ブレない球児監督と懺悔繰り返す阿部監督 指導者経験の有無で指揮官の資質は測れるのか 鬼筆のトラ漫遊記
凛(りん)とした姿勢を全く崩さない虎の将・藤川球児監督(44)と、懺悔(ざんげ)のやまない巨人・阿部慎之助監督(46)の姿が継続するならば、球界の定説はどこかに吹き飛び、阪神のV機運は高まるはずです。阪神は40試合消化時点で22勝16敗2分けの貯金6で首位。一方、ライバル巨人は42試合消化時点で21勝20敗1分けの4位。感情の揺れが少ない球児語録に比べ、最近の阿部語録は「私の采配ミス」と自虐的に語る場面が増えています。両軍監督の明暗は残り約100試合で変遷するのか…。流れが変わらなければ、現状の立ち位置(順位)は最後まで不動のはずです。
広島との「死球騒動」
西と東の伝統球団を率いる指揮官の姿がまるっきり違います。いやはや、大きく違ってみえてしまいます。首位を走る阪神の藤川監督はブレがなく、凛とした姿勢を貫いていますが、巨人・阿部監督の近々の言動はどうも自虐的。なにやら自信を喪失しているのではないのか?と首をかしげざるを得ない言葉が聞こえてきます。
まず藤川監督の姿勢ですが、注目すべきポイントは広島・新井貴浩監督(48)との間で勃発した「死球騒動」に対する、その後の言動です。
メンバー表を交換する際、目を合わさずに握手する(左から)阪神・藤川球児監督と広島・新井貴浩監督=16日、甲子園球場(松永渉平撮影)事の発端は4月20日の阪神-広島戦(甲子園球場)で起きた広島・岡本の坂本への頭部死球。変化球のすっぽ抜けによるもので、岡本はすぐに頭を下げ、坂本も狙われたわけではないことを直感していましたが、ベンチから飛び出した藤川監督は激高。広島ベンチに向かって何かをまくし立てました。新井監督ら広島ベンチからも全選手が飛び出してきましたが、すわ乱闘か!?というよりも、広島側からは『あの程度でなんで激高するの?』という戸惑いの空気が…。
その場はそれで収まったのですが、死球騒動以来の対戦となった16日からの阪神-広島3連戦(甲子園球場)では、試合前のメンバー表交換の際、両軍監督ともに目を合わさず2試合が経過。やっと第3戦で目が合い、挨拶を交わしたのですが、広島・新井監督は1-3で敗れた試合後に心境を吐露しました。
試合前、目を合わせてメンバー表を交換する阪神・藤川球児監督(22)と広島・新井貴浩監督=18日、甲子園球場(松永渉平撮影)「前回ああいうことがあって、こちらとしては謝罪をしていた。ああいうふうに来られたら、自分もチームを預かる者として、また年長者として、もう腹に据えかねるものがあったので」と説明した上で、「もうこれで終わりです」と〝遺恨終結〝を強調しました。
戦う姿勢前面に
しかし、一方の藤川監督は試合後、メンバー表交換の際に新井監督と握手をしたことについて質問が飛ぶと、「ここでお話しすることではないし、それが質問に上がること自体が会見としてはふさわしくないんじゃないかな。ゲーム後の会見としては、できたらその質問は控えていただけるとありがたいですね」とはねつけたのです。
どうして虎の指揮官は発言を避け、質問すら受け付けなかったのか。きっとグラウンドは自分たちの生活を懸けた戦場であり、ファンの期待に応えるために最大限のエネルギー(能力や闘志)を使わなければならない場所-という認識が極めて強いのでしょう。明らかなすっぽ抜けであっても自軍の選手の頭部に当てた相手の投球が許せなかったからこそ、自軍の選手たちも驚くような激怒の姿を見せた。そして、同じグラウンドの中で相手監督と〝手打ち〟を行うことは戦う姿勢の中で有り得ないし、和解を想起させるコメントなど出せるはずもなかったのでしょう。指揮官の姿勢が緩めば、チームの士気も同時に緩むことを知っていますね。
