参政党の神谷代表発言「選択的夫婦別姓で治安が悪くなる」は「不正確・根拠不明」

選択的夫婦別姓を巡る参政党神谷宗幣代表のテレビ番組での発言内容

 「選択的夫婦別姓」を導入すれば戸籍制度が複雑化し、治安の悪化につながるといった参政党の神谷宗幣代表によるテレビ番組での発言が、交流サイト(SNS)やユーチューブで拡散されている。神谷氏は「戸籍がどんどんシンプルになってきている」とも発言しているが、戸籍制度は1947年以来、記載の主要項目は変わっておらず「不正確」な言説だ。制度導入と治安との関連性については根拠が示されていないため「根拠不明」とした。

 神谷代表は、8党の党首がそろった6月30日のテレビ番組の討論会(テレビ朝日系列)で、選択的夫婦別姓制度の是非を問われ、次のように発言した。この動画はユーチューブにアップされ、90万回以上再生されている。

 「導入反対です。(中略)今、戸籍がどんどんどんどんシンプルになって、その人のルーツや家族関係が分かりにくくなってきていて(①)、お年寄りの方が、ある程度認知症なんかになると、家族関係の証明が難しくなっている(②)というところもあります。

 だから、戸籍をもう少ししっかりと明確にしないといけないところに選択制を入れてしまうと、より複雑な家族関係になってきます(③)ので、そういったことは日本の治安を悪くする(④)というふうに考えますので、われわれは明確に反対です」

 発言を四つに分けて検証する。

■①「戸籍がシンプルになってルーツや家族関係が分かりにくくなってきている」→不正確

 戸籍制度を所管する法務省民事第1課によると、現在の戸籍制度は戦後の1947(昭和22)年に戸籍法が全面改正されて制定された。それ以前の戸籍簿は親子三代にわたって記載されていたが、改正法(48年施行)によって夫婦と子どもの親子二代の記載に変更されることになった。

 何度かの改正で婚内子と婚外子の区別など差別や不平等につながるような記載が変更されたが、同課は「戸籍簿に記載される氏名・生年月日、婚姻や離婚などの身分事項といった主要な項目は48年以降、約80年前から変わっていない」と説明する。

 紙の戸籍は電子化されたが、死亡や離婚で除籍された人の記録も150年間保存されており、過去にさかのぼって調べることはできる。このため、戸籍がシンプルになり、家族関係やルーツが分かりにくくなったというのは「不正確」だ。

■②「認知症になると、家族関係の証明が難しくなる」→不正確

 認知症で本人の意思表示が難しくなることはあっても、戸籍の照会ができなくなるわけではない。記録は150年間保存されており、家族の証明が難しくなることはないため、これも「不正確」と判定した。そもそも戸籍簿に認知症を記載する欄はない。

■③戸籍をもう少ししっかりと明確にしないといけないところに選択制を入れてしまうと、より複雑な家族関係になってきます→根拠不明

 法務省は選択的夫婦別姓の考え方をホームページにまとめており、導入した場合の戸籍の記載例を掲載している。1996年1月の法務大臣の諮問機関「民事行政審議会」の答申で示されたもので、「別氏夫婦、同氏夫婦いずれについても同一の戸籍に在籍するもの」としている。同省は「制度が導入され、答申案が採用されるなら、別氏の場合は名字が追記されるだけの変更になる」とする。

 元の言説は①、②を踏まえて「戸籍を明確にしないといけない」とするが、具体的に何を指しているのか分からない上、選択制を入れることが「複雑な家族関係」となる理由を述べていないため、「根拠不明」とした。また、何をもって「複雑な家族関係」になるかは個々人で評価が異なり、検証できない意見とも受け取れる。

■④(選択的夫婦別姓を導入すると)そういったことは日本の治安を悪くする→根拠不明

 制度を導入することと、治安の因果関係や関連性は示されておらず「根拠不明」の主張とした。

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