米雇用統計で債券相場に転機、ペイントレードが報われる展開に

債券投資家の間で疑念が強まっていた戦略が、足元で息を吹き返している。過去約1カ月にわたり下落が続いていた米国債相場は1日、朝方発表された7月米雇用統計が予想以上に弱い数字となったことを受けて急伸した。

  同統計では、過去2カ月の非農業部門雇用者数が計25万8000人という大幅な下方修正となったこともあり、市場では利下げ観測が強まった。金利先物市場では9月利下げの確率を84%と織り込み、年内に少なくとも2回の利下げが行われるとの見方が広がっている。 

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  ウィズダムツリーの債券戦略責任者ケビン・フラナガン氏は「今や労働市場の環境は一変した。25万人もの下方修正があれば、見方が変わるのも当然だ」と語った。

  雇用統計ショックは債券相場全体を押し上げたが、とりわけ動きが大きかったのは短期債だった。政策金利動向に敏感な2年債の利回りは25ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)余り低下。これにより、短期債と長期債の利回り格差が拡大し、イールドカーブのスティープ化に賭けていた投資家に利益をもたらした。

  この戦略は4月以降ほぼ低迷が続き、7月の大半では損失を抱える「ペイントレード(痛みを伴う取引)」となったことで、多くの投資家が手仕舞いに動いていた。そうした中でもスティープ化を見込んだ取引を続けていた投資家にとって、1日の相場は自らの判断を裏付ける結果となった。

  RBCグローバル・アセット・マネジメントのブルーベイ・フィクスト・インカム部門で最高投資責任者(CIO)を務めるマーク・ダウディング氏は「スティープ化への賭けは引き続き有望だと考えており、今回の値動きは好ましい展開だ」と述べた。同氏は2年債と30年債の利回り格差拡大を見込んだ投資を行っている。

  この利回り格差は1日、雇用統計を受けてトレーダーが一斉にポジション再構築に動いたことで急拡大した。

  雇用統計発表後に見られた米国債への資金流入は、株式や他のリスク資産が大幅安となる中で生じたもので、それまでの動きからは一転した格好だ。

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  雇用統計前に投資家の念頭にあったのは、7月30日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長のタカ派的発言だった。パウエル議長は雇用市場には下振れリスクがあるものの、依然として堅調だとの認識を示し、堅調な経済指標や当局目標をやや上回るインフレ率を踏まえ、金融政策の調整については忍耐強い姿勢を強調した。

  「パウエル議長は事実上、9月の利下げを否定した」と、ミシュラー・ファイナンシャル・グループのマネジングディレクター、トニー・ファレン氏は指摘。しかし雇用統計の数字があまりに弱かったために、投資家はポジションの再構築を強いられたと語った。

  7月雇用統計は、利下げを開始すべきだと考える向きにとって、その主張を裏付ける材料にもなった。トランプ大統領はパウエル議長に一貫して利下げを求めてきたが、FRBのウォラー理事とボウマン副議長(銀行監督担当)も1日、利下げへの慎重姿勢を継続することが労働市場に不必要な打撃を与える恐れがあるとの懸念を示した。

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  パウエル議長に対して圧力を強めているトランプ氏は雇用統計発表から数時間後、労働省労働統計局(BLS)のエリカ・マッケンターファー局長を解任。雇用統計を政治目的で利用したとして、証拠を示さずにマッケンターファー氏を非難した。これが、不安定な市場心理にさらなる揺さぶりをかけた。

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  市場の動揺がいったん落ち着けば、トレーダーは1日の国債相場上昇が、雇用統計発表前に市場を圧迫していた弱気なセンチメントの反動に過ぎなかったのかどうかを見極める必要がある。債券強気派にとっての課題は、今回示された雇用の悪化が、関税によって今後数カ月にインフレ圧力が高まるとの懸念を打ち消すほど、景気の大幅な減速を示しているかどうかにある。

  今回の雇用統計はあくまで一つの指標にすぎない。次回のFOMC会合までには、2回のインフレ統計や次の雇用統計を含む重要な経済指標の発表が控えている。 

  JPモルガン・インベストメント・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「7月雇用統計は9月の利下げの可能性を確かに高める内容だが、まだ確定とは言えない。失業率は依然として低く、関税の実効税率上昇に伴うインフレの上振れリスクも残っている」と述べた。

原題:Bond Market’s Pain Trade Turns to Payoff on Jobs Shock(抜粋)

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