豊田織「ディスカウントTOB」、市場から失望も-非公開化に賛否

「ディスカウントTOBは驚きをもって受け止められる」-。トヨタ自動車やトヨタ不動産などが公表したトヨタグループ源流企業の豊田自動織機に対する株式公開買い付け(TOB)計画で提示された価格は1株当たり1万6300円と、直近の株価を下回る水準となった。プレミアムを期待していた市場からは失望の声も聞かれた。

  フィリップ証券の増沢丈彦株式部トレーディング・ヘッドは豊田織の株価には3日に至るまで「プレミアムが乗っていた」と指摘。基本的にTOB価格にはプレミアムがつく前提で取引され、トヨタ関連など著名な銘柄でディスカウントTOBが起こると今後投資家はTOBに対して「より慎重にならざるを得ない」との見方を示した。

  みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジストも「プレミアムを払うのが普通だ。ディスカウントは非常に苦い」とコメント。子会社でもないのにディスカウントで買うことには問題もあり、アクティビストが反対する可能性もあるとした。

  トヨタは一連の計画の目的について、自動車業界が変革期にある中で豊田織の非上場化を通じてグループ内のさらなる連携強化を図り、物流分野などに強い同社がモビリティカンパニーへの進化をけん引していくことへの期待があるとを明らかにしている。トヨタとデンソーアイシン豊田通商の間の株式持ち合いを解消できる利点もあるとした。トヨタやグループ企業は今後の業績や市場シェア争いで結果を出すことで今回の判断が正しかったことを証明する必要がある。

豊田会長も出資

  トヨタなどによる豊田織の買収・非公開化については4月25日に最初に報じられて以降、豊田織の株価は買収に伴うプレミアムへの期待もあって大幅に上昇。3日は4営業日続伸となる前日比0.8%高の1万8400円とブルームバーグの記録に残る1974年9月以来の最高値を更新して取引を終えた。

  一方でトヨタグループは価格の正当性を強調する。トヨタ執行役員でトヨタ不動産取締役も務める近健太氏は3日に開いた説明会で、同日の終値に対しディスカウントとなった買い付け価格について、織機の「本源的価値というものを十分に考慮したものだ」だと説明。買収計画が4月25日に報道される前の株価を上回っており、「織機の株式を中長期的に保有している株主に対しては、十分なプレミアムによる売却機会を提供できるものだ」とした。

  前日の段階で共同通信が豊田織が買収提案を受け入れ、買収総額は6兆円規模に達する可能性があると報道。トヨタは3日朝に出した声明で、報道に関して同日に機関決定する予定とした一方で、「株式取得の対価総額が6兆円規模を上るかのような記載をはじめ誤解を招きかねない内容を含む」と注意喚起していた。

  トヨタ広報担当によると手数料などを含め買収にかかる費用は総額で約4兆7000億円になるという。豊田織の説明によると、非上場化の過程で既存の有利子負債(約1兆7000億円)の返済も実行される予定だ。創業家出身でトヨタ会長を務める豊田章男氏が10億円出資する理由については、今回の買収へのコミットメントを示すためと説明した。

モビリティー企業へ

  豊田織の株主からもため息が漏れる。英ゼナーアセットマネジメント創業パートナーのデービッド・ミッチンソン氏は、「これはトヨタグループのための取引であり、豊田織の株主のためのものではない」と電子メールでコメントした。トヨタグループの取締役会も豊田織の取締役会も、最良のガバナンスに則って行動しているとは言えず、土地の市場価格での評価といった事なども考慮されていない模様だと主張する。

豊田自動織機の長草工場に掲げられたロゴ(愛知県大府市、4月29日)

  トヨタの山本正裕経理本部長は説明会で、豊田織をトヨタが「完全子会社化するようなストラクチャーも一つの検討の中にはあった」と明かした。ただ、完成車メーカーが必ずしも親会社になる必要はないとの結論になり、トヨタグループ各社で豊田織の成長を支援していく今回の形になったと説明した。

  ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生アナリストは非公開化そのものの意義に対しては賛否両論があり得るとし、外部の投資家や市場からの短期的な圧力に影響されにくくなることで長期的視点や創業家のビジョンが反映されやすくなることや、意思決定のスピードアップが図れるといった点を挙げた。

  ネガティブな点としては豊田織の経営実態が外から見えづらい「ブラックボックス化」の恐れがあり、グループの透明性や独立性、監督機能が脅かされるのではないかと見られる可能性もあると指摘した。

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