地球に迫るメガトン級破壊力の小惑星「アポフィス」の正体 4年後の最接近で衝突の確率は?
小惑星「アポフィス」が地球に接近しつつある。これまで何度も地球への衝突の可能性が指摘されてきた小惑星だ。4年後の2029年、地球に衝突する可能性を完全には否定できないという。
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小惑星アポフィスは2004年6月、米国アリゾナ州の天文台が発見した。アポフィスの軌道は地球の軌道と交差していた。衝突の危険性から、古代エジプト神話に登場する「邪悪な蛇」の名がつけられた。
同年12月、米航空宇宙局(NASA)は、29年4月13日にアポフィスが地球に衝突する確率を「1/300程度」と公表した。
小惑星とはいえ、地球に衝突すれば、甚大な被害が予想される。世界中の研究者が騒然とするなか、アポフィスの観測が本格化した。
2012年に撮影された小惑星アポフィス(矢印)=日本スペースガードセンター提供500メガトンの爆発力
NPO日本スペースガード協会の浅見敦夫副理事長もその1人だ。岡山県井原市にある「美星スペースガードセンター」(現在は宇宙航空研究開発機構〈JAXA〉に移管)の望遠鏡で観測に加わった。浅見さんはこう話す。
「観測を繰り返すと、アポフィスが地球に迫ってくることをリアルに感じました」
浅見さんは当時の観測データや写真をパソコンの画面に表示しながら説明する。
世界中から集まった膨大な観測データによって、アポフィスの素顔も見えてきた。
大きさは約340メートル。JAXAの探査機「はやぶさ」が着陸した小惑星イトカワに似た、細長いピーナツのような形をしている。
もし、アポフィスが地球に衝突したら、どのような被害が発生するのか。
NASAによると、衝突のエネルギーはTNT火薬に換算して500メガトン。広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」(15キロトンとした場合)の約3万倍にあたる。
「東京を直撃すれば、被害を少なく見積もっても、23区内は壊滅するでしょう」(浅見さん、以下同)
浅見さんは被害の範囲が拡大する可能性も指摘する。NASAはアポフィスを、小さな岩石が集まって形成された小惑星だと推定するからだ。
「仮にアポフィスが大気圏に突入すれば、形を保つことができず、地表から30~40キロで爆発的に崩壊すると思われます。衝撃波は広範囲に及び、隕石が降り注ぐでしょう」
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13年、ロシア・チェリャビンスク州の隕石落下では、直径約20メートルの小惑星が地球に衝突したといわれている。上空で爆発した際の衝撃波によって南北約200キロ、東西約100キロの建物に被害が出た。約1500人が負傷した。
1908年にロシア・シベリアで発生した「ツングースカ大爆発」の原因は、直径50メートルほどの天体の衝突だったと推定されている。東京都とほぼ同じ面積の約2000平方キロにわたって樹木がなぎ倒された。
くすぶる衝突の可能性
アポフィスに対する緻密な観測から、「2029年に地球に衝突する可能性」は05年ごろに一度、否定されている。だが、その後も「衝突」の可能性が度々指摘されてきた。
08年、ドイツの13歳の少年が、「29年の地球接近時に人工衛星と衝突する可能性があり、それによって36年の接近時に地球と衝突する確率が上昇する」と指摘した。
「欧州宇宙機関(ESA)は少年の計算が正しいと認めた、と報道されたことから、また騒ぎになりました」
NASAが、「アポフィスは人工衛星の密集地帯から離れた空間を通過するため、衛星と衝突する可能性は低い」とアナウンスして、騒ぎは収まった。
今年8月には、カナダ・西オンタリオ大学の天文学者、ポール・ウィーガート氏が、29年までにアポフィスが別の小惑星と衝突すると、軌道が変化する可能性を示唆した論文を学会誌に発表。論文によると、アポフィスが別の小惑星との衝突によって大きく方向を変える確率は100万分の1以下、地球にとって危険な方向転換の確率は10億分の1だという。
「29年にアポフィスが地球に衝突する可能性はゼロではありませんが、限りなくゼロに近いといえるでしょう」
アポフィスは29年4月13日、地球をかすめるように最接近する。地球の引力によってアポフィスの軌道が変化するほどだ。最も観測条件のよい欧州では、夜空を横切る3等星ほどの明るさのアポフィスを肉眼で見られるという。
直径100メートルの小惑星が落下すると直径1.6キロのクレーターが生じる=浅見敦夫さん提供先月も小惑星が衝突
「人類は運がいい。小惑星の衝突による壊滅的な被害を免れてきました」
そう浅見さんは言う。だが、「大災害が起きるのは時間の問題」だとも話す。
これまでも、ごく小さな小惑星が地球に衝突することは度々起こっている。
たとえば、小惑星「2024 XA1」は24年12月3日に発見され、翌日にはロシア・バイカル湖の北東約800キロの上空で大気圏に突入した。直径0.7~1.5メートル。発見から衝突までの時間は約10時間だった。
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これを含め、同年は少なくとも4回、小惑星が地球に衝突している。発見から衝突まで2時間未満の小惑星もあった。
衝突による被害を減らすには、「事前に小惑星を発見して軌道をつかむこと」が重要だという。
「小惑星の軌道が判明していれば、予測した衝突地点から住民を避難させることができる。小惑星に人工衛星を高速で衝突させ、軌道を変える技術の実証実験も行われています」
これまでに確認された小惑星は約142万個もある。そのうち、約1150個は美星スペースガードセンターで発見されたものだ。
「アポフィスと同程度の大きさの小惑星であれば、現在、約50%の確率で見つけることができます」
観測上の課題は、「昼間に星は見えない」こと。つまり、太陽の方向から接近する小惑星は地上の望遠鏡では見つけることはできない。昼夜問わず観測できる人工衛星による監視網が必要だという。
名古屋に直径100メートルの小惑星が落下した場合の被害想定=浅見敦夫さん提供世界の防災に役立つ
小惑星などの衝突から地球を守ることを、「プラネタリーディフェンス」という。
欧米各国は政府機関がプラネタリーディフェンスに取り組んでいるが、日本では残念ながらJAXAから委託された日本スペースガードセンター協会が主に観測を行っているだけだという。
「小惑星衝突は避けがたい自然災害です。社会課題として取り組むことが望ましい」
12月19日、石破首相は防災推進国民会議で、「日本を世界一の防災大国にしたい。世界に防災意識、防災技術を広める国になりたい」と語った。
アポフィスは29年の後も、36年、68年に接近する。NASAは「今後、100年間は衝突の危険性はない」というが、その後はわからない。地球規模の危機に、日本も「防災庁」で本格的に取り組むのはどうだろうか。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)