グーグルのAI半導体に突如脚光、エヌビディアに迫れるか-QuickTake
人工知能(AI)向け半導体市場でエヌビディアが支配的な地位を築いてきた間、顧客の間では競争相手の登場を望む声が絶えなかった。だが、有力な代替候補の一つは、実は目の前に存在していたようだ。
アルファベット傘下のグーグルは約10年前、自社の検索エンジンを高速化し、処理効率を高めるために独自の半導体「テンソル・プロセッシング・ユニット(TPU)」を導入した。その後、このプロセッサーは、同社のAIアプリケーションにおける機械学習処理にも活用されるようになった。
グーグルは足元でTPUの大型契約を相次いで獲得しており、同社の半導体がエヌビディア製のAIアクセラレーターに代わる有力な選択肢となり得ることを示している。
以下では、TPUの仕組みや特徴、可能性、そして課題を詳しく検討する。
GPUとTPUの違いは何か
いずれの半導体も、AIモデルの学習に伴う膨大な計算処理をこなせるが、その仕組みやアプローチは異なる。エヌビディアのGPU(画像処理半導体)はもともと、ビデオゲームの映像をより精緻に描画するために開発された。数千に及ぶ演算コアを備え、複数の処理を並列で実行できるのが特徴だ。この構造により、他の技術では実現が難しい高速なAI処理が可能になる。
TPUは、AIの学習に不可欠な「行列乗算」と呼ばれる大量の数値計算を高速処理できるよう設計されている。こうした演算は、OpenAIの「ChatGPT」などで応答を生成するニューラルネットワークを訓練する際の中核的な処理でもある。多くの処理は並列ではなく、順次繰り返し実行される計算で構成されている。TPUは、エヌビディア製GPUに比べて汎用性は低く、特定用途に特化した設計とみなされている。一方で、同様の処理を行う際の消費電力は抑えられている。エヌビディアのGPUは柔軟性が高く、プログラムの自由度も大きいとされるが、その分、運用コストが膨らむ場合がある。
TPUはどう台頭してきたか
グーグルは2013年に初代TPUの開発に着手し、2年後に発表した。当初は自社の検索エンジンを高速化し、処理効率を高める目的で導入された。2018年にはTPUを自社のクラウドプラットフォームに組み込み、検索エンジンの性能向上に使われていたのと同じ技術を活用できるコンピューティングサービスの提供を始めた。
グーグル社内でのAI開発を支えるよう、TPUの改良も進められてきた。グーグルと傘下のAI研究部門DeepMind(ディープマインド)が「Gemini(ジェミニ)」など最先端のAIモデルを開発する過程で、AIチームの知見がTPUの設計担当者に還元され、その結果、チップは社内のAI開発に最適化されるようになった。
TPUの最新世代「Ironwood(アイアンウッド)」は今年4月に発表された。液冷式を採用し、AIモデルの学習ではなく、主に実運用段階での「推論」処理を目的に設計されている。
シーポートのアナリストのジェイ・ゴールドバーグ氏は「グーグルはAI処理に不要な部分を思い切って削ぎ落とすことができるため、特定のAI分野ではTPUがGPUを上回る性能を発揮することもある」と述べた。同氏はエヌビディア株に「売り」相当の投資判断を付けている。
グーグルは現在、第7世代となるTPUを展開しており、性能の向上と高出力化を進める一方で、消費電力を抑えることで運用コストの低減も図っている。
TPUを採用している企業は
現在のTPUの利用企業には、OpenAIの共同創業者イリヤ・サツキバー氏が昨年設立した新興企業セーフ・スーパーインテリジェンスや米セールスフォース、画像生成AIのミッドジャーニー、さらにアンソロピックなどが含まれる。
10月に公表された契約によると、アンソロピックは最大100万個のTPUを通じて、グーグルの大規模なコンピューティング能力を利用できるようになる。またテクノロジーニュースサイト、ジ・インフォメーションの報道によれば、メタ・プラットフォームズは2027年に自社データセンターでグーグル製TPUを導入する方向で協議を進めている。
こうした動きは、急増する需要に対応するため計算能力の拡充を急ぐ主要AI企業が、TPUの採用を進めている現状を浮き彫りにしている。
TPUの成長余地と課題は
主要なAI開発企業は、高価なエヌビディア製チップの購入に数百億ドル規模の資金を投じており、同社への依存を抑えて供給不足の影響を和らげたいとの思惑を強めている。こうした状況は、TPUにとって大きな成長余地があることを示している。
現時点では、グーグルのTPUを利用したい企業は、グーグルのクラウド上で計算能力を借りる契約を結ぶ必要がある。ただ、この仕組みは近く変わる可能性がある。ブルームバーグ・インテリジェンスのアナリストによれば、アンソロピックとの契約により、他社クラウドへの展開も現実味を帯びてきたという。
グーグルを含め、現時点でエヌビディア製GPUを完全に代替しようとする企業はない。AI開発の進化があまりに速く、現状ではそれを実現するのは現実的ではないためだ。ガートナーのアナリスト、ガウラブ・グプタ氏によると、グーグルは自社製チップを保有しているものの、クラウド顧客への柔軟な対応を維持する必要があるため、依然としてエヌビディアの主要顧客の一つとなっている。顧客のアルゴリズムやモデルが変わった場合でも、GPUの方が幅広い処理に対応しやすい。
TPUの導入を進めている企業でさえ、依然としてエヌビディア製チップへの依存は大きい。実際にアンソロピックは、グーグルとのTPU提携から数週間後にエヌビディアとの大型契約を発表した。グーグルのTPUにとって最も現実的な期待は、AI需要拡大を支える製品群の一角として位置づけられることかもしれない。
原題:How Google’s TPUs May Give Nvidia a Run for Its Money: QuickTake(抜粋)