日米関税協議の裏テーマは為替の可能性、アナリストらは円高容認読む

船曳三郎、日向貴彦

  • 目的は米貿易赤字の削減、物価上昇苦しむ日本も円高誘導やりやすい
  • 日本は他国との交渉モデルに、1カ月以内に130円台もおかしくない

赤沢亮正経済再生相が16-18日の日程でワシントンを訪れ、日本と米国の関税を巡る閣僚級協議が始まる。米国が為替問題も取り上げるとの読みから市場の注目は円相場の行方に集まっており、アナリストらは米国の対日貿易赤字の削減を間接的に支援するため、日本が円高・ドル安を容認すると予測している。

  トランプ米政権が4月から全貿易相手国に一律10%の関税を課す中、対米貿易黒字の多さから税率の上乗せを示唆している国や地域のうち、日本はトップバッターとして米国との交渉に臨む。日本の交渉役である赤沢経済再生相は11日、米側のベッセント財務長官から為替に関する議論が提起された場合、応じる考えを示していた。

関連記事:赤沢再生相、為替の話題が米側から出れば議論に応じる-対米関税協議

  米国は当初、上乗せ税率を適用する日本への関税率を24%に設定したが、9日に対象国・地域への上乗せ分の実施を90日間停止すると発表。さらに、米国に輸入される自動車への関税の一時免除も検討している。一方、米国は日本に対し、農産物や液化天然ガス(LNG)の輸入を巡り譲歩を求めている。

関連記事:トランプ氏、自動車への関税一時免除を検討-国内生産整備へ猶予

【ストラテジストやアナリストの見方】

ソニーフィナンシャルグループの森本淳太郎シニアアナリスト

  • 円安に対して懸念を共有するようなヘッドラインが流れれば、円高圧力が一段と強まる可能性がある
  • 日本は米製品に対する関税が元々低く、できることは円安是正とLNGなどの輸入拡大。目的は米貿易赤字の削減
  • 国民も円安で物価上昇に苦しんでおり、円高への誘導はやりやすい。関税政策と金融政策を結び付けることはあってはいけないが、実際は日銀に利上げを促しやすい

野村証券の松沢中チーフストラテジスト

  • 米政府は日本との貿易交渉をモデルケースにしようとしているのだろう。米国からの要求で、日本が急激な円高と債券市場のイールドカーブのスティープ化に直面するリスクがある
  • 米経済に頼り切った世界経済が見直されており、自然な流れとして今はドル安が進みやすい環境
  • 1カ月以内に1ドル=130円台に入っても全然おかしくない

ラボバンクのストラテジスト、ジェーン・フォーリー氏

  • 日本は円が適度に強くなることに問題はないという姿勢を明確にする可能性がある。ベッセント米財務長官が日本との貿易交渉を主導するとのニュースが流れた直後から、ドル・円の価値が交渉材料になるとの憶測が飛び交う
  • 日本は現在の円の価値が低過ぎると譲歩する可能性はあるが、交渉チームは為替レートの変動を警戒しており、この点はあまり譲歩しない可能性が高い
  • 今後数週間の間に円相場が下落する余地はあるものの、今年中にG10通貨の中で円が上昇首位の座を再び奪還する力を楽観視している
  • 円は対ドルで年末の目標値145円を上回っており、今後数週間のうちにこの予測を修正する可能性もある

ニッセイ基礎研究所の福本勇樹金融調査室長

  • 日米関税交渉では為替の話になるというのがコンセンサス
  • 日本政府が円高に誘導したいというのが市場の考えで、関税交渉が行われる前までは為替は円高方向、金利は高く、株価は下落するだろう
  • とはいえ、投資家は不確実性に備え、どちらかにかじを切っているわけではない
  • 今回の交渉の成否にかかわらず、米中関係の行き詰まりで世界経済が悪化し、最終的に日本が冷や水を浴びることもあり、最悪のシナリオは金融危機のような流動性危機が起こることだ

SMBC日興証券投資情報部の太田千尋部長

  • 交渉がうまくいけば、日本株にとってポジティブだろうが、 より重要なのは東南アジアの政府がどう頑張るかで、グローバルに関税がどういう姿になるかということだ
  • ベトナムで商品を製造しているアシックスを含め、東南アジアに展開している日本企業は多く、東南アジアへの関税政策が特に注目される
  • トランプ関税で世界貿易の再構築が起こる。日本の交渉が最初になり、日本は一番メリットを受ける国として浮上する可能性がある

野村証券の荻野和馬シニア・クレジット・アナリスト

  • 金利や為替が議論され、その後日銀が利上げを促されれば、円金利は上昇するだろうとの予測が広まる
  • 金利上昇前に発行体が社債を売りたい一方、投資家は購入を控えたいと考えており、社債の供給過剰につながり、クレジットスプレッドは拡大する可能性がある
  • 円高になると株が下がり、金利が上がってしまうため、クレジット市場では金利リスクと信用リスクを抑えた保守的なアプローチを取るようになる
  • 投資家は年限が短く、信用格付けの高い社債を購入する可能性が高い
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