日本初『ブルアカ』キム・ヨンハ統括PDインタビュー:ターニングポイント「エデン条約編」、"バニーアスナ"インパクト。4年の歴史
公式番組を配信すれば毎回のようにSNS(X)でトレンド1位を獲得。コミックマーケット105ではジャンル最多の2000を超えるサークル数が集う。2025年2月4日に4周年を迎えた『ブルーアーカイブ』(以下、ブルアカ)の勢いはすさまじいものがある。
「とにかくストーリーがいい」「イラストやコスプレなど二次創作が活発」「世界観だけでなく開発陣の嗜好が透き通っている」
などなど、今でこそ多くのユーザーから熱く、濃く、愛されている『ブルアカ』であるが、じつのところリリース当初から順風満帆だったわけではない。
リリース当初は不具合の報告が重なり、2021年2月は他人気タイトルのリリースが重なる激戦区であったこともあり、今ほどの人気を確立するまでには及んでいなかったのだ。
そんな『ブルアカ』がここまで人気を獲得するタイトルになったきっかけは何だったのだろうか?
ファンコミュニティの中でたびたび話題に挙がるこの疑問。多くのユーザーが頭に思い浮かべるのはメインストーリーVol.3「エデン条約編」だろう。
「エデン条約編がとにかくすごい」「エデン条約編がおもしろすぎる」と、公開当時はユーザーの間で噂になっていた記憶がある。このシナリオをきっかけに本作にハマったユーザーも少なくないはずだ。
そんな「エデン条約編」だが、どうやら開発チームにとっても「ターニングポイント」と呼べるほど大きな転機だったようだ。
その反響は、開発チームがアップデートに向けて準備する大きな原動力となり、ストーリーや演出に投入するリソースも増加するほど。結果として「ストーリーを中心としたサービス作りとする」という今の『ブルアカ』の方向性を確固たるものにしたきっかけとなった。
そう明かしてくれたのは、『ブルアカ』の統括プロデューサー(PD)を務めるキム・ヨンハ氏。開発当初から指揮をとる本作のキーマンであり、日本ユーザーから愛される開発チームの顔でもある。
キム・ヨンハ統括PD。このたび電ファミニコゲーマーでは、日本ゲームメディア初となるキム・ヨンハ氏への独占インタビューという貴重な機会に恵まれた。
取材の中では、『ブルアカ』4年の歩みを振り返るとともに、キム・ヨンハ氏のルーツや『ブルアカ』開発、運営の裏側にも話が波及。さらにはヨンハ氏が統括する新作『プロジェクトRX』についてもお聞きすることができた。
・日本での展開を最優先に考えていた理由・パブリッシャーとしてYostar社と組んだ経緯・「エデン条約編」の裏側でなにが起きていたのか
などの開発エピソードがたっぷり掲載されているので、ぜひ楽しんでほしい。なお、真面目な話題はもちろん「露出には限界があってもフェチは無限大」のような『ブルアカ』らしいお話も押えてあるのでご安心を。
取材日は透き通るような晴天が広がっていた。まるではじめて「キヴォトス」の世界に訪れたときのような景色だった。聞き手/竹中プレジデント・ジスマロック編集/竹中プレジデント
目次
「エデン条約編」公開は『ブルアカ』にとってターニングポイントだった
──遅ればせながら『ブルーアーカイブ』4周年おめでとうございます。今では多くの先生方(ユーザー)に愛されてる『ブルアカ』ですが、失礼ながらリリース当初は決して順風満帆ではなかったように思います。統括PDから見て、作品にとって大きな転機となった出来事があったら、教えていただけないでしょうか。
キム・ヨンハ氏:まず思いつくのは、メインストーリー「エデン条約編」が公開されたときですね。
予想以上の反響をいただいて、その後のストーリーの演出やメインストーリーの流れなど、ストーリーを中心としたサービス作りとする『ブルアカ』の方向性を確固たるものとした大きなきっかけになったと言えます。
──となると「エデン条約編」効果前までは、ここまでストーリーを押し出す想定ではなかったということですか?
