「火垂るの墓」海外の反応は?戦争映画ランキングで上位、「子どもの犠牲は今も起きている」の声も
戦後80年となる今年、スタジオジブリの映画「火垂るの墓」が7月からNetflixで配信スタートし、終戦の日8月15日には、日本テレビ系金曜ロードショーで7年ぶりに放送される。
約1年前から海外での配信が始まっており、Netflixの非英語部門グローバルランキングで7位にランクイン。子どもたちの視点から戦争の悲惨さを描いたストーリーは、世界の人々に衝撃を与えたことがうかがえる。
配信前からDVDなどが販売されてきた「火垂るの墓」は、海外でどのように評価されてきたのか。現地の映画批評や報道などをもとにまとめた。
「火垂るの墓」の監督は、スタジオジブリの設立に参加し、2018年に亡くなった高畑勲さん。原作は、野坂昭如さんが自身の戦争体験をつづった半自伝的同名小説だ。第二次世界大戦末期、神戸で暮らす14歳の兄・清太と4歳の妹・節子が、空襲で家と母親を失い戦争孤児となり、食料不足や病に襲われながら必死に生き延びようとした姿を描く。1988年に宮崎駿監督の「となりのトトロ」との2本立てで上映された。
アメリカの著名映画批評家の故ロジャー・イーバート氏は2000年に「火垂るの墓」について、こう評したことで知られている。
「火垂るの墓は、アニメーションの本質を問い直すほどの強烈な感情的体験をもたらす。黎明期からアニメーションは子どもや家族向けの『漫画』に過ぎなかった。ライオンキングやもののけ姫、アイアン・ジャイアントなどの最近のアニメーションはより深刻なテーマを扱い、トイ・ストーリーやバンビのような名作は、観客の涙を誘うこともある。しかし、これらの作品は安全な一線を越えることはない。涙を誘いはするが、痛みを伴うことはないのである」
イーバート氏は「偉大な戦争映画の一つ」として位置付け、アメリカのメディアが選ぶ戦争映画ランキングにも、「火垂るの墓」は英語作品と並んで度々選出されてきた。
イギリスの大手紙The Guardianは2013年にレビューを掲載した。清太と節子が体験する空襲や飢え、大人たちの無関心について言及しながら「すべてが苦しみと絶望というわけではない」とし、「自然の美しさや子どもらしい喜びが感じられる魔法のような瞬間もあり、それがこの悲劇をさらに悲惨なものにしている」と紹介している。
高い評価を受ける一方で、日本の近隣諸国に対する植民地支配と侵略で甚大な被害があったにもかかわらず、「火垂るの墓」は、日本が「戦争の被害者」として強調して描かれているとの指摘は、欧米からもアジアからも上がっていた。
学術団体「Association for Asian Studies(アジア研究協会)」は、アメリカの授業で本作を取り上げる際に、「ただただ悲しく感動的なものとして捉える」生徒と、「日本人が被害者として描かれていることに異議を唱える」生徒がいるだろうと指摘。その上で、「第二次世界大戦におけるアメリカと日本の集団的記憶の違いについて、授業で議論する良い機会となる」とつづっている。
1945年まで日本に植民地支配されていた韓国では、戦後も日本の映画や漫画などの大衆文化の流入が規制されていた。しかし、98年の「日韓共同宣言」を機に、当時の金大中大統領のもと日本の大衆文化は段階的に「開放」されていった。
韓国でもジブリの人気は高く、2006年に開かれた高畑勲監督展で「火垂るの墓」が上映されたが、初めて映画館で一般上映されたのは2014年。新聞社のハンギョレは、韓国で長らく一般上映がされなかった経緯について「日本を戦争の被害者のように思わせる」といった批判があったためだと報じている。
しかしこのような見方には韓国国内でも反論があり、「火垂るの墓」を評価する意見もある。
映画メディアCine21は、高畑展当時の2006年に「『火垂るの墓』は日本帝国主義の礼賛?」と題した映画批評家のレビューを掲載した。
劇中、清太が日本の敗戦を知り「負けたって本当ですか?日本が?大日本帝国が?」と言うシーンについて「敗北に対する悲しみよりは、大人たちが生み出した虚しい幻影を信じ込んだ幼い子どもに対する憐憫がより強く感じられる。この映画で重要なのは、戦争という巨大な暴力の中で犠牲になった2人の子どもの悲劇であり、特定の体制に対する政治的宣言ではない」と論じている。
自身も9歳の時に岡山で空襲を経験した高畑さんは、こうした議論をどう受け止めていたのか。現地メディアによると、06年に韓国を訪れた際には、「中国や韓国に対して日本が行ったことは間違っているが、アメリカと日本の関係を考えれば日本が被害者」だとしつつも、「しかしそのような部分に韓国の人が疑いの目を向けるのも当然のことと受け止めている」と述べていたという。
「火垂るの墓」は大手メディアや批評家だけではなく、大衆からも大きな注目を集めている。YouTubeで英語タイトル「Grave of the Fireflies」と検索すると、100万回以上再生されたリアクション動画がいくつも並ぶ。
ベトナムでは、Netflixでの配信が始まった後に、映画館でも一般上映され、「ベトナム戦争を思い起こさせる」との感想も目立った。SNSやレビューサイトでは、今世界各地で起こる戦争や紛争、子どもたちの飢餓による死などに触れ、「ウクライナやガザの状況と重なる」「子どもたちの犠牲は今も起きている」などの感想も数多くみられた。