1の約7割が任務につけない、共食い整備が横行
海上自衛隊の海上哨戒機=P-1は以前から「想定よりも稼働率が低い」と指摘され、会計検査院も2025年6月「P-1の可動状況は低調だ」と報告していたが、日テレは19日「P-1の可動機の割合は2割から3割程度」「新たに調達しても部品不足のため『ただ飛べるだけの機体』が納入されて部品取りに使われることもある」と報じた。
参考:【独自】働けない海自哨戒機、任務につける機体は概ね2割~3割 参考:国内開発された固定翼哨戒機(P-1)の運用等の状況について 参考:令和3年11月15日 財政制度分科会への提出資料 参考:(U) Evaluation of the Readiness of the U.S. Navy’s P-8A Poseidon Aircraft to Meet the U.S. European Command’s Anti-Submarine Warfare Requirements 参考:PMA-290 P-8A sustainment, readiness team receive NAVAIR Commander’s Award
海上自衛隊が導入中の海上哨戒機=P-1について「想定よりも稼働率が低い」という指摘が存在し、会計検査院も2025年6月に発表した報告書の中で「海上幕僚監部は定期修理中及び定期整備中の機体を除くP-1について『全機が制約なく任務を遂行できる状態=任務可動機』とすることを目標にしているが、会計検査院が調査を行ったところ任務可動機の数は限られており、P-1の可動状況は低調だった」と述べ、P-1の可動状況が低調な要因に「エンジン素材の腐食による性能低下」「電子機器の不具合」「交換部品の調達に係るリードタイム問題」を挙げた。
出典:U.S. Navy Photo by Mass Communication Specialist 1st Class William Sykes
“腐食による性能低下問題の全ては塩分の付着が原因で、この問題はF7開発時の腐食性試験で「空気中の塩分がエンジンの素材に付着して腐食を引き起こす不具合」として報告されていたにも関わらず、装備庁とIHIは「参考にした基準は米空母で運用される回転翼機のものでP-1の想定運用と異なる」という理由で腐食性試験の条件を見直した。新条件の下でF7は試験に合格したと判定されたが、実際には条件を見直した腐食性試験でも類似した不具合が報告され、試験の一部が中断するなどの問題を引き起こしていた”
“IHIは新条件の腐食性試験で発生した不具合について「偶発的に発生したもので特別な整備や処置は必要ない」という分析結果を報告、これを受けて装備庁も「特別な整備や処置は不要で、必要に応じて所要の措置を検討する」としていたが、IHIから効果があると提案されていたエンジンの純水洗浄について「整備部隊の作業負担が大きい」「海上任務に従事した機体は洗浄されている」「IHIは特別な整備や処置は必要ないと言っている」「エンジンの分解整備時に洗浄を行えば事足る」と判断して採用しなかった”
出典:Hunini/CC BY-SA 4.0
“結局、腐食性試験で発生した不具合が継続的に発生したため、エンジンの純水洗浄を行うよう整備部隊に指示したものの、会計検査院がF7の運用状況を調査したところ「一定数のエンジン」が性能低下を引き起こして使用不可能となっており、P-1の可動状況が低調となる要因となっていた。エンジンの純水洗浄をP-1導入時から採用していれば不具合の発生時期を遅らせることが出来たかもしれない”
さらに電子機器の不具合について「目標の情報収集に重要な役割を担う電子機器Aの一定数が継続的に使用不可能になっている」「搭載武器のB、C、D、Eも機体との連接に関して不具合が発生している」「飛行に欠かせない機体システムを構成する電子機器Fの構成部品にも不具合が発生して一定数が使用不可能になっている」と、交換部品の調達に係るリードタイム問題についても「国際情勢の急変、半導体不足、人手不足の影響で発注から納品までの期間が長期化している」「この状況を航空補給処は適時に把握できていない」「そのため交換部品が慢性的に不足する状況に陥っている」と指摘している。
出典:U.S. Navy Photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Marques Franklin
会計検査院の報告書は「装備庁やIHIは装備開発における知見や経験が不足している」と示唆しており、米軍のものを参考にした試験基準で不具合が発生すると「想定運用が異なる」と言って条件を変更し、同じ不具合が発生しても「偶発的なもの」と言って実用化を強行し、IHIが効果があると提案していた「エンジンの純水洗浄」も取り返しがつかなくなった段階で採用したため、P-1の可動状況をさらに悪化させた可能性が高く、P-1の稼働率は想定されていたものより低いと裏付けられた格好だが、会計検査院の報告から1年以上が経過してもP-1の可動状況は低迷し続けているらしい。
日テレは19日「関係者によると保有するP-1の約40機のうち、任務につくことができる可動機の割合はおおむね2割から3割程度という」「会計検査院の報告を経ても可動状況を改善できない理由は修理能力が限界に達しているためで、修理できない部品を新たな部品に交換しようとしても、ロシアによるウクライナ侵攻の影響や物価上昇などによる部品の価格高騰や製造が中止されている部品があるため難しい」「これに対応するため部品、修理、整備、補給などをまとめて契約する中長期的な包括契約を進めようとしているものの、他の機体からの部品取りもいまだに行われているという」と報じた。
出典:海上自衛隊
防衛装備庁はP-1を計61機配備予定で新たな機体を毎年調達しているが、関係者は「部品不足のため哨戒にかかる装備品のない『ただ飛べるだけの機体』が納入されて部品取りに使われることもある」と明らかにし「計画に沿って新たな機体を調達するより、今あるP-1を実際に使える機体として可動機数を増やす道を模索すべき。そうでないならば既存の哨戒機にとらわれず、無人機などに予算投入するようかじを切るべきだ」との声が挙がっているらしい。
