金価格、今後どうなる? 「暴落」に備え、知っておきたい4つのシナリオ
安全資産といえども、過去に下落・低迷したことはある。
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- 金融の世界において、「絶対」という言葉は存在しない。
- 安全資産の金(ゴールド)であっても、いつか下落に転じることはあるだろう。
- 金価格が下がるとしたら、物価と国際情勢の安定、中央銀行の動き、原油価格の下落、新たな金鉱脈の発見などの要因が考えられる。
金(ゴールド)の価格が高騰し続けている。
いまではまったくもって信じられないが、金はコロナ禍前で1gあたり5000円前後だった。だが、その後は上昇し続け、現段階では約1万4000円代を推移する。
より長期でみると1980〜90年代は軟調に推移していたが、2000年以降は上昇トレンドだ。そのため、下落することはないとする「神話」も聞かれる。
だが、金融の世界において、「絶対」という言葉は存在しない。ここ10年は右肩上がりを続けてきた金価格だって、いつか下落に転じることだってあるだろう。
では、金価格が下がるとしたら、どんなシナリオが想定されるのか? 本記事で考えていこう。
なぜ安全資産と言われるのか?
そもそも金は、超新星爆発でできたとされる説が有力だ。人工で作れたとしても莫大な費用がかかるという。
非常に安定な物質であるため、鉄のように錆びず、薬品に対しても非常に強い。何よりそのきらびやかさが人々を惹きつける。そのため古代より価値あるものと認識されてきた。
株取引における配当金のようなインカムゲインは発生しないが、現代では安全資産として認識されている。国家体制や企業の業績に依存しないためだ。だからこそ、紙幣や株式と同様に、貯め込む富裕層もいるのだろう。
なぜ高騰が続いているのか?
冒頭の通り、これまでのところ金価格は上昇し続けてきた。
国内での税別価格を見ると、2020年に6000円台だった金価格は、コロナ禍を通じて上昇し、2023年8月に1万円を超えた。現在では1万4000円台を推移する。4年で2倍以上にも膨らんだことになる。なお、ドル換算でも似たような上昇幅だ。
近年の上昇はやはり、市況や政情の不安が主な原因といえる。コロナ禍で経済活動の行く末が不安視され、ロシアによるウクライナ侵攻で原油価格が高騰した。株、債券、現金の価値がどうなるか分からない状況で、安全資産である金が注目されたのだろう。
より長期で見ても2000年以降、価格は上昇し続けてきた。2000年当時の価格は何と1500円台である。上昇の理由をひとつに求めることはできないが、世界経済が成長するなかで、マネーが金に流れたことが主要因といえる。実際、著しい経済成長を遂げた中国では、この間に中央銀行が金の保有量を増やし続けた。
下落要因と考えられる4つのシナリオ
それでは、どういう場面で金価格の下落が想定されるのか。過去の例から起こり得るシナリオを考えてみよう。
1. 物価と国際情勢の安定
2000年代以前にピークを迎えたのは1980年のことだ。オイルショックでインフレが加速し、79年のソ連によるアフガニスタン侵攻で、金価格は1g・6945円のピークを迎えた。
しかし、その後は物価上昇率が低下し、ドル高も加速、東側諸国の弱さも見え始め、金にマネーが流れなくなった。2000年代の再上昇まで、金価格は低迷し続けることになる。
今後、再び下落するとすれば、物価と国際情勢が安定した状態が想定される。直近ではロシア・ウクライナ戦争の停戦が引き金となるかもしれない。
2. 中央銀行の動き
近年の金価格上昇には、各国の中央銀行による金の貯め込みが影響している。そう考えると、中央銀行が金を売却することで金価格は下落しそうだ。
中央銀行が金を保有するのは、インフレに強く、リスクに強い資産であるためだ。分かりやすく言えば、「もしもに備えての備蓄」が目的である。近年では新興国も金を購入している。
90年代は欧州の中央銀行が金を売却し、金利の高いドル資産を購入した。これは金価格低迷につながった。今後、同様の例が起きれば金価格は下落するかもしれない。売却せずとも、金購入の流れが止まれば、下落圧力になりうるだろう。
3. 原油価格の下落
原油価格の上昇場面で金価格も上昇する傾向にある。だが、両者は完全に相関しているわけではない。
とはいえ、仮に世界で再生可能エネルギーの導入が進み、原油需要が減少したらどうなるだろうか。最大の需要国である中国も人口減少が始まり、世界の原油需要は2030年頃をピークに減少に転じる見込みだ。
世界的な石油需要の落ち込みは物価安をもたらし、インフレヘッジを目的に買われていた金の需要も落ち込むかもしれない。石油依存型経済から脱却したあとの金市場はまったく別の動きをしそうだ。
4. 新たな金鉱脈の発見
新たな金鉱脈の発見を下落因子とする意見も聞かれる。国際基準プールの約4杯分程度とされる金の総量が、一気に増えるようなことがあれば、コモディティ化が進むのも当然の流れだ。
だが、世界中の鉱山が稼働しているなかで、そのようなことは滅多に起こりえないだろう。万が一、新たな金鉱脈が発見されたとしても、短期的な影響しかもたらさないと思える。
なにしろ、金は世界中で、年間3000トンも算出されており、産地は中国・オーストラリア・ロシア・カナダと各国に分散されている。最大の中国でも、シェアは12%程度しかない。
そんななか、その中国で11月に、埋蔵量1000トンの金鉱脈が発見されたと話題になった。だが、現在ではすでに懐疑的にみられている。
仮に、それが事実だったとしても、これまでに採掘された金の総量は約19万トンに及ぶ。金総量に対するその埋蔵量は小さく、金価格の下落をもたらすにはインパクトが少ない。
まとめ
以上、金価格下落が想定される4つのシナリオを示した。だが、最後のひとつについては、現実味が少ないので、実質的には3つと言っていい。
将来の金価格について、筆者は正直なところ、「わからない」「断定できない」と考えている。原油価格の下落が金価格下落の因子となりうると書いたが、主力産業が冷え込むことで中東情勢がさらに悪化し、大国間の戦争をもたらすかもしれない。ウクライナ侵攻が終わらず、予想外の事態が発生する可能性もある。そうなれば金価格はさらに上昇するだろう。
だが、上昇するから金を買う、または、下落を予想して売るという判断は、いずれにしても投機的といえる。「どうなるか分からないが、リスク分散のためにポートフォリオの10%を金にする」というように、分散投資の一環として金を捉えておくのが正解だと思える。