2026年9月20日のロシア大規模空襲に使用されたウクライナのドローンとミサイルの10種類を解説(JSF)
9月20日にウクライナのゼレンスキー大統領は、過去最大規模となるロシアへの長距離ドローン・ミサイル攻撃による空襲(記事)を報告した際に使用した10種類の兵器を言及しています。ここではこの10種類の兵器について紹介します。
- FP-1
- RZ-100
- MICH-2000
- Palianytsia
- Vendetta
- Liutyi
- Bars
- Flamingo
- Sichen
- Pelican
出典:@ZelenskyyUa
①FP-1長距離自爆無人機
※ウクライナ新興軍需企業ファイアポイント社の製品「FP-1/2」自爆無人機の紹介
ウクライナ新興軍需企業ファイアポイント社のプロペラ推進式の長距離自爆無人機「FP-1」は、最新モデルでは最大射程3400kmにも達する長射程を誇り、GPS誘導で敵固定目標を狙います。モスクワ攻撃ではそれより射程が短い代わりに弾頭重量が重いモデルが使用されたと考えられます。なおFP-1の派生型FP-2は射程が短い代わりに更なる大重量弾頭を搭載して遠隔操作が可能なモデルです。巡航速度は各モデルごとに140~180km/hとなっています。
FP-1の発進はRATO(離陸補助ロケット)を用いて、加速が終了するとRATOを切り離し、プロペラ推進による巡航飛行に入ります。このため車輪などは持ちません。
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②RZ-100モロク長距離自爆無人機
「RZ-100 Morok(モロク)」は2023年頃からウクライナ保安庁が使い始めた長距離自爆無人機です。プロペラ推進式ですが300km/h前後の速度を発揮可能な高速寄りの設計が特徴となっています。なおMorok(モロク)とは宇語や露語のМорок(モロク)のことで、意味は闇や霧で、神話や詩的な表現です。RZ-100モロクの原設計は射撃訓練用のウクライナ国産のRZ-60標的ドローンであり、爆発弾頭を搭載して自爆無人機化しています。なおRZ-100モロクの発進もRATOを用います。
③MICH-2000長距離自爆無人機
『中国製の「小鳥」がいかにしてウクライナの長距離攻撃用兵器となったのか―SBU(ウクライナ保安庁)の「アルファ」部隊が運用した謎めいた「MICH-2000」ドローンの物語』、メジャ誌(Межа)の「オボロンカ(Оборонка)」プロジェクト(2026年8月12日)
MICH-2000は長らく存在だけ知られていた謎のプロペラ推進式の長距離自爆無人機でしたが、最近になって正体は中国の香港に本拠を置くZDK社の「ZDK-150」ドローンのコピー生産と判明しています。なおMICH-2000の発進もRATOを用います。(※オボロンカの記事に発進の様子の動画あり)
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④パリャヌィツィア小型巡航ミサイル
- 全長:3.5m
- 全幅:1.7m
- 発射重量:350kg
- 弾頭重量:100kg
- 最大射程:650km
- 最大速度:900km/h
- 巡航速度:800km/h
- 巡航高度:15–500m
※ウクライナ側はパリャヌィツィアを「Ракета-дрон(ラケータ・ドローン:ラケータとはミサイルの意味)」という種類で呼んでいるが、実態はジェットエンジンで飛行する小型巡航ミサイル。
※パリャヌィツィアは「UAV-290」という名前も持っており、この名前で国外の武器展示会に出展されたことが既に何度かある。
※発進はRATOを使用。
ウクライナ語の「Паляниця」のキリル文字を転写してラテン文字したものが「Palianytsia」で、カタカナで書くと「パリャヌィツィア」です。この言葉はウクライナのパンの意味ですが、ロシア人にとって発音が難しく(露語話者はポラニツァという発音になりやすい)、不審人物の尋問でロシア人かウクライナ人かを見分ける際に符牒として使われる場合があります。
なおパリャヌィツィア小型巡航ミサイルは2024年8月25日の初公開時のイメージ絵と実機の形状が全く異なっています。パリャヌィツィアのイメージ絵は主翼が胴体の前方寄りに付いていましたが、実機の主翼は胴体の中央付近に装着されています。また全く無関係なイギリスのModini社の「Dart 250」ジェット推進無人機をパリャヌィツィアだと誤解して写真を紹介するケースが複数のウクライナ誌で散見されるので、注意してください。
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パリャヌィツィアと誤解されて報道されることの多い「ダート250」
※1. 多くの投稿が、このドローンをウクライナ製のPalyanytsia(パリャヌィツィア)と誤って表記しています。実際にはこの写真はほぼ確実にイギリスの企業Modini(モディニ)が製造した「Dart 250(ダート250)」ドローンの試作型を示しています。
パリャヌィツィア(UAV-290)
※パリャヌィツィアは「UAV-290」という名前も持っており、この名前で国外の武器展示会に出展されたことが既に何度かある。UAVは英語で Unmanned Aerial Vehicle の略語なので、ウクライナはどう見ても巡航ミサイルの形状をしているこの兵器を無人航空機(航空ドローン)扱いしている。
⑤Vendetta(ヴェンデッタ)自爆無人機?
