歯周病ケアと透析リスク低減の関係:糖尿病を持つ人のために
テーマ:糖尿病
歯の健康と腎臓の健康が密接に関連しているという研究結果が報告されています。特に日本の糖尿病を持つ人にとって、歯周病のケアが透析導入リスクを大幅に減少させる可能性が明らかになりました。最近の日本人を対象とした研究では、2型糖尿病を持つ人が定期的な歯周病ケアを受けることで、透析導入リスクが32〜47%も低下することが分かりました。この研究は9万9千人以上2型糖尿病を持つ日本人を約6年間追跡して実施されました(Journal of Clinical Periodontology. 2025, 52(5):717-726)。
歯周病と糖尿病:複雑な関係
歯周病と糖尿病の関係は「双方向性がある」と言われています。つまり、糖尿病があると歯周病になりやすく、歯周病があると糖尿病の管理が難しくなるという相互作用があるのです。
なぜ歯周病が腎臓に影響するのか?
歯周病と糖尿病性腎症(腎臓病)の関連には、いくつかのメカニズムが考えられます。
- 全身性炎症の増加:歯周病により口腔内で炎症が起こると、その炎症を引き起こす物質が血流に乗って全身に広がります。これが腎臓を含む様々な臓器に炎症を引き起こし、糖尿病性腎症の進行を加速させる可能性があります。
- 血糖マネージメントの悪化:歯周病があると血糖値のマネージメントが難しくなり、それが腎臓への負担を増加させます。
- 共通のリスク因子:喫煙、肥満、不適切な食生活など、歯周病と腎臓病に共通するリスク因子があります。
糖尿病と歯周病に関する研究知見
これまでに、複数の研究によってこの二つの疾患の密接な関係が明らかになってきています。
- 糖尿病を持つ人は歯周病に2倍以上かかりやすく、血糖マネージメントが悪いと歯周病がより重症化しやすいことが示されています(Journal of Clinical Periodontology 2018, 45(6): 650-662)。
- 2型糖尿病を持つ人を対象とした研究で、HbA1cが改善すると歯周組織の炎症も良くなり、歯周病も改善することが示されています(Journal of Clinical Periodontology. 2024; 51(6):733-741.)。
最近は、糖尿病と歯周病の関連性の強さから、歯周病は糖尿病の6番目の合併症(1~5番は、神経障害・網膜症・腎症・心疾患・脳卒中)として捉えるべきだと考えられています(日本歯科医師会)。
歯周病ケアの効果
冒頭でご紹介した論文では、歯周病治療を受けた糖尿病を持つ人は、歯科を受診しなかった人と比較して、透析導入リスクが有意に低下していました。さらに、頻繁に歯周病ケアを受けるほど(半年に1回以上)、そのリスク低減効果が大きくなることも示されています。歯周病ケアには次のような効果があります。
- 口腔内の炎症を減少させる
- 全身の炎症レベルを下げる
- CRP(C反応性タンパク質)やTNF-α(腫瘍壊死因子α)などの炎症マーカーを減少させる
- 結果として、腎機能の低下を遅らせる
実践すべきこと
糖尿病を持つ人にとって、歯周病ケアは糖尿病管理の重要な一部と考えるべきです。
- 定期的な歯科検診:最低でも年に1回、できれば半年に1回の受診が推奨されます
- 歯周病検査と治療:歯周病ケアなどの専門的治療を受ける
- 日常的な口腔ケア:正しい歯磨き、フロスの使用を心がける
- 医科歯科連携:糖尿病の主治医と歯科医師の連携が重要です
まとめ
糖尿病を持つ人にとって、歯周病ケアは単に口腔の健康を守るだけでなく、腎臓病の進行を防ぎ、透析導入リスクを大幅に低減する可能性があります。歯周病と糖尿病の関係を理解し、適切なケアを受けることで、糖尿病を持つ人はより健康的な生活を送ることができます。歯の健康は全身の健康と密接に関連していることを忘れないようにしましょう。
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