全米で無料エアコン配布加速、猛暑が直撃-低所得世帯の命守る

米国東部の広範囲にわたり高温注意報が発令される中、エアコンは数百万人もの命を守る不可欠な設備として、再びフル稼働している。だが、その普及は均等ではない。多くの低所得世帯ではエアコンを購入する余裕がないのが実情だ。

  このような「冷房格差」を縮小するため、無料でエアコンを配布するプログラムが各地で広がっており、数千人規模の順番待ちが発生している。こうした取り組みは住民の健康を守り、貧困対策にもつながるとみられている。

  過去四半世紀で、熱中症による死亡者数は2倍に増加。地球温暖化が進むにつれて、さらに多くの人々が危険にさらされることになる。気温の上昇は疾病リスクや死亡率の上昇と相関関係にあり、極端な暑さは生産性を低下させ、子どもの認知発達や全体的な健康にも悪影響を及ぼす。

  エール大学で環境衛生を研究するカイ・チェン氏は「熱中症による死亡は防ぐことができる」とし、「過去20年間、エアコンの使用が熱中症による死亡を劇的に減らしてきた」と指摘した。

  米国内では約1400万世帯がエアコンを所有していない。ニューヨーク市では全体の約10%の世帯がエアコンを持っていないが、アフリカ系やラテン系、低所得世帯ではその割合が倍になる。熱中症による死亡に関する同市の最新リポートによれば、市内の熱中症による死亡者数は毎年夏季に500人余りに上り、その多くが故障したり性能の低いエアコンしかない自宅で死亡しているという。冷房が行き届かない最大の原因は費用だ。

  ニューヨーク州の光熱費補助プログラム(HEAP)は、6歳未満の子どもまたは65歳を超える高齢者がいる低所得世帯にエアコンを提供している。ホークル州知事は6月、暑さによって症状が悪化しかねないぜんそく患者への支援として、低所得者であれば年齢に関係なくエアコンを提供する新たな制度を開始した。

  この新制度では、州の医療保険制度「エッセンシャルズ・ヘルスケア・プラン」の加入者を対象に、HEAPでカバーされていない年齢層に対してエアコンを提供する。

  同制度を管轄するニューヨーク州保健当局のエグゼクティブディレクター、ダニエル・ホラハン氏は「異常気象がますます頻繁に発生している中、健康上のニーズを持つ低所得層の健康管理を支援するために、この制度は非常に有意義な方法だ」と語った。

  しかし、こうした取り組みは資金不足という課題にも直面している。多くの州が実施している冷暖房支援プログラムに対する連邦政府の資金援助が危機にひんしており、エネルギー効率の高い冷房機器の購入を支援する税額控除も、トランプ米大統領が署名した最新の税制法により削減された。

  ニューヨーク州のプログラムの基盤となる「エッセンシャルズ・ヘルスケア・プラン」は、医療保険制度改革法(ACA、通称オバマケア)に基づいて導入された。ホラハン氏によれば、このプログラムには今後5年間の資金が確保されているが、新法によるACAの削減によって合法的に滞在する移民を含む約73万人が資格を失う可能性がある。

  地方の非政府団体も同様のプログラムを実施している。今週末まで記録的な暑さが続くとみられているオハイオ州シンシナティのエアコン無償支給プログラムにはすでに2700人余りが順番待ちをしている。

  特に今年は需要が高い。シンシナティのプログラムでは2022年に980台、23年と24年にはそれぞれ700台以上を供給したが、今年は1000台を超える見通しだ。

  ただ、これだけの台数を提供するには11万ドル(約1600万円)が必要となるのに対し、今年確保できている資金は7万5000ドルにとどまっており、順番待ちをしている多くの人には支援が届かない可能性がある。

  ニューヨークやシンシナティでは、気候変動の影響で、これまで以上に猛暑の夏が常態化しつつあり、両都市ではすでに気温が摂氏32度を超える日が頻繁に見られている。また、これまで冷房設備があまり普及していなかった涼しい都市でも気温の上昇が進んでおり、無料の家庭向け冷房支援プログラムはより一般的になりつつある。

  クリーンエネルギー系の非営利団体RMIで建物の脱炭素化を専門とするライラ・アタラ氏は「冷房は多くの場所でぜいたく品、あるいは『あったらいい』ものから、健康と安全にとって不可欠なものになりつつある」と述べた。

  オレゴン州ポートランド市は、21年に米国の太平洋岸北西部とカナダで数百人の命を奪った「ヒートドーム現象」を受け、非営利団体「アース・アドバンテージ」と連携して「クーリング・ポートランド」を立ち上げた。2027年までにエネルギー効率の良いヒートポンプ1万5000台を設置するとの目標を前倒しで今年達成した上、年内にさらに5000台を設置する計画という。

  ポートランド市は人口の約70%を白人が占めるが、設置先の約3割はアフリカ系、14%はヒスパニック系またはラテン系の住民で、冷房格差の是正にも寄与している。

  ヒートポンプは環境への負荷が小さく、冷房費を約20%削減できることから、理想的な解決策だとアタラ氏はいう。

  米国では毎年90億ドルが省エネプログラムに費やされているが、申請手続きの煩雑さや所得証明の負担などにより、これらのプログラムを利用している世帯はわずか3%にとどまっている。

原題:Free Air Conditioner Programs Help Amid Life-Threatening Heat(抜粋)

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