可動機の割合がおおむね2割から3割程度ということは40機のうち任務につけるのは8機から12機程度という意味で、衝撃的なのは毎年調達しているP-1が部品不足で哨戒能力のない「ただ飛べるだけの機体」で納入され「部品取り」に使われることもあるという点だろう。
出典:財務省 令和3年11月15日 財政制度分科会への提出資料
財務省も2021年に財政制度分科会へ提出した資料の中で「防衛省は装備品の効率的な取得やコスト管理の徹底に取り組むため、2015年に防衛装備庁を発足させたが、未だに多くの装備品でコストの高止まりが解消されておらず調達改革は道半ばだ」「主要航空機(海自、C-2、P-1、SH-60K、UH-60J、陸自UH-60JA、空自UH-60J)を部品単位でコスト分解したところ、間接調達部品の平均単価上昇率は約50%~約145%で、国産部品であっても構成品である輸入部品のコスト高が顕著」「聞き取り調査で構成品である輸入部品は国産部品等への代替が不可だという」と指摘。
“さらに直接材料費の輸入部品構成比率や輸入部品等の実態について分析したところ国産航空機であっても開発当初段階を含め4割~6割が輸入部品で構成されており、油圧系統部品や空調関係部品などの基幹部品が輸入部品に含まれているため国産等への代替は不可だ。部品価格上昇時等に汎用品への部品代替等が困難となる一因は自衛隊向けの航空機専用として独自仕様の追求、専用の直流交流変換機を設計・開発、日本人の体格に合わせた設計(機体の高さ等)などがあり、数十万円、数百万円単位の部品も含め大幅に価格上昇を続けた結果、装備品全体のライフサイクルコストも大きく上昇した”
出典:財務省 令和3年11月15日 財政制度分科会への提出資料
“防衛省が部品レベルでのコスト管理やコスト抑制策等を講じることができないのは「ユニット部品の中身」「下請企業が供給する間接部品の実態把握」「コスト管理・検証体制の未整備」などが不十分でプライム企業にコスト管理を任せているためで、さらに装備品のライフサイクルが十分に考慮されていない部品選定や管理、代替性が乏しい自衛隊の独自要求(特殊な仕様・設計)などが要因の1つだ。部品を含めた装備品の設計・仕様の決定に影響する「装備体系の構想・確定段階」からの一貫した調達体制(権限と責任)が不在であり、仕様の見直し等を含めた調達改革の実効性が乏しい”
つまり国産と呼ばれる航空機の部品価格高騰問題は2021年以前から発生しており、見方を変えれば「約5年の時間があったのに抜本的な問題への対処」を行わなかったため現在の事態に陥ったと解釈することもでき、現状のままP-1を新規購入しても部品取りの機体になるだけなので既存機の可動機数を増やす手立てに投資するか、P-1の調達を中止して別の装備に投資すべきだろう。
出典:財務省 令和3年11月15日 財政制度分科会への提出資料
結局のところP-1の部品不足問題は調達・維持に不可欠なサプライチェーンの設計、つまり輸入する構成部品の供給を特定の防衛サプライヤーに依存し、それが価格高騰や製造中止になるリスクに備えて代替品への変更が可能なよう設計に柔軟性を持たせていなかったことが原因で、輸入部品の価格高騰や製造中止のリスクを高めているのが少しずつ長期間に渡って調達するという方針だ。
もちろん生産ラインを長期間維持しておきたいという意図は理解できるものの、それなら海外の特定サプライヤーに依存して輸入部品の価格高騰や製造中止のリスクに備えておくべきで、今回のことで判明したのは「国産と呼ばれる航空機のサプライチェーンは国内で完結しておらず、財務省の調査では国産航空機でも4割~6割が輸入部品で構成され、基幹部品にも国産品へ代替できない輸入品が含まれているため、国産航空機といっても日本の都合だけで調達・維持ができる構造になっていない」という点だろう。
出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Aidan Martínez Rosiere
ちなみに米軍機の稼働率に関する指標はフルミッション達成率(Full Mission Capable Rate:FMC率)とミッション達成率(Mission Capable Rate:MC率)に分かれており、FMC率とは作戦機がミッション要件を完全に実行できる状態のこと、MC率とは作戦機が少なくともミッション要件の1つ以上を実行できる状態のことで、例えば照準ポッドとの接続不良で空対空任務しか実行できないF-16Cはミッション要件の1つ以上を実行できる状態、空対空任務と空対地任務の両方が行えるF-16Cはミッション要件を完全に実行できる状態に分類され、この数値は当該機種の準備状態や即応性を示す重要な指標になっている。
米海軍は米空軍ほど作戦機のFMC率とMC率を積極的に一般公開していないが、2021年に国防総省監察総監室が言及したP-8Aの2018年10月から2020年3月までのMC率は53%~70%の範囲で、2022年に海軍航空システムコマンドが言及した2021年の平均FMC率は41%で、米海軍航空部隊司令官はP-8A全体のMC率を80%、海外に展開中のP-8Aに関しては85%を要求している。
出典:Japan Maritime Self-Defense Force photo by Lt Yusuke Tanaka
最近のFMC率やMC率は不明なものの、一番新しい数字はミッション要件の1つ以上が実行可能な割合が53%~70%だと示しており、日テレが言及した「任務につくことができる可動機の割合はおおむね2割から3割程度」という数字が会計検査院の定義する「任務可動機=ほぼFMC率に相当」なのかどうかは不明だが、日テレは「海上自衛隊のある基地で記者が目撃したのはエンジンがないP-1の機体だった」とも言及しているため、P-1の場合は飛ぶことすらままならない機体が多いのかもしれない。
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※アイキャッチ画像の出典:Japan Maritime Self-Defense Force photo by Yusuke Tanaka