坂本誠志郎への頭部死球に激高し、ベンチを飛び出した阪神・藤川球児監督(左端)を制止する広島・新井貴浩監督(右端)=4月20日、甲子園球場(水島啓輔撮影)実際、指揮官の戦う姿勢を目の当たりにした阪神は4月20日以降、14勝8敗1分けです。常に全軍を率いて、ライバル球団に対峙(たいじ)する背中を見せ続けているからこそ、選手たちも意気に感じてグラウンドに飛び出していくわけです。藤川監督は就任1年目ですが、こうした集団心理をよく理解していると思います。
「僕の責任です」
一方で、中日を退団したライデル・マルティネス投手(28)を4年総額50億円超で獲得したほか、フリーエージェント(FA)補強でソフトバンクから甲斐拓也捕手(32)も獲るなど大補強を敢行し、開幕前は優勝候補に挙げられていた巨人は4位に苦しんでいます。5月6日の阪神戦(東京ドーム)では不動の4番・岡本和真内野手(28)が一塁ベース上で打者走者の中野と交錯した際、左肘靱帯(じんたい)を損傷。全治3カ月の重傷を負いました。
巨人は岡本の穴を埋めるべく、12日にはソフトバンクとの間で秋広優人内野手(22)プラス大江竜聖投手(26)と、右の大砲・リチャード内野手(25)との2対1の交換トレードが成立。しかし、岡本の離脱以降は得点能力が著しく低下し、10試合で4勝6敗。チームの中心軸が抜けた穴は簡単には埋まりません。そして、チーム状態の悪化とともに気になるのは指揮官の言動です。
中日に逆転負けを喫した試合後、ファンに挨拶する巨人・阿部慎之助監督=18日、東京ドーム(今野顕撮影)15日の広島戦(マツダ)に1-5で敗れ、マツダでは今季6戦6敗という惨状。試合後、阿部監督は「まあ必死にみんなやっているからね。僕の全て采配ミスですよ」といい、五、六回と2度の満塁機に押し出し四球による1点しか奪えなかったことを問われると、「スクイズ(のサインを)出せなかった僕の責任です」と自分を責めました。さらに18日の中日戦(東京ドーム)では五回に代打・リチャードが逆転3ランを放つも、七回にリリーフで起用した船迫が2発の本塁打を食らい逆転され、そのまま敗戦。すると「私の継投ミスでございます」と懺悔しました。
不可解な采配
自分が敗戦の責任を被ることによって、選手たちをかばい、重圧を軽減させようという狙いが隠されているのは承知の上ですが、それでもチームを引っ張っていく立場の監督がこうも簡単に「ごめんなさい」を連発していいものなのか? さらに目につくのは打順や守備位置をコロコロと変える選手起用です。岡本を一塁や三塁、左翼とさまざまなポジションに起用し、故障した試合でも一塁で起用。ルーキーの浦田を不慣れな三塁でスタメン起用したことが一塁悪送球につながり、最悪の主砲離脱に直結しました。
阿部監督はコーチや2軍監督も経験し、昨季は監督就任1年目でリーグ優勝。指導者としての経験値や実績はあるはずなのに、劣勢にある現状の中でもがき苦しみ、不可解な采配&自虐コメントを連発です。かたや、藤川監督はコーチ経験もなく、開幕前は「経験不足」を指摘されていましたが、現状では何ら心配はありません。「監督で結果を出すためには指導者経験が必要」-という球界の定説?はこのままの状況が続くならば、どこかに吹き飛ぶはずですね。その結果は阪神のV機運の高まりに…。
20日から阪神は本拠地・甲子園球場で巨人との3連戦。3連勝ならば早くも今季の巨人戦は10勝(2敗)に到達ですよ。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。