ゼレンスキー氏は抵抗の構え、米国がロシア寄り和平案の受け入れ迫る
米当局者が突きつけた屈辱的とも言える和平案に、ウクライナのゼレンスキー大統領は抵抗する構えを固めようとしている。一方で大統領は、最側近の更迭を求める国内の圧力にも直面している。
慎重に取り扱うべき問題を話しているとして匿名を要請した関係者によると、米国がロシアとの協議を経てまとめた合意案を受け入れるよう米国からゼレンスキー氏に示唆があった。トランプ大統領もこの合意案を支持していると、米高官は説明した。
ゼレンスキー氏は20日にキーウで、ドリスコル陸軍長官が率いる米軍の代表団との協議に臨む。この代表団は既に、ウクライナのスビリデンコ首相、シルスキー軍総司令と会談しており、ロシアに戦闘停止を強いる方策が検討される見通しだと、事情に詳しい関係者は述べた。
今回の和平案はガザ停戦をモデルに、28項目の計画から成るが、その多くはウクライナがこれまで受け入れられないとして拒否してきたロシアの要求そのままだ。関係者によると、ウクライナ東部ドンバス地方のロシアへの割譲のほか、対ロシア制裁の解除、戦争犯罪調査の打ち切りなどが盛り込まれている。
軍の規模を制限する条項も含まれていると、匿名を要請した関係者は明らかにした。ウクライナがこれを受け入れれば、ロシアが再度攻撃を仕掛けてきた場合の守りは薄くなる。ロシアのプーチン大統領はウクライナ東部を巡る和平に合意しながら、これに違反して2022年に侵攻を開始した前歴がある。
プーチン氏は圧力をかけられた際に和平案を受け入れるそぶりを見せることがあると複数の欧州の外交官は指摘、実際の合意には懐疑的な見方を示した。ロシアは国内2大石油会社であるロスネフチ、ルクオイルに対する米国の制裁発効を止めようとしているのだろうと、自由に発言するためだとして匿名を要請した関係者は語った。この制裁は21日に発効する予定だ。
ホワイトハウスのレビット報道官は「トランプ大統領は当初から一貫して、ロシアとウクライナの戦争終結を望んでいると明確にしてきた。双方が和平案に同意しないため、いずれの側に対しても不満を募らせている」と発表文で説明。
「それでも、大統領とそのチームは決してあきらめない。殺りくをやめさせ、持続可能で恒久的な和平をつくり出そうと、双方に受け入れ可能で詳細にわたる計画に取り組みを続けている」と付け加えた。
戦争終結に向けて譲歩を迫る米国の圧力にさらされるゼレンスキー氏は、与党議員との会合も控えている。1億ドル(約155億円)にも及ぶ公金横領スキームにゼレンスキー氏の元ビジネスパートナーが関わっているとされ、会合では市民の怒りを抑える方法が話し合われる見込みだ。このスキャンダルを巡り、既に閣僚2人が辞任に追い込まれた。
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事情に詳しい関係者によると、与党内からはイェルマーク大統領府長官の更迭を求める声もある。イェルマーク氏は政権幹部の人事や戦時戦略の重要な部分の決定に直接関わる、ゼレンスキー氏にとって右腕と言える存在だが、更迭しないなら議会は危機的状況に陥ると、匿名を要請した関係者は語った。
イェルマーク氏はゼレンスキー氏の重要な外遊に随行することも多く、政権内で絶大な影響力を振るっている。ゼレンスキー氏は昨年、イェルマーク氏は「強力なマネジャーだ」として同氏に対する批判に反論していた。
こうした国内の政争が深刻化する中で、ウクライナの当局者は米国の和平案について詳細を把握しようとしている。和平案はウィトコフ米特使とプーチン氏の経済特使キリル・ドミトリエフ氏が推進している。
ウィトコフ氏は水面下で1カ月にわたり、ウクライナとロシアの双方の意見をくみ取りながら戦争終結に受け入れ可能な条件の和平案作成に取り組んでいると、米高官は説明した。双方に譲歩を求めることになると、同高官は主張した。
この案をウクライナが拒否する場合、何が起きるか同国や欧州当局者は把握できていないと、関係者は述べた。ウクライナは対空防衛で米国の情報支援に依存しており、ほぼ欧州の資金で米国製の兵器を購入している。
20日にブリュッセルで会談した欧州連合(EU)の外相は、米国の和平案に対する警戒感をあらわにした。カラスEU外交安全保障上級代表(外相)は「いかなる計画であれ、機能させるにはウクライナと欧州の関与が必要だ」と語った。
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原題:Zelenskiy Pressured to Accept Peace Plan US Drafted With Russia(抜粋)