「日本は敵性国家」、処理水放出は「宣戦布告」…韓国大統領有力候補、李氏の「妄言集」
韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領の弾劾罷免に伴う次期大統領選で、選挙戦をリードする最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)前代表に対抗しようと、保守系与党「国民の力」側が李氏の問題発言をまとめた語録「妄言集」を発表した。日本敵視発言や「陰謀論」に近い主張を繰り返してきた李氏が国を治める危険性を強調する内容となったが、なりふり構わない与党のネガティブ・キャンペーンに冷ややかな反応も少なくない。
自衛隊を敵視、日米との合同訓練は「国防惨事」
「妄言集」は3月下旬、与党ナンバー2の権性東(クォン・ソンドン)院内代表が出版を発表。過去に波紋を呼んだ李氏の発言計138個を紹介する内容となった。尹氏の大統領罷免の判断が出る前のタイミングでの出版は、表面上は弾劾反対を訴えつつ、罷免を見越して大統領選への準備を進める与党の姿勢を公然と示した。
語録の中で、李氏が一貫して批判的な視線を向ける対象の一つが、日本だ。2016年、当時の朴槿恵(パク・クネ)政権が日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した際、ソウル近郊の城南市長だった李氏はフェイスブックでこう主張した。(以下、《》は語録に収められた発言)
《軍事的側面からすれば、依然として日本は敵性国家であり、日本が軍事大国化する場合、最初に攻撃対象になるのが朝鮮半島であることは自明だ。そんな日本に軍事情報を提供し、日本の軍隊を公認する軍事協定だなんて…》
22年の前回大統領選で尹氏に惜敗し、最大野党の党代表に就任した後も李氏の対日スタンスは一貫している。尹政権下で日米との安全保障協力が強化された22年には、日本海上で実施された3カ国訓練をこう批判した。
《韓米日軍事訓練をすれば、日本の自衛隊を正式な軍隊として認めるように見えるのではないか。外交惨事に続く国防惨事であり、極端な親日行為、極端な親日国防だ》
尹政権が取り組んだ日韓関係の改善と反比例するように、李氏の対日発言は過激化していく。東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出が実施された23年8月には、日本との「戦争」にまで言及した。
《日本が越えてはならない線を越えた。核汚染水の放流は、(韓国を含む)太平洋沿岸国家に対する戦争を宣布したものだ》
一方、昨年12月に尹氏が弾劾訴追され、自身の大統領就任が現実味を帯び始めると、「個人的に日本に対する愛情はとても深い」「韓日関係は敵対的でなく、日本の国防力強化は脅威ではない」などと述べ、李氏は対日スタンスを大きく転換している。
尹氏と重なる「アンチ司法」発言
「実用主義」を標榜(ひょうぼう)し、状況に応じてあっさりと前言を翻す李氏の行動原理は「妄言集」に記載された他の発言からも確認できる。
尹氏の大統領弾劾を巡り、李氏は「民主共和国で憲法秩序に従った決定が下されれば、承服しないでどうするのか」と述べ、憲法裁の決定に従うよう尹氏に促した。
一方、8年前の17年2月には、憲法裁の判断に対して正反対の考えを示していた。当時、憲法裁では朴槿恵氏弾劾に関する審理が進行中だった。
《国家機関(憲法裁)の決定に従わなければならないという議論には失望させられる。私は同意しない》
李氏は朴氏に批判的な立場。憲法裁が罷免を退けたとしても、その判断は受け入れられない、という主旨の強硬発言だ。
検事出身の尹氏と、弁護士出身の李氏。ともに法曹出身でありながら、司法への不信感を隠さないのは共通といえる。
李氏はさらに、保守系与党が惨敗した昨年4月の総選挙で開票不正があったとの主張を展開した尹氏と同様、過去の選挙で開票不正の「陰謀論」を開陳している。保守系の朴槿恵氏が当選した12年の大統領選について、結果を認めない立場を明らかにしていた。
《大統領選挙は(李承晩政権下で行われた1960年の)3・15不正選挙をしのぐ不正選挙でした。国家機関の大々的な選挙介入に開票不正まで…。手作業で開票し、不正を遮断しなければいけません》
妄言ではなく、実は「名言集」?
与党幹部の権氏は語録の冒頭あいさつで、「過去は未来を映す鏡」だと強調。内政・外交のあらゆる分野で変遷する李氏の言葉は「国民を欺く道具に過ぎない」と主張した。与党は語録を通じ、李氏の大統領としての資質に問題があることをアピールする構えだ。
しかし、出版に対する反応は必ずしも思惑通りになっていない。「妄言とはいえない発言まで多数掲載され、野党支持者らは『名言集』として喜んでいる」(革新系のハンギョレ紙)。語録には、李氏の真意や主張の一貫性はさておき、「正論」を訴えた発言も多く収録されたためだ。
《誰かは政治報復をやめなければならず、機会があれば当然私の段階でやめる》
《政治的利益を得ようととする「安全保障ポピュリズム」は国を滅ぼす道だ》
《フェイクニュースは民主主義の敵だ。われわれ民主党の力量を総動員して厳重に責任を問い、必ず退治する》
共に民主党は報道官名義の論評で、「妄言集」について「李在明代表の苦悩と考えに共感するのに役立ちそうだ。代表の情熱、韓国を変えようとする代表の意思が本に込められた」と皮肉たっぷりに評価。選挙戦を優勢に進める陣営の余裕をうかがわせた。