キム・ヨンハ氏:開発当初からストーリーやキャラクターに力を入れていたのは事実です。ただ、実際にどのような反応があるかは未知数でした。
今でこそ「『ブルアカ』といえばストーリーがおもしろいよね」と言ってくださる方が多いですが、当時は、実装したコンテンツがどう評価され、それを軸にどうアップデートを行っていくかは、サービスをしながら手探りで探していた状態だったんです。
そして、リリース当初はさまざまな不安定要素で先生方の期待に応えられなかった時期がありました。そんななか手応えを感じられたのが「エデン条約編」でした。
──ユーザーの中でも『ブルアカ』の人気に火がついたきっかけとして「エデン条約編」をイメージする人は多いと思います。内部的にも大きな転機だったんですね。
キム・ヨンハ氏:はい。開発チーム全体にとって、その後のアップデートに向けて準備する大きな原動力になりましたし、「エデン条約編」以降はストーリーや演出に関する部分に投入するリソースも増えましたね。
アップデート当日は、開発チーム全員でまるで試験結果を待つ生徒のようにドキドキしながらSNSやコミュニティの反応を固唾をのんで見守っているのですが、とくに「エデン条約編」や「最終編」のときは、泣いたり笑ったりする先生方の反応を見て、私たちもいっしょに感動していました。私自身、関連実況動画を何回も見返しました。
──ちなみに、『ブルアカ』の人気に火がついたきっかけとして「エデン条約編」と並んでバニーアスナの登場がよく話題に挙がります。
キム・ヨンハ氏:アスナ(バニーガール)は二次創作の反応が本当に想像以上でした。
スタジオ内のコミュニケーションツールでは、SNSで話題になっている二次創作の投稿リンクがアップされるのですが、バニーガールイベントのときはあまりの投稿数の多さにスクロールするのが大変になるほどでした。
──そんなにですか……。バニーアスナをはじめとして二次創作が活発なのも『ブルアカ』コミュニティの特徴ですよね。
キム・ヨンハ氏:本当にありがたいことです。ミカのときもかなり熱い反応がありましたし、最近ではニヤニヤ教授やハイランダー鉄道学園の双子(ヒカリとノゾミ)など、実装されていないキャラクター【※】も人気が出ていて驚いています。
こういう反応を見ると、これからもいいキャラクターをデザインするため、もっともっとがんばらないといけないなと。開発スタッフにとってもいい刺激になっています。
──たしかに『ブルアカ』は実装前でも人気が出てるキャラクターが多いですよね。ニヤニヤ教授と双子は言わずもがな、ユキノ、ニコ、クルミ、オトギ、ニヤ、ナグサ、クズノハ、シュロ、タカネ、ヤクモ、コノカ……など、正直待ちきれません。
キム・ヨンハ氏:実装を待つキャラクターが多く、ファンの皆さんをお待たせしてしまうことは申し訳なく思っています。
ただ、そういったキャラクターたちも、いずれ相応しいタイミングで、それに値するストーリーとともに登場する、ということはお伝えしたいです。
みんな大好きニヤニヤ教授。4月22日に実装されたヒカリ(左)とノゾミ(右)。開発チームの総力戦の末に生まれたメインストーリー「最終編」
──先ほど「最終編」というワードが出てきましたが、2周年のタイミングで公開されたメインストーリー「最終編」は『ブルアカ』の物語における大きな山場でしたよね。
キム・ヨンハ氏:そうですね。先生方からの反応も大きかったですし、メインストーリー「最終編」については、それまで培ってきたノウハウを結集した、開発チームにとってまさに総力戦と言えるものでした。
