歳を取るのは「森に消えるようだ」...大家族の国ガーナで高齢者に忍び寄る孤独の影(ニューズウィーク日本版)
ある街に住む73歳の女性は、「娘はカナダにいるけれど、息子はクマシ(ガーナ第2の都市)にいる。でも、訪ねてくることはめったにない。私は1人暮らしで、病気になったら家でじっとしているだけ。誰か気が付いてと祈ることもある」 こうしたケースはもはや例外ではない。政府統計局の生活水準調査とWHOの世界高齢化・成人保健研究(SAGE)によると、ガーナでは高齢者、とりわけ夫を亡くした女性と公的年金を受給していない高齢者の間で1人暮らしが増えている。また、都市部に住む高齢者の22%以上が1人暮らしで、家族など信頼できる人による介護を受けられずにいる。 ガーナの老人が孤独を深めていることは、筆者の調査でも明らかになった。その大きな原因の1つは、政府の社会政策や経済政策が、家族の日常的な支援なしで暮らす高齢者を見落としていることにある。 政府は医療支援や、地域サービスの充実、救急医療網の整備、そして地域ベースのメンタルヘルス介入など、1人暮らしの高齢者を考慮に入れた社会福祉政策を講じるべきだ。 調査では、高齢者が孤独感や経済的な不安、そして医療のアクセスの悪さに苦しんでいることが分かった。信仰や読書が穏やかな時間を与えてくれるが、国民健康保険制度の適用範囲が限られていることや、生活費の上昇、そして家族の支援の減少が、彼らに厳しい生活を強いている。年金組合は存在するが、多くの高齢者は取り残されていると感じている。 とりわけ脆弱な立場に置かれているのは夫を亡くした女性だ。彼女たちは、土地の所有権に関する不安や、子供からの支援減少に特に悩んでいた。一方、高齢男性は、敬われるものの、やることがなく、社会に活用されていないと感じていた。農業や信仰や人付き合いは元気をくれるが、国の発展からは取り残されているというのが彼らの実感だ。 10年に打ち出されたガーナの国家高齢化政策は、高齢者介護を一般の保健医療制度に統合すると約束しているが、その成果は実感されていない。高齢者の大多数は、現役時代に臨時雇いなど「非公式」な労働者だったため、公的年金など引退後の収入保障がないという問題もある。 ある66歳の女性は、「ずっと裁縫師をしてきたが、今は視力が衰えて仕事ができず、年金も貯金もない。キャッサバ(山芋)と祈りで生き永らえている状態だ」と語った。