知事になるには秋田弁が必須? 移住者が知事選で抱いた違和感

秋田県知事選で初当選した鈴木健太氏(右から2人目)=秋田市内で2025年4月6日、工藤哲撮影

 「へば(それでは)」など、時として地元以外の人間には難解とされる「秋田弁」。6日に投開票が行われた秋田県知事選では、その秋田弁が一部で「争点」になった。

知事夫人「出たい人より…」

 <私はこの言葉を聞いて、ものすごくショックを受けました。秋田県は全国で最も人口減少率が高く、移住者を増やすことが大きな課題になっているはず。それなのに、こんなにも閉鎖的な発言が堂々と語られてしまうとは……>

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 知事選告示前の3月9日、「『移住者は知事になれないの?』 秋田県知事選で感じた閉鎖的な空気」と題した記事が投稿サイト「note」にアップされた。投稿したのは、仙北市で宿泊施設を経営する木元典嗣(のりつぐ)さん(49)だ。

「移住者は知事になれないの?」と題した木元典嗣さんの投稿サイト「note」の画像

 木元さんは熊本県出身。東京や大阪での生活も長く、秋田に移住して初となる今回の知事選を楽しみにしていたという。保守分裂選挙とも言われ、新人同士が事実上の一騎打ちとなった。

 noteを書いたきっかけは、本命とも見られていた候補の演説会での出来事だった。

 この候補者は秋田県出身で副知事まで務めたいわば「地元エリート」だ。

 国会議員らが駆けつけた演説会には、引退を決めていた佐竹敬久知事の妻も参加しており、妻はあいさつで「(知事選に)出たい人より、出ていただきたい人。秋田に生まれ、秋田に育ち、秋田に精通した、秋田弁が分かる方にぜひ出ていただきたい」と述べた。

 当選した鈴木健太氏は2015年から県議を務め、議会でも「若手の注目株」ではあったが、06年に妻の地元である秋田へ渡ってきた移住者でもある。

秋田を代表する伝統行事「ナマハゲ」。6日に投開票が行われた秋田県知事選では一部で「秋田弁」が争点になった=秋田県庁で2023年2月6日、猪森万里夏撮影

 鈴木氏は既に立候補を表明しており、妻の発言は鈴木氏の経歴を念頭に置いたとみられる。木元さんが投稿で「こんなにも閉鎖的な発言」と指摘したのはこの発言。移住者として初めて壁を感じたという。

 その場では発言をいさめるような出席者もなく、「いじめを止めないような雰囲気が残念だった」と振り返る。木元さんの妻で秋田出身の千恵子さん(46)は、「外から来る人にびびっているというか、恐怖心でかたくなな態度を取ってしまうことを、秋田の人はすることがある」と解説する。

「何が分かるんだ」

 総務省が24年に公表した人口推計によると、秋田は47都道府県で人口減少率トップの1・75%。県も「人口減少問題の克服」を最重要課題に掲げ、移住促進や人材誘致などを目指している。

 木元さんの投稿を受け、X(ツイッター)では「これじゃ移住者なんて増えませんよねえ……」「知事となるべき人物の資質として大切なのは『県出身で秋田弁を使えること』ではないはず」などといった反応が並んだ。

移住者として秋田で宿泊施設を経営する木元典嗣さん(左)と妻の千恵子さん=本人提供

 熊本市出身で秋田市議の飯牟礼克年(いいむれ・かつとし)氏によると、今回の発言は極端な例であり、秋田県出身ではないことを理由にした鈴木氏への批判は特に目立たなかったという。

 だが「勝負なので一部SNS(交流サイト)でそういう投稿はあった」とも指摘。自身も県外出身の議員として、SNSで「何が分かるんだ」と批判されたこともある。

 一方、今回の知事選では「若くて外から来た人に期待したい」という民意が鈴木氏を押し上げたのも事実だ。

 飯牟礼氏も、秋田への移住で感謝されることの方が多いといい「秋田には外から来た人を受け入れる雰囲気もある。その土地の人じゃないから見える魅力や課題がある」と訴える。

 秋田県にとって、県外からの移住が地域活性化にとって不可欠であることは今後も変わりない。

 木元さんは「マーケティングで顧客(移住希望者)のニーズを拾ってもらえるような県政をお願いしたい」と、新知事の手腕に期待を寄せた。【川口峻】

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