──リアルタイムで展開していく形式は『Fate/Grand Order』や『プリンセスコネクト!Re:Dive』などの決戦イベントが連想できますが、これらの作品での展開は参考にされたのでしょうか。
キム・ヨンハ氏:はい。『Fate/Grand Order』や『プリンセスコネクト!Re:Dive』などが、リアルタイムでユーザーが盛り上がるコンテンツを見せてくれたことは、大いに参考になりました。
そのうえで、私たちも『ブルアカ』の文脈で実施することができれば、先生方が共感してくれる、感動してくれるようなイベントを作り出せるのではないかと。
その過程で、イベントの開始タイミングやマーケティング方式など、Yostarさんからも非常に多くの意見をいただきました。そういう意味では、開発チームだけでなく運営チームの力もあわせて、多くの準備の末に生まれた総力戦でした。
──1月22日に第1章、1月24日に第2章、2月22日に第3章、3月8日に第4章と怒涛の展開でした。ストーリーが更新されるごとに熱狂するユーザーを量産していたと思います。
キム・ヨンハ氏:幸いにも、先生方の爆発的な反応を引き出すことができました。ただ同時に「この最終編を超える体験をどのように作っていくのか」という、新たな課題が私たちに課せられた瞬間でもありました。
──そういう意味では、3周年イベント「陽ひらく彼女たちの小夜曲」、4周年イベント「Code:BOX」で実装されたフィールド探索は新しい体験でした。
キム・ヨンハ氏:ゲームを通して見る「キヴォトス」という世界は、戦闘以外の描写では平面的な表現になっているじゃないですか。
そのため、先生方の体験にも限界があると私たちも感じていました。『ブルアカ』の舞台となっている「キヴォトス」をどうすれば拡張していけるのか……というのは開発チーム内でずっと議論を重ねていたんです。
──「キヴォトス」の拡張ですか。
キム・ヨンハ氏:プレイヤー自身が直接キャラクターを操作して、学園を探索する。通っている生徒と接する。そんな体験ができれば、新しい視点から『ブルアカ』の世界観を感じてもらえるのではないか。そう考えて企画しました。
ただ、これまでにない新しいコンテンツだったこともあり、準備には当初予想していた以上の時間とリソースがかかってしまいました。これは運営を続けながら定期的に追加していける作業量ではないと痛感しました。
──『ブルアカ』の中に新しいゲームを作っているようなものですもんね……。
キム・ヨンハ氏:こういった学園の中を自由に動き回る体験を楽しみにしていただいている先生方には申し訳ないのですが、他の学園をポンポンと追加していくのはどうしても難しいのが実情です。
それよりも、今後のシナリオ展開にうまく調和する新たな試みに挑戦することで、これまでとは一味違った体験を皆さんにお届けしたいと考えています。
4周年、セイア実装に対するリアクションは想像以上だった
──4周年の「ブルアカふぇす!~4えばーちゃれんじ♪~ 」もすごい盛り上がりでしたね。ヨンハさんも現地にて参戦されたとのことですが、いかがでしたか?
キム・ヨンハ氏:まず、私がこういったオフラインイベントに積極的に参加することのメリットとして考えているのが、ユーザーのみなさんの熱量を同じ場で体験できることです。これはとても貴重な体験です。
そのうえで印象に残っているのが、セイア実装が公開されたときの大歓声です。ちょうど2年前、「ブルアカらいぶ!せかんどあにばSP!」で『最終編』のPVが流れた直後、会場が良い意味で静まり返った瞬間と同じくらい強く心に残っており、あれは一生忘れられないでしょうね。
──セイアはミカとナギサと比べて実装期間がだいぶ空いたと思うのですが、このタイミングはもともと想定されていたものですか?
