トランプ氏の「米国製」ビットコイン公約、実現は困難-国外で競争激化

これからは全てのビットコインを「米国製」にするという、トランプ次期米大統領の選挙公約は、実現がかなり難しいかもしれない。

  トランプ氏は6月、邸宅「マールアラーゴ」でビットコインのマイニング(採掘)企業幹部と面談した後、自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」に投稿し、この公約を表明した。これらの企業は、ビットコインやその他の暗号資産(仮想通貨)で支払われるのと引き換えに、ブロックチェーン上の取引を促進する作業を大規模なハイテクデータセンターで行っている。この会合は、暗号資産に懐疑的なトランプ氏が強力な支持者へと変貌を遂げる重要な転換点となった。

  「トランプ氏らしい発言だが、現実にはあり得ない」と、採掘業者にソフトウエアとサービスを提供するルクソール・テクノロジーのイーサン・ベラ最高執行責任者(COO)は言う。

  ブロックチェーンは分散型ネットワークであり、誰もそのプロセスを管理することも、参加を禁止することもできないため、トランプ氏の支持表明は象徴的なものと広く見なされており、公約の実現はほぼ不可能だ。実際には、毎年この業界が生み出す数十億ドルの分け前を狙って、世界中で大規模な事業が立ち上がっており、この業界の競争はますます激しくなっている。

  ロシアの政治家やドバイの王族、アフリカの中国人実業家らが新たな競争相手だ。この業界は、利益は多いが膨大なエネルギーを必要とするため、豊富な資金力と強大な権力が参入につながっている。

テネシー州ナッシュビルでのビットコイン会議で演説するトランプ氏(7月27日)

  ビットコインの米国でのマイニングは、仮想通貨の価格急騰により、ここ数年で数十億ドル規模の産業へと変貌を遂げた。しかし、業界アナリストによると、米国を拠点とする採掘業者が生成する総演算能力は50%にも満たず、国内企業だけでネットワーク全体を稼働させることは不可能だ。

  クリーンスパークライオット・プラットフォームズなど米採掘企業は、トランプ氏をいち早く支持した。環境に配慮した規制の緩和や、国外勢力の競争排除、抑制的なガイドラインの撤回をトランプ氏に期待したからだ。トランプ氏の仮想通貨支持により、マイニング業界からの献金は選挙期間中に約1億3500万ドル(約213億円)となり、どの業界よりも多かった。

  米国での急速な拡大と仮想通貨の最近の強気相場にもかかわらず、米国による経済制裁や一部の新興国でのインフレ高進により、米国外の採掘企業はさらなる事業拡大に駆り立てられている。

  ビットコイン採掘用の特殊コンピューターを扱う最大手ブローカー、シンテック・デジタルのタラス・クリク最高経営責任者(CEO)は「いくつかの異なる市場で大きな成長が起こりつつある」と指摘。カザフスタンなどの東欧で需要が高まっており「アジア、アフリカ、中東への販売はすべて増加傾向にある」と述べた。

  アジアでの大規模な売り上げは中国でのビットコイン採掘活動の拡大を示唆している。2021年に中国政府はビットコイン採掘事業を全面的に禁止したが、クリク氏によると、仮想通貨に対するロシアの姿勢が緩和されたことで、中国での復活が促進されている。

  アフリカや南米の一部では、米国の同業者と比較して、ビットコイン採掘による利益率がはるかに高い。安価なエネルギー供給地はアフリカ全土に広がっており、水力発電が豊富なエチオピアは、アフリカ大陸で特に急成長中の暗号資産採掘ハブだ。ドル建ての採掘収益はアルゼンチンなどで、インフレの悪循環に陥らず貯蓄を維持するための手段を現地事業者に提供している。

  テキサス州などで電力コストが上昇しているため、米国のマイニング企業も海外進出に乗り出している。時価総額で最大の暗号資産採掘業者MARAホールディングスは、アラブ首長国連邦(UAE)の首都アブダビの政府系ファンドが所有する現地企業との合弁事業計画を発表した。中東最大級の採掘業者構築を目指している。

  そして、トランプ氏が米国の採掘業者にもたらし得る逆風がもう一つある。中国との貿易戦争は、ビットコイン採掘機のコストを上昇させる可能性が高い。採掘機のほとんどは中国企業であるビットメインによって製造されており、特に採掘機は電気代に次ぐ2番目の大きな出費であることを考えると、その傾向は強い。しかし、多くの採掘者にとってトランプ大統領がもたらす利益は害を上回る。

  クリク氏は「トランプ氏はビットコイン採掘にとって恐らくこれまでで最高の人物だろう」と述べ、「同氏はエネルギーと経済成長を推進するタイプの大統領だ」と話した。

原題:Trump’s ‘Made in USA’ Bitcoin Is a Promise Impossible to Keep(抜粋)

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