AIに要約させて“わかったつもり”になる社員 業務で「生成AI」を使う弊害 [1/2]

【3行要約】・生成AIの活用が広がる中、単にAIに答えを求めるだけでは本質的な成長が得られません。・安斎勇樹氏と中原淳氏は対談で、キャリアを考える上で欠かせない「AI」との付き合い方を語ります。・ビジネスパーソンは「人生の主人公」としての自律性を保ちながら、AIをパートナーとして活用する姿勢を持つべきです。

前回の記事はこちら

井上佐保子氏(以下、井上):最後に聞いておきたいところとかありますか。

安斎勇樹氏(以下、安斎):どうしようかな。今日は一応大学生もいっぱいいるので、ちょっとおじさん臭い話ばっかりしていてもしょうがないなって。「40代どうするか」みたいな話を掘り下げたいところではあるんですけど。

今、スキルを習得するのが大事だというのは、僕の意見は変わらないんですよ。やっぱり20代のうちに技の探究の時間をどこかで作る。「あぁ、やっていなかったな」というんだったら20代じゃなくても、30代でも40代でもいいと思うんですけど。どこかで技を探究する時間がないと、キャリアの中の軸足ができないなと思うんです。でもこの生成AI時代に知的労働の業界で、どの技を探究するか(を決めるの)はめちゃくちゃむずいよなぁと思っていて。

中原淳氏(以下、中原):むずいね。

安斎:さっきも上でサインをたくさん書きながら雑談している中で、やっぱり僕の時代に大学の教員になるという意味合いと、今の時代に大学の研究者になる意味合いはけっこう変わっているよねみたいな話をしていたじゃないですか。そのへんを若い人に向けて、もしくはこれから何かのスキルを磨こうと思っていた時に、どういう判断で選ぶといいでしょうか。

中原:まずその生成AIみたいなテクノロジーと向き合わないのは、ある種、詰むと思うんですよ。

だけど、生成AIに答えを求めるんじゃなくて、「答えを出すこと」は自分から手放さないほうがいいと思う。まず自分で考えて、それでAIを「道具」としてじゃなくて「パートナー」として使いながら、いろんなフィードバックをもらっていく。この生成AIとの付き合い方は絶対持ったほうがいいと思う。実際、我々研究者の世界ももう生成AIなしじゃやっていけないから。

安斎:まぁ、そうですよね。

中原:本当にそう。だからもう統計にしても、プログラミングにしても、データ分析にしても全部そうなんですよ。生成AIとうまく付き合う方法をみんな探しています。でも一方で、たぶんこっちの世界だけだと、俺は負けるなと思っていて。

安斎:うん。

中原:だから逆の逆よ。例えば人と関わるとか、コミュニケーションするとか、そういうヒューマンタッチな部分を、俺だったら絶対増やすなと。だって実際に今年、サバティカルな研究専念期間といって1年間いただいているんですけど。片手ではめっちゃ生成AIのこととか、データ分析とかを勉強しているんだよ。

安斎:そうなんですね。

中原:めっちゃ勉強しているよ。でも、それをやっているけど、もう一方の片手では、アナログなことやりまくってるの。ワークショップにめっちゃ行ってんの。

安斎:参加者として。

中原:参加者として。それはやっぱり人と付き合うとか、人と向き合うみたいな時間とか、そういう経験を持ちたいと思ってるの。ちなみに明日俺、山梨県の富士吉田市でワークショップで、朝の8時には、そこにいなきゃなんないの。

安斎:あ、そうなんだ(笑)。めちゃくちゃ早い。そのワークショップというリアルのコミュニケーションの場に身を投じるのはわかったんですけど、テーマは何なんですか?

中原:チームビルディングとか、そういう系。要するにもう1回学び直すに近いかもしれないですけど、そういう新しいチームビルディングの仕方とか、そういうものをもう1回自分の中に取り戻したいなと思って。

安斎:へー、それおもしろいですね。

中原:安斎さん、自分でワークショップに出ないでしょ?

