英財務相、次期予算案での所得税率の引き上げ撤回-英国債急落
英国のリーブス財務相が、26日に発表される予算案に所得税率引き上げを盛り込む計画を撤回した。予算責任局(OBR)が広く見込まれていたよりも良好な財政見通しを示したためだと関係者は説明したが、財政ショックが将来発生するリスクを英国に残したと、エコノミストらは指摘した。
慎重な取り扱いが求められる内容を話しているとして匿名を要請した関係者によると、従来は最大で350億ポンド(約7兆1000億円)にも達するとみられていた財政不足は、OBRの最新の予測では200億ポンドに近い数字で収まるとされている。従って、財政を好転させるとともに財政のゆとりを拡大するという2つの目標の達成に向けてリーブス氏が調達する必要のある額は、300億ポンド前後となる。
OBRの予測はなおも大幅な増税が必要であることを意味するが、所得税増税を行わないとした労働党の公約をリーブス氏は破らずに済む見通しになったという。同氏は公約を破る必要性を最近まで唱えていたが、党内の強い反対に直面していた。
だが、この方針の急転換は英国債の売りを招いた。一貫しないメッセージには投資家や政治家、アナリストらから不満の声が上がった。
元イングランド銀行金融政策委員のマイケル・ソーンダース氏は、政府の情報発信は信頼性を損ねていると論じ、「戦略を定めたら、それを貫く必要がある。ころころ方針を変えるようでは、政治的な弱さを印象づけるだけだ」と発言。「所得税を引き上げる意思はないと示したことで、財政問題が将来発生した際に対処できる余地は狭まった」と述べた。
リーヴス氏は公約破りとなる増税が受け入れられるよう国民に理解を求めることに先週の多くの時間を費やしていた。今回の方針転換は、労働党の支持率が低下している中で、公約破りをすれば党への打撃が大き過ぎるとの危機感も表していそうだ。
OBRは今週、最新の予測を提出した。関係者によると、賃金の上昇が生産性低下の一部を打ち消すほか、政府の借り入れコスト計算に国債利回りが急低下した期間を使うことを認めたOBRの決定も、財政見通しを好転させた。ブルームバーグ・エコノミクスはこの影響を約20億ポンドと算出している。
英財務省は書面で、「正式な発表機会を除き、税制変更に関する臆測にわれわれはコメントしない」と回答。「財務相が発表する新予算では、英国の将来を確かなものとするための強固な基盤を築く公正な選択が示される」と続けた。
予算案を巡って政権内では数日前、上級閣僚がスターマー首相の追い落としを図ろうとしているとの疑惑が浮上し、政権がどれだけ存続できるのか疑問が生じていた。ブルームバーグは13日、この件に詳しい関係者の話として、リーブス氏が予算案について最終決定を下せないでいるのは、疑惑への対応策について、閣内で議論が続いていることが一因だと報じた。
所得税増税を回避するとしても、英国が歳入の不足分をどのように補うのか投資家の間には疑問が広がり、英国債は急落している。
14日の取引で英10年債利回りは13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇して4.57%。ポンドは対ドルで0.2%安。英国株の指標であるFTSE100指数は一時2%安と、4月以来の大幅下落となった。
昨年の総選挙戦で労働党は、「勤労者」が支払う主要な税金である所得税、国民保険料、付加価値税(VAT)の3つを引き上げることはないと公約していた。事情に詳しい関係者によると、財務相は公約を破る用意をしていたが、財政見通しの改善でそれがもはや不要になった。
リーブス氏は所得税の基本税率や高額税率の適用額を据え置くことで従来の見通し以上の税収が上げられ、従業員が給与の一部を非現金性の給付に振り替える「給与犠牲プログラム」への課税を強化する方針だと、関係者は説明。リーブス氏は一段階上の税率が適用される基準額を引き下げることも検討したが、実行しないことに決めたと、関係者は付け加えた。
英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は、リーブス氏が所得税率引き上げを断念すると先んじて報道し、代わりに、所得税の税率が変わる基準額を引き下げる可能性があると伝えていた。
また、富裕層が英国から他国に移住する際に課す「清算税」の導入可否もリーブス氏は検討している。さらに、有限責任事業組合(LLP)を活用する個人からの税収増を狙う案についても、内容を緩和する可能性があるという。
原題:Reeves’ Tax U-Turn Came After Better Forecasts from UK Watchdog、Reeves’ Latest Reversal Leaves Britain Exposed to Next Crisis (抜粋)