日銀利上げへ関心高めるネット世論、家計を揺さぶる「金利ある世界」
日本銀行が24日に決定した追加利上げについて、人々はその影響をより身近な問題として受け止めるようになっているようだ。動画サイトへの投稿では家計の負担増加への不安を示唆する単語が増えており、利上げに対する関心の高まりを示している。
決定会合後のユーチューブに投稿されたコメントを東京大学発のAIベンチャー、TDAI Lab代表の福馬智生氏が分析したところ、頻出語ランキングの上位に「インフレ」「住宅」「ローン」などが浮上した。植田和男総裁が利上げに踏み切った昨年3月会合後の投稿では「国債」「企業」「金融」、7月会合後は「景気」「財務省」「岸田」などが目立っていた。
利上げを巡っては1月を含む3会合を通じて否定的な意見が約8割を占めたという。福馬氏は、「利上げに対するスタンス自体に大きな変化はない」としながらも、注目するポイントが「大枠の政策全体から、生活や日常に直結する具体的な影響へと移った」と分析した。
物価高が続く中、追加利上げに伴い住宅ローン金利の上昇に伴う利払い費の増加は、残高の多い若い世代を中心に家計を圧迫する。今回の利上げで政策金利が2008年以来の高水準となり、先行きさらなる金利上昇が予想される中、低金利に慣れていた個人も「金利のある世界」に一段と敏感になっている。
日銀が17日発表した「生活意識に関するアンケート調査」によると、金利水準について「低すぎる」との回答が44%で最も多かった一方、「高すぎる」が20.5%と前回(15.9%)から増加。1年前に比べて現在の物価が上がったとの回答割合は95.1%で、このうち86.7%が「どちらかと言えば、困ったことだ」と答えた。
住宅金融支援機構の昨年10月の調査では、今後1年間で住宅ローン金利が上昇すると予想する利用者は63%と、前回4月調査(51%)から増加した。
世代間で明暗
一方、家計の金融資産残高2179兆円と負債残高(392兆円)を上回り、利上げは家計の利息収入を押し上げる方向に作用する。みずほリサーチ&テクノロジーズの服部直樹シニアエコノミストは、家計全体で利上げのプラス効果は6000億円と試算。大和総研の中村華奈子エコノミスト、久後翔太郎シニアエコノミストは、純利息収入が2000億円程度増加すると見込む。
ただ、世代間でその影響に差が出る可能性が高い。住宅ローンの返済を終えて預貯金が相対的に多い高齢世帯で利上げの恩恵が期待される一方、今後住宅を購入する、あるいは住宅ローンの残高が大きい若者世帯ではマイナスの影響が出やすい。
大和総研の試算によると、中所得の勤労者世帯や30-40歳代の世帯の家計への打撃が最も大きい。30-40歳代の過去約5年の実質消費減少額は他の年代より大きく、「利払い負担の増加がこれらの世帯のマインドを一段と悪化させれば、個人消費を下押しする可能性がある」と記した。
「手取りを増やす」を公約に掲げ、昨年の衆院選で大躍進した国民民主党の古川元久代表代行は29日の会見で、日銀の利上げはマイナスの影響の方が大きいと指摘。個人の住宅ローンや企業の利払い費増加で「前向きな動きに水を差すことにつながりかねない」と語った。
生成AIを活用して交流サイト(SNS)など情報空間の分析を行い、偽情報対策や選挙時のネット世論などの分析も手がけるTDAI Labは、過去3回の日銀会合の決定発表から翌日午後11時59分までに投稿されたユーチューブ動画を「日銀 利上げ」のキーワードで収集。それぞれ再生回数の多い最大100本から合計8500件のコメントを、米オープンAIの大規模言語モデル「GPT-4o mini」を用いて分析した。
この記事は一部にブルームバーグ・オートメーションを利用しています