安斎:出ないですけど。でも、ホースローグってみなさん知ってます? 札幌で馬を引っ張ったりとかする、馬と一緒に過ごすやつがあるんですよ。それに僕も今月参加します。それに行くと自分が丸裸になるらしくて、すげぇ嫌だなと思っているんですけど(笑)。

中原:あ、そうなんだ。僕も2025年は、そういう研修とかワークショップにめっちゃ出てる。それは科学知と臨床知と言ったらまた違う言葉になるかもしれないんだけど、単純に言うと科学とかテクノロジーとうまく付き合う部分と、人とうまく付き合う部分を両立させたい。

安斎:なるほど。

中原:そうしないと俺、バランスが取れない。

安斎:いや、それめっちゃおもしろいですね。ディープリサーチとかeラーニングコンテンツとかですぐ情報が手に入るんだけど、そこには時間と体を使って投資して。

中原:めっちゃ体を使うよ。今日、ジャージを買いに行ったもん。明日着るジャージがなかったのよ。

安斎:知らないですけど(笑)。でも、ふだん持っている服装じゃ対応できない場に行くということ。確かに僕も、馬の時の靴をどうしようか迷ってて、買わないと。

(会場笑)安斎:いやでも、おもしろいですね。すごく参考になるというか。僕もその馬の研修に行くのって、やっぱり僕がすごくおもしろいなぁと思っている、めちゃくちゃ生成AIとかを使って知的生産性を爆上げしている人たちが、その研修に足しげく通っているからなんですよね。だからそういう知的生産を探究していった人が、何に今、時間投資しているのかみたいなことは常に見ていて。そこは何かヒントがありそうなところですよね。

中原:だから科学知と臨床知と言ってもいいし。もっと単純に言うんだったら二項対立の中に真実はないの。だから「A or B」という中に真実はないので、たいてい「A and B」なの。だからどっちもやらなきゃならない。だから生成AI時代はめっちゃ勉強しなきゃね。というか、めっちゃ学び直さなきゃならないね。

安斎:生成AIに食らいつきながら、2倍必要ということですもんね。

中原:この間、データ分析系の先生とも話していたんだけど、どう考えても生成AIの時代は教えることは楽にならないよね。なんでかと言うと、わからない人がいて、生成AIに聞いて、答えが出てくるじゃない。その時、その答えがわからない人は「本当にこの答えが○かどうか?」がわからないでしょ。ということは、まずは(教師側が)わからなきゃやらないのよ。

安斎:はい、はい。


Page 2

中原:今までよりもわからないといけない。なぜなら生成AIのほうがすげぇ答えを出してくるから。だからめっちゃ基礎力はつけなきゃならない一方で、生成AIをうまく使うためにはどうすりゃいいのということも教えなきゃならない。だから体感で言うと、教師としては1.3倍〜1.4倍ぐらい、本当はコンテンツ量が必要なの。だけど、給料は上がらないよね(笑)。でもそんな感じ。

安斎:でも教育的な意味で言うと、そこをどうやってグリップしてやるかはめっちゃ大事になると思うんですけど。最近知り合いの経営者とか人事の人が、繰り返し同じことを言うのが「生成AIを業務で使うようになって、すごくみんなバカになった感覚がある」みたいな。

要はAさんは生成AIを使ったアウトプットでコミュニケーションをする。Bさんはあまりよくわかっていないんだけれども、生成AIに要約させたり処理したりして、生成AIで返す、答える。とやっていった結果、2人ともあまりよくわかっていない会話が繰り広げられているみたいな。ちゃんとわかった上で対応しようとすると、たぶんコストがすごく上がるから、そこをもう手放したことが現場コミュニケーションで起きちゃっている。

中原:起きてるよねぇ。

安斎:納得感とか共感が薄いまま合意形成が行われていることを危惧している経営者の人が何人かいて。それもそれで今後、組織開発的な問題というか、何かプロジェクトを進めていく上で余計なモヤモヤが後になって噴出する原因になりそうだなみたいな。

中原:だからマスター(主人公)とスレイブ(奴隷)じゃないんだけど。自分の人生では、自分がマスター、主人公であること。自分が人生の主人公であることを手放したら、スレイブになるしかないよと。

安斎:はい、はい。

中原:だから自分が主人公であること、自分が答えを出す存在なんだということだけは、絶対に手放しちゃダメだなと思います。そうしないとスレイブに成り果てるよ。

安斎:なるほど。いやぁ「自分の人生のマスターであれ」「Enjoy yourself」とみなさんの本に、中原先生のサインが入っているので。

中原:「Enjoy yourself」「Be yourself」と書いてありますので。

井上:いい感じにまとまりましたね。ありがとうございました。大変有意義な公開1on1になったのではと思います。安斎さんも今後の参考になりそうなお話を聞けたのでは?

