トランプ氏の貿易戦争リスク、アジアはどう乗り切るか-投資ガイド

トランプ次期米政権による関税の脅威がアジアの株式市場や通貨を揺るがしているが、20日の大統領就任で、アジア市場には一段のボラティリティーがもたらされる見通しだ。

  最も敵対的な貿易措置は中国を対象としたものになる公算が大きいが、トランプ氏の「米国第一」政策はサプライチェーンの見直しを迫っており、アジアで影響を免れる企業はほとんどないだろう。こうした不確実性がさらに株価の重しとなる可能性がある。

  アジア地域は輸出に依存する面があり、トランプ次期大統領の就任前から、保護主義的な政策を巡る懸念や景気への影響により、市場は大きく揺れ動いた。中央銀行は既にドル高見通しへの対応に追われている。

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  一方で、トレーダーらは関税が抑制されたものにとどまる可能性という上振れ要因にも備えなければならない。その場合、アジア資産全体のリリーフラリー(買い安心感による相場上昇)に拍車が掛かる可能性もある。

  サクソ・マーケッツのチーフ投資ストラテジスト、チャル・チャナナ氏は「トランプ政権発足後の100日間が大きな焦点で、関税の規模とターゲットが注目される」と指摘。「テクノロジーや電気自動車(EV)のサプライチェーンは貿易政策を巡る混乱にとりわけ脆弱(ぜいじゃく)だ」と語った。

  トランプ次期政権発足で注目される一部のセクターは以下の通り。

テクノロジー

  半導体は米中テクノロジー対立の最前線にあり、米政府は最先端部品の対中輸出を抑制するために規制を強化した。一方、中国は独自の制限措置で対抗しており、トランプ次期政権下ではこうした報復合戦が強まることが予想される。

  影響は広範囲にわたる。産業の自立を目指す中国当局の動きは現地の半導体株にとっては追い風で、中芯国際集成電路製造(SMIC)の上海上場株は昨年9月の安値から2倍余りに上昇した。

  米政府は中国が先端半導体を入手できないよう規制を強化しており、韓国のサムスン電子や台湾積体電路製造(TSMC)などアジア半導体大手の中国売上高に注目が集まっている。

  こうした包括的な制限措置がすでに講じられているということは、ここから事態が大きく悪化することはないことを意味する可能性もある。

  オルタス・アドバイザーズのストラテジスト、アンドルー・ジャクソン氏はトランプ氏のスタンスについて、バイデン政権が設定したハードルはすでにかなり高く、それに比べて過度に厳しいものにはならないだろうとの見方を示す。「それどころか彼が後退させる余地もあるかもしれない」とも述べた。

EVやバッテリー

  トランプ氏は化石燃料の生産を優先し、環境面の懸念を重視しておらず、EV普及の促進を目的とした税控除を廃止する恐れがある。

  昨年の米大統領選でトランプ氏が勝利して以降、サムスンSDIやLG化学など韓国のEV用バッテリーサプライヤーの株価は、20%余り下落した。

  安価な製品で世界の市場を席巻し、米国が監視を強める中国の太陽光パネルメーカーにとっても、見通しは明るくない。

銀行や自動車

  トランプ次期政権の政策がインフレを誘発し、金利は高止まりすると見込まれる中、日本では銀行株がアウトパフォームしている。また、規制緩和の推進により、米国で事業を展開する金融大手の収益が改善する可能性もある。

  自動車メーカーの見通しはまちまちで、関税引き上げが主なリスクとなる一方、中国のライバル企業への打撃が大きくなれば好材料となる可能性もある。

債券には追い風か

  貿易摩擦がアジア地域の経済に打撃を与える可能性があり、中央銀行による金融緩和でアジア債は下支えされる公算が大きい。

  インドネシア中銀は15日、景気支援に向けた利下げで市場を驚かせ、韓国銀行は政治的リスクが後退すれば追加緩和の可能性が大きいと説明した。中国人民銀行は今年、主要金利を引き下げると予想されている。

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  金利差が米国に有利に働くため、通貨は脆弱なままだ。トランプ氏が大統領選で勝利して以降、アジア通貨の指数は3%余り下落している。

  バンク・オブ・ニューヨーク・メロンのアジア太平洋担当シニアマーケットストラテジスト、ウィー・クーン・チョン氏は「緩和サイクルは短期的にはアジアの現地通貨建て債の支援材料になる」と指摘。ただ、外国人投資家にとってはヘッジコストが高いため、海外需要の回復にはアジア通貨の安定を待つ必要があるかもしれないと付け加えた。

原題:A Trader’s Guide to Navigating Trump’s Trade War Risks in Asia(抜粋)

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