「お前らバカか!」「市長を出せ!」猛クレームで職員が疲弊 トップの不祥事で「味方が全然いない立場」のつらさ
市長の疑惑で揺れる静岡県伊東市と群馬県前橋市に、「意見」や苦情が続いている。中には2〜3時間にわたる長い電話や、途中から公務員批判に内容が変わり、応対した職員が個人攻撃を受けるケースもあるという。「本来の市民サービスが滞ってしまっており、一刻も早く通常の市政を取り戻したい」(伊東市の担当者)。疲弊した現場からは悲痛な声があがる。
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■電話5000件以上、意見6000件以上
電話5385件、メールや市ホームページの「意見箱」に6072件。
伊東市の田久保真紀市長の学歴詐称疑惑が浮上した6月末から10月7日までの間に寄せられた苦情などの数だという。伊東市秘書広報課の担当者はこう話す。
「7月に市長が会見した日(2日)からは、朝から晩まで電話が鳴りやまず、切っては次の電話に出るという状況で、本来やるべき仕事は何もできませんでした」
最近は、電話は一日5件ほどに減ったものの、長い電話が目立つようになった。中には2時間や、3時間 にわたり意見を続ける人もいたという。
「上司が電話を代わったのですが、それからさらに1時間以上続いたこともありました」(担当者)
内容も、
「市の職員からも市長にやめろと言うべきだ!」
「なぜ職員から強くやめろと意見しないのか。そんなだからお前らはダメなんだ!」
などの要求が多い。何度説明しても、同じ要求を繰り返すという。
■本来の市民サービスが滞る
現在も、秘書広報課の6人の職員だけでは電話に対応し切れないため、別の部署の職員が応援に入っている状況だ。現場は疲れ切っている。
市のトップ自らが招いた疑惑。メールや意見箱に寄せられた意見はすべて印字して田久保市長のもとへ届けてはいるというが……。
担当者は、「本来の市民サービスが滞ってしまうことがあり、一刻も早く、通常の市政を取り戻したいと願っています」と悲痛な思いを口にする。
トップが不祥事を起こし、自治体の職員が疲弊している現場はまだある。
小川晶市長と男性職員の「ラブホテル密会問題」に揺れる前橋市。9月下旬に、この問題への意見を受け付ける専用電話窓口を設置したが、10月9日までに約8000件の苦情や無言電話などがあったという。
記者会見にのぞむ小川晶・前橋市長=2025年10月6日午後2時30分、前橋市役所■途中から公務員批判へ
担当者によると、「お前らバカか!」などの強い言葉を浴びせられたり、「市長を出せ」「男性職員を出せ」などと繰り返し要求し、電話を切っては何度もかけ直してくる人もいた。
1〜2時間にわたる長い電話も目立ち、最初はこの問題への苦情を話すのだが、途中から公務員批判に変わることが多い。「税金で食ってるお前は、普段仕事をしてねえからこうなるんだよ」などと、応対した職員へ個人攻撃をしてくるケースもあった。
窓口では、職員が交代制で対応に当たっている。午後のワイドショーでこの問題が取り上げられると電話が一気に増えるといい、その時間は人員を増やして対応しているという。
小川市長と職員が起こした問題。
担当者は「苦情は受けなければなりません」と神妙に話しつつも、「対応に当たる職員の心理的負担は大きく、担当が終わったとき『もう二度とやりたくない』とこぼす職員もいました。職員への個人攻撃や、今回の問題以外のご意見は控えていただけたらと思っております」と話す。
市長は職員の負担を減らすため、10日から個人事務所にコールセンターを設置したが、初めから想定できた事態ではなかったか。
■矛先が立場の弱い職員へ
自治体に寄せられる過剰な「意見」や苦情の現実。最近では、各地で人身被害が発生しているクマの駆除を巡っても、北海道や秋田の自治体にクレームが殺到し、通常業務に支障が出るなどの問題が発生した。
地元ではない関西や、クマが生息していない九州に住む人などからの電話が多かったが、伊東市と前橋市も同様に、市外、それも遠方に住むと思われる人からの電話が多い。居住地は尋ねないが、方言が明らかに違うという。
秋田のある自治体の担当者は、クマの駆除を巡る電話はクレームだけではなく、早く駆除して安心させてほしいという要請や、駆除に理解を示し励ます声も寄せられると話す。
「(伊東市と前橋市の職員は)市長が疑惑を持たれていることや、起きていることの『質』の面で、味方が全然いないような、我々よりはるかにつらい立場だと思います。市民への通常業務ができないことは何より心苦しく、そこまで追い込まないであげてほしいと思います」(担当者)
無関係の内容や個人攻撃は問題外だが、疑惑に憤ること自体は何も問題ではない。ただ、その怒りの矛先が誰に刺さっているのか。立場の弱い職員たちが耐えているだけかもしれないことは、考える必要がある。
(ライター・國府田英之)