焦点:為替市場に「トランプ介入」不安、G20合意も円や元を名指し
[東京 4日 ロイター] - トランプ米政権発足後に20カ国・地域(G20)が初めて開いた2月の財務相・中央銀行総裁会議は、為替の国際合意を巡って2021年4月の認識を再確認し、無風で終わった。しかし、肝心のベッセント米財務長官は不在で、トランプ氏が3日の会見で日本円と人民元を名指ししたように、米国が関税と絡めて貿易相手国の通貨安への疑念を強める展開も予想される。
<不確実要因拭えず>
過度な変動や無秩序な動きは、経済や金融の安定に悪影響を及ぼす――。
先月26、27両日、南アフリカで開催されたG20では、共同声明の発出は見送られた。ただ、議長総括として従来からの為替合意は明記し、共有した。「過度な変動と競争的な切り下げを避ける内容。再確認するのは恒例行事」と、元財務省幹部の1人は語る。
とはいえ、ベッセント財務長官は「トランプ大統領との任務」を理由に不在で、市場では「トランプ政権はG20を軽視しており、合意に縛られるつもりもない。19カ国・地域での合意に意味はない」(ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミスト)との受け止めも目立つ。
G20に先立つ先月14日、ベッセント米財務長官はトランプ政権が相互関税の導入に向けて行う貿易相手国に関する調査について、為替操作も調べる考えを示した。「通貨政策への口出しが為替市場の大きな不確実要因。今後、数カ月は常在戦場で楽観できない」と、前出の上野氏は言う。
<日銀飛び火の思惑>
実際に日本政府に連絡があったかは現時点で分かっていない。加藤勝信財務相は4日の会見で、「(日本は)通貨安政策は取っていないし、先般の為替介入をみれば、ご理解いただける」と語った。
しかし、市場にはこうしたトランプ政権の姿勢が、日銀の金融政策に飛び火するのではないかという思惑がある。名目金利から物価変動の影響を除いた実質金利は、日本がまだマイナス圏から抜け出せておらず、主要7カ国(G7)では突出して低い。
「日本の実質金利のマイナス幅は世界的にみてまだ相応に大きい。トランプ政権が日銀の金利正常化の遅れが円安の要因のひとつと判断すれば、日本政府を通じて金融政策に踏み込んだ外圧をかけてくる可能性も否定できない」と、大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは語る。
4月23、24両日に米ワシントンで予定されるG20財務相・中銀総裁会議を控える。それに先立ち「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)以上に、為替は政治的な思惑で上下しやすい」(前出の石月氏)との警戒感が残る。
<円140円割れ警戒>
ドル/円は、2024年7月3日に161円94銭と、1986年12月以来38年ぶり(当時)の安値となった以降、累次の為替介入などを経て円高傾向にある。直近では、一時148円56銭と、約4カ月ぶりの円高水準を付ける場面があった。
ただ、急ピッチな動きには懸念も伴う。
24年12月の日銀短観によると、24年度の想定為替レート(全規模・全産業)は146円88銭。年度末までの変動には為替予約で対処が進んでいるとみられるが、上下5円を超える変動を企業が吸収できるかは不透明だ。
「ここ数年の円安で輸出競争力が高まったのは事実。(円安是正の流れは)物価面ではメリットだが、急速に140円を割り込むようだと輸出産業に影響が及ぶ」と、ニッセイ基礎研の上野氏はみている。
(山口貴也、竹本能文 編集:久保信博)
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