安斎:はいはい。でもMIMIGURIの中での役割とか、あと役割論的なところと、屋号的なところ、次の本で何を語るのか、次というかたぶん5年後ぐらいだと思うんですけど。そこのテーマ探しはちょっとしていきたいなと思いますね。

中原:だから今回、お会いできてよかったです。またもう1回ぐらいチャンスがあるといいなとは思いつつ。君は僕と同じように今度、ここに世代継承したい人を連れて来ればいいんじゃない?

安斎:なるほどね。連れてきて、そそのかしながら、尻たたきながら無茶ぶりをする。

中原:「大丈夫だよ、失敗しないよ」と言って。

安斎:そうですね。そうしていきたいですね。

中原:今日はどうもありがとうございました。

安斎:ありがとうございました。

井上:ありがとうございました。あ、まだ終わりじゃないんですけれども。ここで、夏川(真里奈)さんに描いていただいたグラレコを鑑賞する会という感じで、ちょっと夏川さん、一言ご説明を。

夏川真里奈氏(以下、夏川):ありがとうございます。いや、ちょっとここまで何を書いて何を書いちゃいけないのか、けっこう神経をすり減らしながら書かせていただきました。

じゃあ、振り返っていけたらと思います。まず、モデレーターのみなさまの紹介から始まっており、テオリアさんにも挨拶していただきましたね。お互いの書籍の紹介をしていったかなと思います。2人とも学びをテーマにして、でも「安斎さんはやりたがり少年だったよね」とか「会社を起こしていたよね」という話から、2人の出会い(の話)もしつつ。学びと組織、あとフィードバックみたいなことをテーマに、そこから話が少しずつ深まっていくようなQ&Aセッションに突入していきます。質問として多かったのがやっぱりラーニングカルチャーの広げ方というのは、みなさん本当に関心を持っていることだったなと思っていて。安斎さんから、「学べる機会を気づかないうちに作っていくことが大事だよね」であったり、「リフレクション機会を作ることが重要だよね」みたいな話がありましたけども。中原さんのキーワードだと、「学んだことは伝染するようにしていく」というお話が、私はけっこう印象的でしたね。なので中原さんも、総じて自分の学びの本を出すだけじゃなくて、こうやって学びを本にしていく人をどうやって増やせるんだろうかみたいなことにも関心があったので。そういった意味で、中原先生ご自身の学びをどうやって広げればいいんだろうと考えていらっしゃるんだなということが、私も伝わっておりました。最後の最後、具体的なキャリアの話にひもづいていきました。安斎さんは「キャリアデザインは自分のアイデンティティが変容することだよね」とおっしゃっていて、そこをより具体的な話に分解していらしたのが中原先生だったかなと思うんですけども。自分の役割は何なんだろうと問いかけ続けた中原先生の「リセットボタンがあるなら教えてくれ!」という、本当の心からの思いとか。(自分は)何屋なんだろうと考える時に、すごく参考になるお話をうかがえたんじゃないかなと思います。技の探究から、そこからマネジメントする時のモヤモヤから、コンセプトへの悩みは、まさに安斎さんの抱えていることだったかなと思うので。よだれムーブメントの話もありましたけど、私もMIMIGURI社員として安斎さんを適度にいじりつつ探索していきたいなと思っております。最後にAI時代のスキル。これはまさにこれからの時代を生き抜く私たちにとってもう外せないところかなと思います。最後に中原先生が語ってくださった、「自分が人生の答えを出す存在であることを絶対手放してはならない」。この意識を持ちながらAIを使う技術と共生していくことを、キャリアでも学びにおいても大事にしていけたらいいんじゃないかなと思っております。ということで、以上をこれまでのあらすじといったかたちでまとめさせていただきました。ありがとうございます。

(会場拍手)

井上:じゃあ、ここを受けて最後に一言ずつでクローズとさせていただきたいと思います。

安斎:そうですね。でもめちゃくちゃ楽しかったです。そういえば(中原先生と)久しくちゃんと話していなかった気がしたなという(笑)。博士論文のご指導はいただいたりしていたんですけれども。

