滞していたフェラーリを再び輝かせる原動力となるかもしれない。

アロンソも、ベッテルも成し遂げられなかった「フェラーリでの戴冠」。ハミルトンの描く青写真が現実となる日は訪れるのか。その行方に注目が集まる。

F1ベルギーGP特集

関連記事: