中国人民元切り下げ観測が浮上、貿易戦争激化で-トランプ関税に対抗
貿易戦争の激化に伴い、中国が人民元を対ドルで大幅に切り下げる措置に訴えるとの観測が金融市場で高まっている。現実となった場合、通貨の安定性を重視してきた政策が途切れることになる。
中国はトランプ米大統領の発表した関税措置に対し「断固たる」措置を取ると警告。ニューヨークや香港など世界の主要市場のストラテジストは、元急落の容認が含まれるかどうか模索している。
そうした選択肢は議論を招く措置であり、市場の見方が一致しているわけでもない。中国の輸出品を理論上安くできるものの資本流出のリスクを伴う。中国政府は既に、4月10日から米国からの輸入品全てに34%の関税を課すと発表している。
ウェルズ・ファーゴは、元が今後2カ月で最大15%切り下げられるリスクがあると予測。ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループは中国が通貨をターゲットにする場合、最大30%の下落もあり得るとみる。みずほフィナンシャルグループはもう少し保守的で、当局が元を3%程度低め誘導し、1ドル=7.5元程度とするとの見方だ。
ウェルズ・ファーゴのストラテジスト、アループ・チャタジー氏は4日、ニューヨークで中国の報復措置を巡り「米国に対し強硬姿勢を取ることができる」と言及。「為替の動きは競争力の低下に直接対処できる手段だ。切り下げリスクは大幅に高まっている」と指摘した。
中国は貿易戦争が始まる前から、通貨安定を優先してきた。元の国際化を目指し、そのためには極端な変動を伴わない安定性が重要だと考えている。
ただ、想定を上回る今回の関税がデフレ圧力を一段と強めかねないとして、再考を促す可能性があるとストラテジストの一部はみている。元安は国外で中国製品を安くしトランプ関税の影響を一部緩和する一方、中国国内で米国製品を消費者が購入する際のコストを押し上げる。
2015年の切り下げ時には元建て資産が下落し、世界の株式市場にも波及した結果、中国の市場管理能力への信頼が揺らいだ経緯がある。
ワシントンのブルッキングズ研究所でシニアフェローを務めるロビン・ブルックス氏は15年の人民元の動きについて、米国株の重しにもなったとX(旧ツイッター)に投稿。元相場をトランプ政権への対抗手段とするのは中国にとって最も「強力な武器」で、「世界の市場に非常に大きな意味を持つ」と指摘している。
中国政府にとって熟慮が必要な要素の一つは、元が急落した際に海外投資家が中国から資金を引き揚げるリスクだ。また米国の怒りを買う可能性もある。トランプ政権は1期目の19年に中国を「為替操作国」に認定。翌年に解除した経緯がある。
関連記事中国、トランプ関税に報復-米製品に34%関税やレアアース輸出規制 (2)
原題:Yuan Devaluation Market Chatter Gets Louder as Trade War Worsens(抜粋)