でもさっきあんまりちゃんと話していなかったんですが、僕自身のキャリアの中の1つの指標として、これはハッキリ言いたくないんですが、(中原先生は)明らかにロールモデルのお一人なわけですよ。やっぱり大学の教員になるといった時に、「大学の先生は研究室に閉じこもって論文を書いているんでしょ?」と学生の頃は思っていたんだけれども、そこからはみ出して、企業とか社会とつながりながらやるというのは、僕の師匠の山内(祐平)先生と中原先生がこの業界で先陣を切ってやっていたので。「あ、こういうキャリアがあるのか」という、ある種ロールモデル的に背中を追いかけていました。領域とか役割とかそれこそ屋号とか、役割はそれぞれ僕の師匠も中原先生もぜんぜん違うので、あんまり参考にならないなと思っていて。僕は、たまに自分のキャリアを見つめ直す時に、中原先生は僕の年齢の時に何をやっていたんだろうなというのを見ていて。だから35歳とか37歳とか、そのあたりで『職場学習論』とか『経営学習論』とか、わりと自分のわかりやすい代表作を単著で書いているなというのを見据えていました。僕は35歳までに自分の代表作を書こうと思って、『問いのデザイン 創造的対話のファシリテーション』がちょうど35歳だったりとか、実はけっこうそういうマイルストーン的な意味では間接的に参照していたんですよ。だから(中原先生のことは)嫌いじゃないですよ。(会場笑)なので今、中原先生が40代の(頃の)仕事をたまに眺めたりして、「43歳でこの本か~」とかいろいろ見ていたりするんですけど。今日、根底のお話をいろいろうかがえたので、次の僕の10年も何をしていこうかということを考えて、みなさんにアウトプットを共有させていただいて、またこういう場ができるとうれしいなとあらためて思いました。今日はありがとうございました。(会場拍手)中原:はい。じゃあみなさん、今日はどうもありがとうございました。対話というか、こういうので1時間、2時間話すのは、よほどのパッションを持ってやらないと絶対無理だと思っていたけれど、安斎くんがここに立ってくれるので、できると思いました。あんまり言うのは嫌なんですけれども、いつも思っていることがあって。例えば自分の指導した学生さんとかが活躍するじゃない? その時に、元指導教員があんまり近くにいすぎると学生さんが、活躍できないのよ。だから、指導した学生とは、一時期、うまくちゃんと別れてあげることが大事なんですよ。

安斎:おぉ(笑)。

中原:わかります? 「もうお前のことなんてぜんぜん気にしてないよ」みたいな感じで、ツンデレでやっているんだけども。でも見ていて「がんばってるな」という時は「がんばってる!」って言ってあげる。

何と言っていいかわかりませんけど、師匠と弟子もそうだし、親子もそうなんですけど、「一時期ちゃんと別れること」はすごく大事だと僕は思ってる。だから安斎君にもいろいろ声をかけたいとかあるんだけれども、あえて声をかけないでいた時もあると思います。

安斎:だから、パタリと誘われなくなったんですねぇ。

中原:(笑)。まぁ、そうなんですよ。そういう時がありつつ。でも「うまく別れる」と、今度は師と弟子とは違った新たな関係で、また「うまく出会うこと」ができるんですよ。

中原:1対1でこういうふうに出会えることは非常にうれしいなと思うし。これがあと10年後なのか5年後なのか、またそういう時期が来た時に「この間、ああ言っていたけどさ」みたいな話ができるとうれしいなと思います。

中原:あとは安斎くんが、今、ここに座っている。僕も座っている。僕らが今後やっていくべきことは、次の世代の人材で、「ここに座る人」をもっと増やすことだよね。ここに尽きると思っています。

そういう芽はもう出ていると思うので、ぜひがんばっていきたいと思います。みなさん、今日は来てくれて、本当にどうもありがとうございました。

井上:はい。みなさん本当にいい時間だったな~と思いますよね。自分のキャリアのこともいろいろ考えたりしながら、でも本当にいい師弟関係なんだなというのが伝わってくる、本当にいいイベントになったと思います。お二人にもう一度拍手をお願いいたします。

中原:どうもありがとうございました。

(会場拍手)写真:©︎Kosuke Kiguch

イベントの動画はこちら

続きを読むには会員登録(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、スピーカーフォローや記事のブックマークなど、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

すでに会員の方はこちらからログイン

または

名刺アプリ「Eightをご利用中の方はこちらを読み込むだけで、すぐに記事が読めます!

スマホで読み込んでログインまたは登録作業をスキップ

名刺アプリ「Eight」をご利用中の方は

ボタンをタップするだけで

すぐに記事が読めます!

関連記事: