「バンクーバー、ついに来た!」火山学者の最後の叫びが告げた「大噴火」
2025年8月25日、ブルーバックスより
『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書』の第1巻、第2巻が上梓された。
本書はアメリカの名門大学が採用する地球学教科書『UNDERSTANDING EARTH』(8th edition)を全3巻の構成で翻訳したものである。
第1巻と第2巻では、プレートテクトニクスから、マントル対流など地球内部の動き、それらによって生みだされる火山や地層、岩石変成など、地球の固体部分の大きな仕組みが手に取るように理解できるつくりになっている。
また、第3巻では、大気・海洋の大循環システムから、いまや避けられない関心事である温暖化、マクロ的視点でとらえた気候大変動など、地球の表層部分の大きなメカニズムを中心に学べるようになっている。
本シリーズは、基礎から専門的な知識までしっかりと学びたい高校生や大学生の教科書として最適であるだけでなく、さらに専門的な地球科学、惑星科学、地質学の科学書を知解するための基本知識を得ることのできる良質な入門書である。
この度ブルーバックス・ウェブサイトにて本書の一部を特別公開。我々が住む地球の「真実」をご覧ください。
*本記事は、『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書 第1巻』(ブルーバックス)を再構成・再編集してお送りします。
セントへレンズ山:危険だが予知は可能
太平洋の北西部沿岸を走るカスケード山脈中に位置するセントへレンズ山は、アメリカ本土でもっとも活発で爆発力の大きい火山だ(図5.6参照)。
セント・ヘレンズ山はアメリカ本土でもっとも活発で爆発力の大きい火山 photo by gettyimagesこの火山については、4500年にわたる破壊的な溶岩流や火砕流、火山泥流、広範囲におよぶ降灰の記録が残されている。
1980年3月20日から、火山の地下で小規模から中規模の地震が断続的に続いた。これは123年におよぶ休止期間を経て新たな噴火の局面に入ったことを示唆しており、アメリカ地質調査所はこの状況を踏まえて正式に災害警報を発した。
地震開始から1週間後、山頂に新たに開いた火口で火山灰と水蒸気による最初の爆発が起きた。
4月中を通して地震の回数は増え続け、マグマが山頂の直下まで上昇していることを示していた。また、不吉なことに北東山腹の膨張も検知されていた。そこで地質調査所はより厳しい警報を発出し、周辺に立ち入り禁止区域を設定して退去を命じた。
5月18日、にわかに大噴火が始まった。おそらくは大規模な地震が引き金となって、山体の北側が崩壊し、記録に残るかぎりで史上最大の山崩れが発生した。この巨大な岩屑なだれが斜面を駆け下りると同時に、高圧のガスと水蒸気が水平方向にも激しく噴出し、北側の山腹を吹き飛ばした。
地質調査所のデイヴィッド・A・ジョンストンは、山頂から北へ8km離れた観測点からセントへレンズ山を監視していた。ジョンストンは猛スピードで押し寄せる爆風(ブラスト波)に気づいたにちがいない。彼は無線に向かって最後の言葉を叫んだ――「バンクーバー、バンクーバー、ついに来た!」。
アメリカの火山学者デイヴィッド・A・ジョンストン(David Alexander Johnston 1949~1980年)超高温(500℃)の火山灰、ガス、水蒸気がハリケーンのような猛烈な勢いで、轟音を響かせながら割れ目から北に向かって噴き出し、火山から20km先まで幅30kmにわたる地域を破壊した。
また、上方に噴き出した噴煙柱に運ばれて、火山灰は上空2万5000mに達した。これは民間ジェット機の飛行高度の2倍もの高さだ。噴煙は卓越風に乗って東から北東にかけての方向へ流され、東に250km離れた地域でも太陽光が遮られて、日中も薄暗くなった。
さらに、ワシントン州の大部分やアイダホ州北部、モンタナ州西部では、火山灰が10cmも降り積もった。この爆発のエネルギーはTNTに換算すると、およそ25メガトンに相当する。セントへレンズ山の山頂は崩壊して、標高が400mほど低くなり、北側山腹は消失した。セントへレンズ山はいわば、中身をくり貫かれたような形になった。
1980年の大噴火のあとも、セントへレンズ山では地震やマグマの活動が断続的に続いている。比較的静穏な状態が10年以上続いたのち、2004年9月にふたたび火山活動が活発化し、水蒸気と火山灰の小規模な噴出が2005年にかけて繰り返し発生した。
中心火道の溶岩ドームの成長(下図参照)は、現在の噴火活動が今後もしばらく続く可能性を示唆している。
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【はじめから読む】<地球の内部は「ドロドロの液体」…! 当時の「常識を覆した」ドイツ人学者の「大発見」!>
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