まるで「タイヤをつけたiPhone」だ…トヨタが世界一の半導体会社と提携してつくろうとしているすごいクルマ 運転手に「この先にスタバあるけど寄っていく?」と聞いてくる
自動運転を例にとろう。
例えば、AIによる画像認識技術を使って、物体を瞬時に認識する。クルマの前を行く物体を乗用車なのかトラック、自転車、人なのかを区別する。(もちろんエヌビディアはこのAIを開発済みである)
道路を走行するシナリオを作る生成AIも必要だ。走行する道路を覚えている方が人は運転しやすいことと同様、コンピューターも道路状況を前もって学習しておく方が、判断しやすい。道路に白線がきちんと描かれているかどうかなども含め、道路状況を学習させておくと、次の動作を予測しやすい。
写真=iStock.com/Just_Super
※写真はイメージです
さらに、道路を学習するAIも重要だ。道路状況を見ながらハンドルを右に回すのか左に回すのか、道路を学習しておけば素早く動作できる。
このように自動運転ひとつとっても、さまざまなAIを作り込み、学習させ、それを使って数多の状況を予測してAIを再び作り込む必要がある。
トヨタが1社で必要なAIをたくさん作ることができるだろうか。世界最大の自動車メーカーであるトヨタといえども、それは難しい。むしろエヌビディアのAIを使いこなして自動車に導入する方が手っ取り早い。
このためにエヌビディアと自動運転車を共同開発するのだろう。
豊田章男会長の未来予測が実現する
しかし、おそらくそれだけではないだろう。
トヨタの豊田章男会長は「これからはSDVの時代になる」と述べている。SDV(Software Defined Vehicle)とは、高性能なコンピューターを導入し、外部のデータセンターと無線で接続し、新しいソフトウエアを、無線を通じて必要な時に更新することができるクルマを指す。
写真=NurPhoto via AFP/時事通信フォト
2025年1月6日、米国ネバダ州ラスベガスで行われたCES 2025で講演するトヨタ自動車会長の豊田章男氏
この場合の無線をOTA(Over The Air)と呼ぶ。コンピューター技術のハードウエア(半導体チップ)と大量のAIを構築できるソフトウエア能力を持っているエヌビディアは、SDV時代には魅力的な存在となる。
ジェンスン・フアンCEOは、2023年5月末のコンピューテックス台北2023において、世界的なファブレス半導体企業であるメディアテック(本社・台湾)の会長リック・ツァイ氏とSDVについて議論し、その必要性を次のように述べていた。
「クルマというハードウエアは製品化したら最低15年以上信頼性良く品質を保たなければならない。そうするとクルマに搭載した機能は15年間変わらず古臭くなってしまう。そこで、搭載する機能をできるだけソフトウエアで動作させるようにして、古い機能はソフトウエアを更新させるようにすれば、車体は古くても新しい機能を搭載したクルマになる」
これがSDVの本質である。
Page 2
このセキュリティ回路は、あらかじめ認証されたデータしか受け取らないため、簡単には攻撃できないようにしている。万一攻撃されても、ゾーンコントローラが仮想化された各機能を受け持つコンテナに入るときも認証が必要となり、二重のカギで守られている。それでも破られた場合に備えて、データを暗号化しておき、簡単には解けないようにしている。
このような将来のコンピューターシステムは、誰と共同開発すべきだろうか。実はエヌビディアは、CES講演の中で新型プロセッサNvidia Drive AGX Thorを発表している。これは次世代車両における中央コンピューターとしての役割を担うにはうってつけなのだ。
このチップにはCPUとGPUが集積されており、AI機能が盛り込まれている。次世代のSDVを担うコンピューターという位置づけとなる。トヨタがエヌビディアと提携したのは、最終的にはSDVで使われるさまざまなソフトウエアやAIをエヌビディアに期待したからだろう。トヨタが自社だけでSDVに関わる多様な種類のソフトウエアやAIを開発するならとてつもない時間がかかる。
ガールフレンドのように対話してくれる
トヨタにとって、エヌビディアは次世代の自動車に必要な新しいシステム、新しいチップを開発してくれるパートナーとしてありがたい存在になる可能性は高い。
ではどんなクルマができるのだろうか。
例えば、将来のクルマは単なる自動運転だけではなく、ドライブを楽しむために、AIエージェントがドライバーに「500メートル先にコーヒーショップがあるけど寄っていきますか?」と聞いてくるようになる可能性は十分ある。一人で運転していても、まるでガールフレンドのように対話してくれるようなクルマができる時代はそう遠くない。
クアルコム(米の通信技術関連会社)のCEOであるクリスチアーノ・アモン氏は、将来のクルマは(カントリーロックバンドの)イーグルズの「Life in the fast lane」の歌のようにクルマと対話するだろう、と語っている。