行き場失ったウラン鉱石の山、原発見直し機運の裏側映す-地元と対立

米グランドキャニオンの南側から数マイルの地点にある森林の伐採地に、数千トンものウラン鉱石が積み上げられている。

  赤みがかった灰色や青色をしたその放射性の鉱石は、数カ月もそこに放置されたままだ。鉱山会社エナジー・フューエルズと、先住民ナバホ族の指導者ブー・ナイグレン氏との対立が原因となり、行き場を失った。

  ウラン鉱石を積んだエナジー・フューエルズのトラックが昨夏、テールランプに「放射能」のサインを貼り付けてナバホ族準自治領の中心部を走行。地元住民の強い反発を招いた。

  放射性物質と耳にすれば、どこであっても警戒が高まるが、ナバホ族の領地では恐怖心を呼び起こす。旧ソ連との核軍拡競争時代に米国を支え、その後放棄されて有毒廃棄物をまき散らしてきた何百ものウラン鉱山に囲まれているためだ。ここにきて原子力が再び脚光を浴び、南西部の鉱山全体でウラン採掘ラッシュが巻き起こっており、地元の懸念はさらに高まっている。

  トラックの進入を当日朝のニュースで知ったナイグレン氏は激怒した。輸送に関して、誰も事前に同意を求めていなかった。同氏はすぐに数十人の警察官にサイレンを鳴らして広範囲に展開し、トラックを阻止するよう命じた。

  結局、警察の捜索にもかかわらず、トラックはこっそりすり抜けた。だが、この強硬な対応はソーシャルメディアを通じても拡散され、ナバホ居留地には立ち入るなとの強い警告となった。

  主要ルートはすべてナバホ居留地を通っており、エナジー・フューエルズは米国内で唯一の精製工場から寸断された状態に陥った。同社幹部は鉱山の入り口に鉱石を積み上げた。鉱石の山が大きくなりすぎると、坑道から労働者を退避させるとともに、掘削機を停止させた。

グランドキャニオンの近くにあるエナジー・フューエルズの鉱山

  今回の対立は、原子力発電の再評価が世界的に進む中で、醜い一面をさらけ出している。人工知能(AI)ブームや気候変動対策を支えるクリーンエネルギーの安定供給源として原発への期待が高まっているのは確かだ。ロシアのプーチン大統領によるウクライナ侵攻を受けて、ロシア産原油・ガスの代替としても存在感を増している。

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  一方で、懸念も存在する。ナバホ族居留地では、冷戦時代の鉱山が閉鎖されてから数十年たった今も、地元ではがん患者の症例が報告されている。

  ナイグレン氏(38)はインタビューで「何世代にもわたって、ナバホ族は苦しめられてきた」とし、「ウランは他の場所で探してくれ」と語った。

  実のところ、同地域のエナジー・フューエルズの鉱山やここ数年に南西部で稼働した他の複数の鉱山には、それほど多くのウランは存在しない。

  これらは閉鎖された鉱山の、手つかずの鉱脈を掘り起こしているに過ぎないのだ。背景には、2011年の福島第1原発事故を受けた世界的な原発離れでウラン市場が崩壊し、鉱山が閉鎖に追い込まれていた事情がある。それらをすべて合わせても、カナダ、カザフスタン、ナミビアの優良鉱山の埋蔵量に比べると足元にも及ばない。

  この地域の採掘ラッシュは、世界でいかにウラン需要が高まっているかを如実に物語る。ウラン価格は1ポンド=約70ドルと、過去5年間で約200%急騰した。これらの古い鉱区の採掘権を所有していた鉱業会社の株価も大きく跳ね上がり、大半がペニー株から大変身を遂げた。

  エナジー・フューエルズの時価総額は10億ドル(約1580億円)超と、2020年初頭から約500%上昇している。

エナジー・フューエルズの鉱山に積み上げられたウラン鉱石

原題:Police Hunt for ‘Radioactive’ Truck Stokes Uranium Mine Standoff(抜粋)

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