米国債「デススパイラル」、外国ファンドはリスク軽視-依然最高の投資先

 欧州最大の資産運用会社、オーストラリアの巨大年金基金、潤沢な資金を持つ日本の保険会社などに米国債について話を聞くと必ず「米国債は勝るものは依然としてない」という考えがあるのが分かる。

  バンス次期米副大統領は4カ月前、「債券自警団」が債券利回りを押し上げようと動き出せば米国債は「デススパイラル」に陥る可能性があると発言したが、英最大の資産運用会社であるリーガル・アンド・ジェネラル・インベストメント・マネジメントなどは新政権に好意的な見方を示している。

  米国債が歴史的な弱気相場に陥っているにもかかわらず、外国ファンドが米国債を購入する理由は数多くある。第一に、日本などの国債に対して米国債は非常に高い利回りプレミアムを提供する。また、急速に成長しているオーストラリアの年金業界は、市場の厚みと流動性から、米国債を毎月買い増している。さらに、米国債は財政問題を抱える一部の欧州諸国の国債よりは安全な投資先のように見える。

Share in Treasury securities as of 3Q 2024

Sources: Securities Industry and Financial Markets Association, Bloomberg

 

  トランプ次期米大統領が米国債発行を監督する財務長官にヘッジファンド運用者のスコット・ベッセント氏を指名したことも投資家を安心させた。ベッセント氏は、減税、支出抑制、規制緩和、安価なエネルギーを通じて財政赤字の対国内総生産(GDP)比を低下させることを目指している。

  リーガル・アンド・ジェネラルのマクロ戦略・資産運用責任者、クリス・ジェフリー氏は「デススパイラル」のリスクについて「債券市場というものは、利回り上昇と債務予測上昇が相互に強め合うサイクルに陥ることがある」と説明。

  しかし「次期米財務長官は2028年の赤字をGDPの3%にするという目標を掲げている。連邦政府がそのような目標を掲げるのであれば、債券投資家がストライキを起こす理由はない」と述べた。

  米国債の最大の海外保有者である日本の投資家は、リスクの高まりを認識しているが依然として積極的な買い手だ。

  日興アセットマネジメントのチーフグローバルストラテジスト、ナオミ・フィンク氏は「米国債市場は規模が大きく流動性が高く、また米国の通貨発行益が深く根付いているため、世界中の中央銀行の準備における米国債の中心的役割が損なわれることはないという見方が市場では優勢だ」と説明。

  「基本シナリオとして、米国債利回りの調整は秩序ある形で進むと予想している。しかし、より混乱を招く調整の可能性は、まだ小さいものの高まっているとみている」と語った。

  日本の投資家が米国債を好む理由の一つは、米国債が強いドルへのエクスポージャーを提供することだ。24年にはヘッジなしの米国債投資で国内のファンドは12%のリターンを上げ、そのうち11.5%はドル高によるものだった。

欧州の視点

  欧州のファンドもおおむね楽観的で、特にトランプ氏が世界中の投資家を味方につけておく必要性を認識しているように見えることから、米国債利回りが急上昇する可能性は低いとみている。

  アムンディのグローバルアグリゲート戦略副責任者、アン・ボードゥ氏は「利回り上昇は最終的に成長見通しやリスク資産のパフォーマンスの重しになる」と、政権がこれを避けようとする理由を説明。ただ、「トランプ氏の政策についてより明確になるまでは、市場は確実に慎重な姿勢を維持するだろう」と付け加えた。

  米国の債務が積み上がる中、米国債に対して慎重な姿勢を示す運用会社もある。

  RBCブルーベイ・アセット・マネジメントのシニアポートフォリオマネージャー、カスパー・ヘンス氏は「新発債が大量に市場に投入される」ことが最終的に悪影響を及ぼすリスクを指摘。「米国債利回りが急上昇する可能性は少なくともある。22年のトラス英首相在任中の英国で起きたようなことが起きないとは限らない」と述べた。

米国債以上の投資先はない

  米国債の海外保有国として2番目の中国では、米国債暴落の可能性は限定的だとみられている。

  中信証券のチーフエコノミスト、明明氏(北京在勤)は「米国の借り入れコスト上昇や財政圧力に対する懸念が正当なものであったとしても、債券市場が大崩れする可能性はかなり低いだろろう」と言う。

  「米国債市場に不必要な変動が生じたとしても、米連邦準備制度理事会(FRB)には市場を安定させ流動性を管理する手段がまだたくさんある。それによって圧力が緩和されるだろう」と同氏は述べた。

  台湾でも米国債投資が活発だ。台湾最大の資産運用会社である元大証券投資信託の劉宗聖会長は「台湾の投資家の大半にとって結論は、『米国債以上の投資先はない』ということになるだろう」と語った。

原題:Treasuries ‘Death Spiral’ Risk Is Brushed Aside by Foreign Funds(抜粋)

関連記事: