「北戴河」前、習氏が示した危機感と自信、9月訪米控え調整前倒しも

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中国共産党指導部内で、引退した長老らとの調整のカギを握る重要人物が今年も河北省にある海辺の保養地、北戴河に姿を現した。総書記、習近平(シー・ジンピン)の最側近とされる政治局常務委員、蔡奇(ツァイ・チー)だ。中国国営中央テレビ(CCTV)は3日夜、蔡奇が北戴河で休暇をとる各分野の専門家らと会ったと伝えた。

蔡奇は党内序列5位。2022年秋に開催した前回共産党大会で最高指導部入りした。翌23年の夏以降、4年連続で1日の狂いもなく8月3日に北戴河に登場している。随行する党政治局委員兼中央組織部長らの顔ぶれには変化があってもだ。

恒例となっている蔡奇の北戴河入りに関する公式報道は、習ら現役指導部と長老らが重要課題に関してじっくり意見交換するいわゆる「北戴河会議」開始の号砲と見なされてきた。

ただ、今年に関しては気になる点がある。「(経済運営、外交方針など)目下の重要課題を巡る党内調整がこれまでに比べて前倒しで行われている」。中国政治に詳しい人物の見方だ。

その理由は、習の外交スケジュールである。習は9月後半、公式訪米し、米大統領のトランプと会談する外交日程が既に固まっている。北戴河会議の後、8月後半まで夏季休暇をとっていたら、喫緊の課題を巡る調整が滞りかねない。

しかも10月には中央委員会第5回全体会議(5中全会)の開催が決まっている。外交、内政とも調整事項は山積しており、その一部は7月中から前倒しで処理が進み始めたと見てよい。この前倒しの調整に長老らとの意見交換まで含まれているのかは不明だ。

注目したいのが7月後半の政治的な動きである。「我が国(中国)の経済は現在、なお幾つかの困難と課題に直面している」「調査研究を踏まえて的確な提案をしてほしい」。これは7月24日、北京・中南海で共産党を支える外部の各党派、全国工商連の人々らとの座談会で習自身が明言した内容だ。主催は共産党中央である。

この習発言が公表されたのは、共産党の政治局会議が開催された7月30日になってからだった。習はここで外部の各党派に思想・行動上の結束を強く呼びかけ、経済好転に資する的確な提案をしてほしいとまで語った。

単なる参考意見の提供ではなく、「的確な提案を」という明言は踏み込んでいる。権力集中を進めてきた習は全ての課題についてトップ主導で決定する雰囲気を醸し出してきた。その雰囲気とは趣が異なる。

それだけ共産党外の動向、幅広い一般世論を気にしはじめた証拠でもある。数多く存在する外部の党派は共産党による一党支配体制の「翼賛勢力」ではある。だが、共産党そのものではない。

座談会の場には、経済を担当する共産党序列2位の首相、李強(リー・チャン)、そして蔡奇もいた。だが、困難と課題について説明し、各派にさらなる提案を要請したのが、李強ではなく習自らである点が重要だ。

裏を読むなら、中国経済の停滞、若者の失業などで国内に無視できない不満がたまっており、共産党トップ自ら党外に協力を要請し、提案を募る必要があったとも解釈できる。共産党だけでは対処しきれない危機という認識だ。

7月半ばに公表した中国の4〜6月期国内総生産(GDP)は実質で前年同期比4.3%増。成長率は1〜3月の5.0%を大幅に下回り、政府が掲げる通年目標「4.5〜5.0%」の下限にも届かなかった。危機という認識は当然だ。

問題はこの後である。習自らこれだけの危機感を示した以上、政策上も大きな変化があってしかるべきだ。だが、いまだそれが見えない。7月30日の政治局会議に関する発表内容では、深刻な消費不振への対策よりも、先端産業を重視する現行の中国経済モデルを推し進める雰囲気がにじむ。

習政権が進めてきた従来路線には大きな問題はなく、基本的に成功しているという認識だ。ある種の「自信」と言い換えてもよい。7月24日に示していた危機感の表明とギャップがあるのだ。

この奇妙なギャップの裏には「政治的な事情」がある。もし、今、大胆な路線転換を打ち出さざるをえないなら、従来路線のミスを認めることになる。その場合、来年27年に予定する次期共産党大会で人事を一新し、世代交代すべきだ、という声が高まりかねない。

7月30日の政治局会議で決定した10月に開催する5中全会のテーマ設定も「政治的な事情」に大いに関係している。いわゆる政策論議ではなく、誰も反対できない「厳格な党内統治」だ。

習政権が発足当初から一貫して進めてきた「反腐敗運動」と一体の党に対するガバナンス強化。その成果をアピールし、来年の党大会で習をトップとする政権の4期目入りをうかがう構えだ。

課題は残っている。23年秋に開くはずだった3中全会が24年夏にずれ込み、その後、25年秋の4中全会までには、軍上層部の大規模な粛清があった。そして26年1月には、軍制服組トップの中央軍事委員会副主席、張又俠(政治局委員)と中央軍事委メンバーの劉振立に対する重大な規律違反の疑いによる調査開始が公表された。

それから半年もの長い時間がすぎた。ところが張又俠らへの調査結果の発表はいまだにない。7月末に開かれた政治局会議に関する発表文でも張又俠らへの言及はなかった。調査はかなり慎重に進められている。

一方、4月に調査開始を公表した政治局委員の馬興瑞に対しては、6月30日の政治局会議で共産党籍の剝奪という処分が既に下った。主として親族の汚職だったにもかかわらず、厳しい処分となった。5中全会で馬興瑞への処分を追認するとも明言している。

張又俠、馬興瑞とも習に極めて近い側近だった。ただ、党内での政治的な影響力は比べものにならない。張又俠は、革命時代からの共産党幹部、軍人の子弟を指す「紅二代」。習と同じグループに属している。長老らとの人的パイプも太い。これに対し馬興瑞は習時代になってから急速に台頭した新興勢力にすぎない。

今夏の北戴河会議での長老らとの意見交換を経て、「厳格な党内統治」をテーマとする5中全会を開くまで、張又俠らにいかなる処分を下すのか。まずはそれを注視したい。(敬称略)

中沢克二(なかざわ・かつじ)1987年日本経済新聞社入社。98年から3年間、北京駐在。首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。2012年から中国総局長として北京へ。現在、編集委員兼論説委員。14年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。
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