焦点:尖閣諸島、日本漁船がいなくなった海 緊張危惧し当局が働きかけ

[沖縄県石垣市 27日 ロイター] - 仲間均さん(76)は、日中がにらみ合う東シナ海の最前線で日本の主張を守る「防人(さきもり)」を自認している。沖縄県石垣市の市議でもある仲間さんは、高級魚アカマチが獲れる尖閣諸島の豊かな漁場で、中国の公船の接近を受けながら漁を続けてきた。ところが日中関係が悪化した2025年11月以降、同海域で操業する漁師に対して出漁を控えるよう日本の当局が働きかけていたことが明らかになった。高市内閣の主要閣僚である片山さつき財務相が、仲間さんに面会して尖閣諸島での漁について意見を交わしていたことも分かった。

ロイターの取材で浮かび上がった一連の動きは、日本の実効支配を示そうと尖閣諸島周辺で漁をする一部漁師を黙認してきた当局の姿勢が、急速に転換した可能性を示している。石垣島の北約170キロに位置し、5つの島と3つの岩礁からなる尖閣諸島は、中国も釣魚島と呼び領有権を主張しており、これまでたびたび日中関係を悪化させる火種となってきた。

日本で尖閣諸島、中国で釣魚島と呼ばれる東シナ海の島々の位置を示した地図

日中関係は2025年11月7日、台湾有事が日本の存立危機事態になりうるとした高市首相の国会答弁をきっかけに急速に冷え込んだ。同25日に高市氏と電話会談したトランプ米大統領は、日中関係のさらなる悪化を望んでいないと伝えたことがロイターの取材で分かっている。

漁師らに対する当局の働きかけが高市氏の指示によるものなのか、日米首脳間のやり取りと関係しているのか、ロイターは確認できていない。首相官邸と外務省は、漁師らに出漁を控えるよう要請したかどうかロイターの取材に回答を控えた。その上で外務省は尖閣諸島について、日本固有の領土であり中国の領海侵入に対して繰り返し抗議を行っているとした。

漁師が周辺海域で操業することは日本が尖閣諸島を有効に支配していることを裏付ける一方、中国公船との間でより深刻な衝突を引き起こすリスクがあり、事態が急速にエスカレートしかねないと、ロイターが取材した漁師や政府関係者、石垣島の関係者、専門家などは指摘する。一方、日本側が引けば中国がより強硬に領有権を主張するようになる可能性があるともみる。

中国外務省はロイターの取材に、日本の一部右翼が「漁業」を名目に繰り返し島の周辺海域に入り、挑発とトラブルを引き起こしていると主張。海洋問題は対話と協議を通じて対処すべきだとした。トランプ政権の高官は、11月の日米電話首脳会談に関する質問にはコメントを控える一方で、米国は東シナ海で現状を一方的に変更しようとする試みに反対しているとした。

<小さないざこざが戦争に>

漁師らに対する当局の働きかけがあったのは11月中下旬。仲間さんが尖閣諸島で漁をするのを資金面で支える不動産会社代表の林弘明さんは、仲間さんが同月末に計画していた出漁を取りやめるよう説得してほしいと海上保安庁の関係者から連絡を受けた。「尖閣諸島を守る会」の会長も務める林さんによると、仲間さんは仕方なく受け入れたという。

与那国島の漁師、金城和司さん(53)は11月26日に沖縄本島の那覇港を出発し、漁をしながら1週間かけて与那国へ帰る計画だった。尖閣諸島を構成する大正島周辺でも操業するつもりだったが、出港直前と航海中、尖閣へ行かないよう複数の関係者から電話を受けた。金城さんは最短ルートで帰島するため尖閣領海を通過したものの、漁はしなかった。それでも中国公船2隻に一定の距離を開けて並走されたという。

およそ3週間後の12月19日、仲間さんと林さんは東京の霞が関にいた。仲間さんの活動を支援する「尖閣諸島を守る会」の顧問だったことがある片山財務相と面会するためだった。2人は大臣室のテーブルをはさんで片山財務相と向き合った。しばらく沈黙が続いた後、仲間さんの尖閣諸島の漁が話題になり、片山大臣は「小さいいざこざがだんだんだんだん大きくなって、それが戦争につながる」と話したという。直接的な言及はなかったものの、尖閣へ行かないでほしいというメッセージだと仲間さんは受け止めた。

「もう行くな、ということですよね」。仲間さんは石垣島南部の登野城漁港に停泊する自身の漁船の上でロイターに語った。

片山財務相の議員事務所は「政治日程については事務所で公表しているものを除き、外部からの問い合わせに回答していない」とした。海上保安庁は「個別具体的な対応についてはコメントを差し控える」とした上で、「日本漁船の安全を確保する目的で、必要に応じ、関係者に対して尖閣諸島周辺海域の情勢についての情報提供を行っている」と回答した。

