井上朋也が同点打にこぼした本音「きつかった」 祝福のベンチ…近藤健介の"愛あるイジり"
もがいて放った一打に喜びを爆発させた。7日のロッテ戦(ZOZOマリン)、1点ビハインドで迎えた6回2死二塁の場面。1ボール2ストライクと追い込まれた井上朋也内野手が外角のフォークを右前に運び、同点の適時打とした。送球間に二塁を陥れた22歳は、ベース上で握りしめた拳を高々と突き上げた。
その後は代走を送られたが、2-1で勝利した事実が、いかに井上の同点打が貴重だったのかを物語る。試合後、小久保裕紀監督は満面の笑みで舞台裏を明かした。「代打を用意していたんですけどね。『もういってしまえ』と。良く打ちましたね。スタメンを託して、先発投手に3打席立たせないのはどうかという葛藤もありましたけど。最後は『いってしまえ』でした」。逆転打を放った佐藤直樹外野手とともに、井上を讃えた。
今季は交流戦の期間中に1軍昇格したが、わずか4日で登録を抹消された。7月26日に再昇格を果たすと、この日は「8番・左翼」でスタメン出場し、2023シーズン以来の打点をマーク。先発起用した首脳陣の期待に応えてみせた。試合後に取材対応した井上が明かしたのはガッツポーズに込めた気持ち。そこには喜びだけではない思いがあふれていた――。
「本当に打てていなかったので、きつかったです。『打たないと、打たないと』という気持ちに勝手になってしまっていました。でも、その中で打てたことが本当に嬉しかったですね」
まず井上が語ったのは、結果を出せずにいた自身へのふがいなさだった。1、2打席目はいずれもフォークにタイミングを崩され、結果は三ゴロ。引っ掛ける打球が続いていた。だが、同点打を放った3打席目では「真っすぐはファールにして、変化球を引っ掛けないようにだけ意識していました」と頭を整理し、狙い通りに変化球を右方向へ運んだ。二塁ベース上で握り締めた拳には、井上が抱えていた苦しさと安堵が現れていた。
代走を送られてベンチに戻る井上を、チームメートはグラウンドに飛び出して迎えた。近藤健介外野手から「めっちゃボール球やったで」と笑顔で声をかけられたという。「みんなが喜んでくれて、僕も嬉しかったです」。弾んだ声が、これまでの苦悩の深さを物語っていた。
首脳陣の振る舞いにも喜びを感じるシーンがあった。取材を受けていた井上のもとを小久保監督と村上隆行打撃コーチが通りかかった。背後から井上の顔を覗き込んだ指揮官はにっこり。言葉はなくとも、その満足げな表情が何よりの賛辞だった。村上コーチは「讃えてやって」と声をかけ、球場を後にした。
苦しんだ末に生みだした大きな1本。これをきっかけにしないわけにはいかない。「継続して頑張ります」。力強く語った言葉に、今後の活躍を期待せずにはいられない。
(飯田航平 / Kohei Iida)