【コラム】ウクライナ和平なお遠く、幻想は禁物-チャンピオン
1963年公開の戦争映画「大脱走」では、76人の捕虜が収容所から脱出する。当初は希望と高揚感に包まれるが、結末は非情だ。生き延びたのはごく一握りにとどまり、多くは処刑されるか再び捕らえられる。
18日にホワイトハウスで開かれた米国、ウクライナ、欧州の首脳会談は、「大脱走」で描かれた冒頭の高揚感を思わせた。直前のアラスカでの米ロ首脳会談ではロシアの外交的勝利が際立っていた。それだけに、続くホワイトハウス会談では進展が印象づけられた格好だ。
今回、トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との間に衝突は生じなかった。欧州首脳は、米国との同盟関係を損なうか、あるいはウクライナと自らの安全保障に破滅的な影響を及ぼしかねない和平合意を受け入れるかという「究極の選択」を迫られる場面もなかった。むしろ会談は、ウクライナに対する安全の保証を具体化し、ゼレンスキー氏とロシアのプーチン大統領との直接会談を調整するとの約束につながった。
他の選択肢を念頭に置けば、これらは確かに成果と評価できる。ただ、安堵の空気に包まれる一方で、持続的な解決への道筋のどこに立っているのかを冷静に見極める必要がある。実際、その先行きは依然として険しい。
ホワイトハウス会談での「お世辞合戦」とも言える場から導き出された最大の成果は、ウクライナが最終的にロシアと結ぶ合意がいかなる内容であれ、ウクライナに安全を保証するとの点でトランプ氏が同意したことだった。
これは、領土を巡る問題、さらには和解への道を探る議論の出発点となる前提条件だ。米国の関与なしには成り立たず、18日以前にはその前提が備わっているとは到底言えなかった。
トランプ氏は、その保証は強固なものであり、ウクライナに対して「多くの保護」を与えると述べた。だが具体像はなお固まっていない。結局は抑止力に関わる問題であり、その実効性は移ろいやすいホワイトハウスへの信頼に左右される。ウクライナは、トランプ氏の約束を信じられるのか。より重要なのは、プーチン氏がその約束をどう受け止めるかである。
だからこそ、ロシア側の認識が鍵を握る。その保証が「北大西洋条約機構(NATO)型」の集団的防衛であれ、欧州による「有志連合」の展開であれ、あるいはその双方であれ、それによって侵攻再開の試みが不可能になるとプーチン氏に思わせることが重要だ。
とはいえ、そうした認識を支える仕組みの構築は容易ではない。本質的には、ロシアが攻撃を仕掛ければ、西側同盟国が直接戦争に加わる重大なリスクがあるとプーチン氏に認識させられるかどうかだ。しかし、プーチン氏はどう思っているだろうか。トランプ氏は「これは米国の戦争ではない」と繰り返す一方、戦争の責任をウクライナや自らの前任者に転嫁することには熱心だ。だが、主権国家に侵攻したロシアを非難することは決してない。
プーチン氏は、ロシアを歴史上の正当な地位に復させるという、自ら神聖な使命とみなす事業に取り組んでいる。ピョートル大帝からスターリンに至る指導者の列に自らも連なりたいと考えている。その計画において、ウクライナ支配の再主張は不可欠だ。何らかの便宜のためにそれを放棄することはあり得ず、成功が不可能と明白になった時にのみ断念するだろう。
ウクライナ、バルト諸国、そしてポーランドは、旧ソ連崩壊以来このことを理解してきた。だからこそ彼らは、NATO加盟を強く求めたのだ。西欧諸国の指導者がそれを理解するまでには時間を要したが、トランプ氏はいまだに理解していない。むしろ、自分ならプーチン氏と一対一で向き合えばディールをまとめられると考えている。だが、それは幻想にすぎない。ソ連国家保安委員会(KGB)の元工作員にとって格好の標的になりかねない。
筆者はこれまで、プーチン氏との対話や戦争終結に向けたさまざまな試みでトランプ氏を批判すべきではないと述べてきた。しかし、アラスカやホワイトハウスでの会談は、この戦争の根本を変えるものではなかった。その根本とは、ロシアがウクライナ南部と東部の併合を進め、残りについても支配を確実にしようとしていることだ。
プーチン氏は最終的には自らが成功すると信じている。その背景には、ウクライナの人的資源の不足がある。また、どれほど多くのロシア人が犠牲になろうとプーチン氏が意に介していないこともある。だが最も重要なのは、米国の支援なしには欧州が抵抗できないと同氏が見下していること、同時にトランプ氏が戦争から手を引く意向を極めて明確に示している点だ。
ホワイトハウス会談の成果は状況の立て直しにある。それが安全の保証や、プーチン氏とゼレンスキー氏の直接交渉に結びつくならば、さらに大きな意味を持つだろう。だが、幻想は禁物だ。とりわけ米国は、そのことを強く認識すべきである。停戦が成立していない事実は、問題であると同時に失敗を意味する。包括的な解決はいまだ遠い。今の状況で、プーチン氏が同意するのは、ウクライナ支配の確立とロシアの影響圏拡大という二つの目標を前進させる場合に限られる。
プーチン氏に勝利は不可能だと悟らせ、ウクライナと欧州が恒久的な安全の下で戦争から脱するには、米国主導の断固とした圧力が必要だ。だが残念ながら、その実現はいまだ遠い。
(マーク・チャンピオン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Ukraine Got a Save in Washington — Not an Escape: Marc Champion(抜粋)