中国公船はほぼ常時4隻が尖閣諸島周辺を航行している。日本の漁船が領海内で操業を始めると近づき、海上保安庁の巡視船が間に入って漁船の安全を確保している。「中国の海警が突っ込んできたところに海上保安庁が入り込んできたが、その時も船と船がぶつかるんじゃないかと思った」と話す仲間さんは、命の危険を感じたこともあるという。

尖閣諸島が所属する石垣市の中山義隆市長はロイターとのインタビューで、日本の当局から漁師に要請があったことは直接ではないながら耳にしていると語った。「中国側が国内向けに何らかの対抗策を取らないといけない状況にあると思うので、そういう状況で漁に行った場合、拿捕や臨検される可能性が高まっている」とし、「実際に逮捕されたりするとさらに大きな国際問題になるので、政府としてはそれを避けたいのではないか」と述べた。

中国は経済成長とともに海洋進出の動きを強め、南シナ海では海警局の船がフィリピンの漁船に放水銃を使用する事案が発生している。日本との間では2010年、尖閣諸島周辺で巡視船に体当たりしてきた中国漁船の船長を海上保安庁が逮捕。日本が2012年に尖閣諸島を国有化すると、両国関係は一気に悪化した。海上保安庁が2025年に尖閣領海外側の接続水域で中国公船を確認した日数は、357日と過去最多を更新した。

米国は日本に対する防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されると繰り返し確認してきた。もしこの海域で衝突が起きれば、米中2大国を巻き込む恐れがある。「中国はこの島々への主張を一段と強めており、この周辺は異常なほど緊張している」と、ロンドンの国際問題戦略研究所(IISS)で日本担当部長を務めるロバート・ウォード氏は語る。「日中関係を悪化させる『導火線』のようなものだ」と、ウォード氏は言う。

2025年に尖閣諸島(中国名:釣魚島)沖の領海に接する接続水域で中国海警局の公船を確認した日数を示した棒チャート

<豊かな漁場>

尖閣諸島と漁業は古くから結びついてきた。日本が19世紀後半に領土として編入した後、最大の島の魚釣島には1930年代まで鰹節の製造工場があった。日本政府が委託した調査によると、中国が領有権を本格的に主張する前の1977年には日本の漁船が少なくとも164回尖閣へ行った。

それが昨年は確認できるだけで8回。2024年の18回から減少した。仲間さんと彼の支援者たちは、周辺での漁業活動が日本の実効支配を示すとして減少に歯止めをかけたい考えだ。昨年12月、神奈川県横須賀市にある「記念艦三笠」の艦内で開かれたイベントに仲間さんが登壇すると、出席者から大きな拍手が起きた。

明治学院大学国際学部のポール・ミッドフォード教授は、仲間さんらの主張には一定の説得力があるとしつつ、日中双方が尖閣への支配を競い合う中でエスカレーションを招く恐れがあると指摘する。一方、IISSのウォード氏は、日本の経済活動が完全になくなれば、中国が自国の船を大量に送り込む口実を与える可能性があると話す。「尖閣諸島において日本がその存在を示し続けることは非常に重要だ」とウォード氏は言う。

今年1月14日、石垣島では日本が尖閣諸島を編入した日を記念した式典が開かれた。中国は同日、海警局の船4隻を領海内に送った。八重山漁業協同組合の田中俊継市場課長は、「2010年の中国の船の衝突事故以来、尖閣まで行く漁師はほとんどいない」と語る。「我々は市場の人間だから大きい魚を釣ってきてもらって高く売れれば良いと思ってるけど、実際釣りにいく漁師さんは怖いと思う」と話す。

それでも金城さんと仲間さんは、再び尖閣諸島へ行くつもりだ。金城さんは、自身が行くのは政治ではなく生活のためだと語った。周辺の海域は高級魚アカマチ(ハマダイ)の宝庫で、「向こう(尖閣諸島)がないと飯を食えない。もし(また)行くなって言われても行く」と話した。

石垣島や与那国島がある八重山地方も、冬の間は海が荒れる。石垣島から片道約7時間かかる尖閣諸島への出漁は、波が高いと難しい。漁港に停泊した仲間さんの船も波で揺れていた。石垣のために豊かな尖閣で自由に経済活動をできるようにしたいーー市議でもある仲間さんは、甲板のクーラーボックスに腰掛けながらそう語った。「この船がある限りはもう行きますよ。 行き続けますね」

(勝村麻利子、Tim Kelly、久保信博、John Geddie 取材協力:Laurie Chen in Beijing and Trevor Hunnicutt in Washington グラフィックス作成:照井裕子 編集:橋本浩)

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Mariko is a financial journalist with more than 15 years of experience. Most recently she is a breaking news correspondent for Reuters in Tokyo, writing everything from business, social issues, political developments to human-interest pieces. She has previously covered aviation, real estate, non-bank sectors as well as fund raising deals, and won a number of in-house awards. Mariko has earned her MA in International Journalism from City, University of London.

John is the lead writer for Japan & Greater China, reporting on everything from elections to earthquakes. Previously based in Singapore and London, his work has received several journalism accolades, including a 2022 SOPA Award for Excellence in Reporting on the Environment.

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