詳細は不明の謎の兵器です。おそらく自爆無人機だと思われますが、正体が全く分かりません。Vendetta(ヴェンデッタ)」はイタリア語で「血の復讐」を意味する言葉ですが、なぜイタリア語なのかも不明です。
⑥An-196リューティイ長距離自爆無人機
ウクライナ国営防衛企業ウクロボロンプロムやアントノフ社が2022年に開発開始したプロペラ推進式の長距離自爆無人機がAn-196リューティイです。リューティイとはウクライナ語でЛютий、キリル文字をラテン文字に転写するとLiutyiですが、意味は「2月」です。そして「厳しい、冷酷な、苛烈な」という意味も持ちます。これは2月が極寒期であることから連想されたものでしょう。そしてロシア-ウクライナ戦争は2022年2月24日から開始されました。ウクライナが自身初の長距離報復兵器に「2月」と命名したのは、開戦日を意識した可能性があります。
An-196リューティイの機体サイズはウクライナの他の長距離自爆無人機と比較するとFP-1よりやや大きく、ロシアのゲラン2(シャヘド136)などとも近い大きさです。なおAn-196リューティイは車輪を持ち、滑走路や道路を自走発進して離陸します。ただし最近では車輪を外してRATOで発進する改良型も登場しています。
⑦バルス小型巡航ミサイル
※ウクライナ側はバルスを「Ракета-дрон(ラケータ・ドローン:ラケータとはミサイルの意味)」という種類で呼んでいるが、実態はジェットエンジンで飛行する小型巡航ミサイル。
※発進はRATOを使用。
ウクライナ語でБарс、このキリル文字をラテン文字に転写するとBars、カタカナで表記するとバルスです。意味はユキヒョウ(雪豹)になります。ジェットエンジンは胴体後部の上部に装着する簡易な設計です。低コストで生産できて量産性が非常に高く、9月18日のウクライナNV誌のインタビュー記事では「月産2000機」という凄まじい数を量産中と製造関係者がコメントしています。出典:The New Voice of Ukraine (NV)
事実ならばロシア側のジェット自爆無人機(ゲラン4、ゲラン5,バンデロール)と同等の月間生産数を、ウクライナ側はバルス1機種のみで達成していることになります。ただし戦争中の兵器の生産能力は軍事機密に類するものであり、わざと間違った欺瞞用の数字を出している可能性も有り得ます。
⑧FP-5フラミンゴ大型巡航ミサイル
※FP-5フラミンゴ:発射重量6トンにも達する巨大な巡航ミサイル。搭載するジェットエンジンは単発ジェット練習機が使用するものと同クラスを用いる。プロペラ推進の長距離自爆無人機が発射重量300kg前後、小型巡航ミサイルが300~500kg、通常の巡航ミサイルが1~1.5トン程度の重量が多いのと比べると、FP-5フラミンゴは亜音速巡航ミサイルとしては破格に大きい。
※「Flamingo」は宇語で「Фламінго」で発音は「フラミンホ」になるが、英語式の「フラミンゴ」という発音でもそのまま通じる。
- 最大射程:3000km
- 弾頭重量:1150kg
- 発射重量:6000kg
- 機体全長:12~14m(推定)
- 主翼の幅:6m
- 命中精度:14m(半数必中界)
- エンジン:イーウチェンコAI-25TL
- 最高速度:950km/h
- 巡航速度:650~700km/h
- 航法装置:GNSSおよびINS
ウクライナ新興軍需企業ファイアポイント社の開発した大型巡航ミサイルがFP-5フラミンゴです。発射重量は6トンにも達し、有名なアメリカ製のトマホーク巡航ミサイルの4倍もの重量があります。射程は3000kmと公表されていますが、まだこの距離での使用はありません。モスクワ方面への攻撃にFP-5フラミンゴが使用されたのは今回が初めてになります。
FP-5フラミンゴは発進はRATO(離陸補助ロケット)を用いて、加速が終了するとRATOを切り離し、ジェットエンジンを使用して巡航飛行に入ります。そのため発射直後は固体燃料ロケットモーターを噴射している状態です。
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⑨シーチェニ長距離自爆無人機
※形状を見れば分かるように、ロシア軍の使うシャヘド136(ゲラン2)自爆無人機の設計をウクライナ側で模倣したコピー品。
※ただし、そもそもイランが設計したシャヘド136自体が、ドイツのドルニエDARとイスラエルのIAIハーピーを模倣したものでもある(解説記事)
※発進はシャヘドと同様にRATOを使用。
シーチェニとはウクライナ語でСічень、キリル文字をラテン文字に転写するとSichenですが、意味は「1月」です。おそらくAn-196リューティイ(意味は2月)と関連付けた命名なのでしょう。なおСіченьの発音はシーチェニとシーチェンの中間くらいになります。
シーチェニ自爆無人機には同じ機体を用いて仕様を変更して遠隔操作可能な中距離型とした派生型のベヘモート(Бегемот)もあります。ベヘモートはキリスト教の聖書に登場する陸の獣の名前で、英語のベヒモス(Behemoth)と同じです。なおウクライナ語ではベヘモートは現実の動物のカバの意味としても使われます。
⑩FP-7ペリカン短距離弾道ミサイル
※FP-7弾道ミサイルを元にした防空システム「フレイヤ」計画に向けての基盤となる試験弾(FP-7.X)。ファイアポイント社のCEO兼CTOのイリーナ・テレフ氏(Ірина Терех)の投稿。
- 最大射程:200km以上(300kmという報道もある)
- 弾頭重量:150kg
- 発射重量:1800kg前後(ほぼ同サイズの48N6から推定)
ウクライナ新興軍需企業ファイアポイント社は2025年9月4日にFP-7とFP-9という2種類の弾道ミサイル開発計画を発表しました。FP-7は既存の地対空ミサイルの基本設計を流用した短距離弾道ミサイルであり、旧ソ連製のS-300防空システムの5V55地対空ミサイルやS-400地対空ミサイルの48N6地対空ミサイルと形状が酷似しています。FP-7は5V55/48N6と形状や操舵システムは酷似していますが、ミサイル弾体は最新のカーボン複合材で置換しており軽量化、固体燃料推進剤は最新仕様の設計に変更されて高性能化しています。なおFP-7の発射形式はホットランチ式で、コールドランチ式の5V55/48N6から変更されています。元が地対空ミサイルなので弾頭重量は150kgと軽めで、射程は200km(300kmという報道もある)と短めであり、短距離弾道ミサイルというよりは超大型の誘導ロケット弾と見た方がよいかもしれません。
なおロシア軍はこのウクライナ戦争の開始から暫くしてからイスカンデルM弾道ミサイルを使い過ぎて生産が追い付かず在庫が怪しくなり、旧式のトーチカU弾道ミサイルは残弾を使い切ったので、代役としてS-300/S-400防空システムの5V55/48N6地対空ミサイルを対地攻撃転用して使い始めています。ロシア軍は現在は48N6を標的ミサイルに改造したRM-48Uを更に対地攻撃用に改造したものを準弾道ミサイルとして使用しています。つまりウクライナがこれを見て地対空ミサイルの対地攻撃転用を真似をしたものがFP-7だと言えます。ウクライナ自身もS-300を運用しているので5V55ミサイルは馴染みがあり、構造を模倣するのは容易です。短い開発期間で戦力化と量産が可能と考えたのでしょう。
またFP-7弾道ミサイルとしては派生型の地対空ミサイルを使用する弾道ミサイル迎撃を目的としたフレイヤ計画が始動しています。もともとFP-7は地対空ミサイルを基本設計としているので先祖返りしたような計画ですが、これは防空システムは火器管制システムの開発に時間が掛かるので、弾道ミサイル型の方が早く戦力化できるという話でもあり、もともとFP-7は地対空ミサイル型が本命なのかもしれません。仮にフレイヤ計画が弾道ミサイルを迎撃できるレベルにまで開発が至らなかったとしても、既存のウクライナ軍のS-300防空システム用の地対空ミサイルとしてFP-7派生型を実装することは容易であり、迎撃ミサイル補充の役目を果たすことは出来ます。
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ファイアポイント社のミサイルの愛称
- FP-5巡航ミサイル:愛称 "Flamingo" フラミンゴ
- FP-7弾道ミサイル:愛称 “Pelican” ペリカン
- FP-9弾道ミサイル:愛称 “Krechet” クレチェト(シロハヤブサ)
※「Flamingo」は宇語で「Фламінго」で発音は「フラミンホ」になるが、英語式の「フラミンゴ」という発音でもそのまま通じる。
※「Pelican」は宇語で「Пелікан」で発音は「ペリカン」でほぼ英語と同じだが、アクセントの位置が少し違う。
※「Krechet」は宇語の「Кречет」のキリル文字をラテン文字に転写したもので発音は「クレチェト」になる。鳥の猛禽類の「シロハヤブサ(白隼)」を指す。英語圏では同じ種類の猛禽類を「Gyrfalcon(ジャーファルコン)」と呼んでいる。