ドジャース・佐々木朗希の覚醒…米老舗メディア編集長が「“驚き”ではなく“必然”」と評するワケは? 日米メディア「ロウキ評」の決定的な差
AP通信は「ドジャースはポストシーズンのクローザーを見つけたかもしれない」という見出しで記事を配信。救援転向後わずか4試目の新人が、短期決戦の重圧の中で冷静さを保ち、走者を背負いながらも無失点で試合を締めた事実を高く評価した。 記事の中では「新しいリリーフとしては上出来だ」という一文が印象的に使われている。ドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長が「信頼の構築には時間が必要」「肩の回復を最優先にしてきた」と語ったと伝え、チームが佐々木の起用時期を見極めていた経緯を補った。 AP通信の筆致からは、驚きと同時に「ようやくこの日が来た」という安堵の空気が漂う。 日本のメディアではたびたび佐々木への厳しい評価が目についたが、実は特に米メディアのメインストリームではもともと「佐々木の素質への評価は揺らいでいない」という論調が多かった。 まだ23歳という年齢に加えて、決して高年俸でもない条件も相まって「健康と適応さえ整えば、いずれブルペンの軸になれる」という好意的な評価が関係者の間に共有されていたことがうかがえる。
『スポーツ・イラストレーテッド』は、ディビジョン・シリーズ初戦後のデーブ・ロバーツ監督の慎重な言葉を拾い「ロバーツ監督は佐々木朗希の“守護神扱い”を否定」と題して報じた。ロバーツ監督は試合後、「まだクローザーを固定する段階ではない」と発言。佐々木の起用を“状況に応じた判断”として位置づけた。 この記事は、ブルペンの脆弱さと佐々木の肩のコンディション管理という現実を踏まえ、監督が「慎重さを装う理由」を分析している。ドジャースにとって佐々木は即席の救世主ではなく、長期的戦略の中で欠かせないピースのひとつであり、球団は過剰な熱狂を抑えることで、リスクを制御しようとしているということだ。 MLB公式サイトは、物語の焦点をやや別の方向に当てていた。 大谷が勝利投手、佐々木がセーブ投手として並び立った事実を「日本人先発・救援コンビによるポストシーズン初勝利」と位置づけ、歴史的文脈に重心を置いた。記事は、佐々木の球威や制球よりも、この試合を“日米をまたぐ象徴的な瞬間”として描いている。他のメディアが実務的な起用方針を論じたのに対し、MLB公式は“記録としての価値”を優先した構成だった。 内容はそれぞれ異なれど、これらのメディアの論調は、いずれも日本でのこれまでの報道とは微妙に異なる共通の一点の要素を内包している。 それは、クローザーに転向した佐々木の存在が「驚きの新人」ではないということだ。 もともと評価は高く、ポテンシャルは織り込み済みだった。その上で、ようやく実際に結果を出した夜が訪れた──それがこのポストシーズンだったということである。
Page 2
この構図を言語化してくれたのが、140年近い歴史を誇る老舗メディア『スポーティングニュース』で編集長を務めるベンソン・テイラー氏だ。テイラー氏はこう語る。 「ササキについては、まさに“興味深いシーズン”と言えるでしょう。これまでにも、先発投手がさまざまな理由でブルペンやクローザーに転向するケースはありました。もっとも有名な例のひとつは数十年前、オークランド・アスレチックスのデニス・エカーズリーがクローザーとなり、伝説的存在かつワールドシリーズ制覇を果たしたケースでしょう。 ササキの場合もいくつかの要因がこの立場を生みました。故障からの復帰というだけでなく、ドジャースのブルペンが苦しんでいたという事情もあります。したがって、これは彼にとって良いチャンスとも言えます。ポストシーズンではブルペンの出来が勝敗を大きく左右しますし、ササキは新しい役割の中で輝き、試合を締める場面で大きなインパクトを残せるかもしれません」 テイラー氏の言葉は、的確に今季の佐々木への現地報道の論調を凝縮している。“興味深いシーズン”という表現には、驚きではなく大きな必然性が込められている。 転向を「賭け」とは捉えず、「環境が導いた最適解」とみなす視点は、米メディアが共有してきた評価の延長線上でもある。エカーズリーの例を引くことで、リリーフ転向を“変則ではなく伝統的成功パターン”として再定義していることからもその高評価が分かる。 テイラーの視座を通すと、佐々木の転向は偶然ではなく、チーム状況と彼自身の特性が噛み合って生まれた必然に見えてくる。
少なくとも米メディアは佐々木のクローザー転向は偶発的な実験ではなく、シーズンを通して積み重ねてきた伏線の回収だったと見ている。そこには日本メディアの論調との微妙な違いがある。 結果としてドジャースのブルペンはひとつの形を取り戻し、佐々木は新しい物語の主役として浮かび上がった。 現地メディアの筆は、その佐々木の変身を“奇跡”ではなく、変わらず“必然”として描いているのだ。
(「メジャーリーグPRESS」一野洋 = 文)