キム・ヨンハ氏:当初からこのタイミングでの実装が計画されていたわけではありません。さまざまな候補がありました。ただ、セイアへの期待度の高さもあり、どのタイミングで実装するべきかずっと悩み続けてきたんです。
最終的には、ある程度規模の大きいイベントで公開することが、先生方にとっても納得感があるだろうと考えて、今回の4周年のタイミングとなりました。
ティーパーティー所属の生徒たちの「エデン条約編」第一章の開幕から実装までの期間。(筆者調べ)──本当に、本当に、ユーザーも待ち望んでいましたから……。
キム・ヨンハ氏:4周年の「ブルアカふぇす!」は、私だけでなく韓国の開発スタッフも何名か現地に同行していましたし、ライブ配信も開発スタッフのみんなが見ていました。
セイアの発表についてはドキドキしながら先生方の反応を見守っていました。ポジティブな反応をいただけるとは思ってましたが、想像以上のリアクションをいただいて胸がいっぱいになりましたね。
スタッフ全員、これまで準備してきたものが報われてうれしく思いましたし、今後もこのような期待を受けられるコンテンツを継続して準備していかなければならないなと、決意を新たにしました。
──そういうライブ感はオフラインイベントならではのものですね。
キム・ヨンハ氏:そうですね。実装されるキャラクターが発表される際は、まずは学園のエンブレム(校章)が出るじゃないですか。
そこで「なぜこの学園の生徒が登場するんだ?」となって、それが「もしかしてあの子なのでは?」と期待にうつり、最終的に歓声が起こるまでの流れがとてもおもしろかったです。
現地で実際に歓声の強弱とかニュアンスを感じることで、先生方の感情に共感することができることも含め、とてもいい時間だったと思います。
露出には限界があってもフェチは無限大
──『ブルアカ』の大きな魅力として「キャラクター造形」があると感じています。作中に登場する生徒たちはどのように生み出されているのでしょうか。
キム・ヨンハ氏:キャラクターが誕生する過程には大きくふたつのフローがあります。
ひとつは、デザイナーからの「こんなビジュアル、こんなコンセプトの生徒がいたらどうだろう」という提案から始まるケース。もうひとつは、シナリオライターからの「ストーリー展開上、こういう役割、こういう性格の生徒が必要だ」という発注から始まるケースです。
──コンセプトから生まれた生徒というのはたとえば誰になるのでしょう?
キム・ヨンハ氏:たとえば、ヒフミはもともとオーソドックスな制服を着たキャラクターがいてもいいんじゃないかと考えてデザインされた生徒です。当初は設定も深く作り込んでいたわけではなく、シナリオでの役割もそこまで大きくありませんでした。
ただ、先生方からの人気によって、徐々にシナリオでの描写が増えていった流れがあります。じつは開発チーム内部でも人気が高いんです。もちろん私自身も好きなキャラクターです。
──先生の愛によって、ヒフミの活躍の場が増えていったと。先生からの人気によって出番が増えた生徒というのはほかにいるのでしょうか。
キム・ヨンハ氏:ユウカもそうですね。もともとは、最初にゲットできるキャラクターではあるもののシナリオでの役割は多くはなかったんです。
その後、先生方からの人気を得たことで、「キヴォトス晄輪大祭」のイベントストーリーで主役を担うようになりました。
──たしかに。YouTubeのコンテンツでも、ASMRでも、ユウカの人気はすごいです。
キム・ヨンハ氏:逆に、ストーリー上に必要な存在として生まれたキャラクターとしては、ツルギやヒナ、ホシノなどが挙げられます。彼女たちは、シナリオでの役割がある程度決められたうえでデザインされました。
たとえば、ヒナに関しては「最強」要素をたくさん入れようと考えた結果、少し盛りすぎたかもという印象もあります。ただその分、多くの方に愛されるキャラクターになっていますし、すごくいいデザインになっていると思います。
重要なのは、どのような経緯で始まったとしても、『ブルアカ』の世界観とこれから展開されるシナリオの大枠の中で、シナリオライターとデザイナーが密に協力し、キャラクターのディテールを一緒に作っていくことです。
──いちユーザーとして『ブルアカ』は先生たちの「フェチ」を刺激するのがうまい印象があるんです。アコの横乳やコトリのお腹など……これらのアプローチは戦略的なものなんでしょうか? それともスタッフの熱量が反映されたものなのでしょうか?
キム・ヨンハ氏:……興味深い質問ですね。明確に「戦略」と言い切るのは難しいです。『ブルアカ』は明るく健全なゲームですから。
ただ、「露出には限界があってもフェチは無限大」と思っていますし、私たち開発チームに熱量の高いスタッフが多いことは事実です。
──フェチは無限大ですか(笑)。ちょっと余談になってしまうのですが、『ブルアカ』では、メガネをかけてる生徒がメガネを外すシーンがよく描かれていますよね。これはもしかして開発スタッフの「メガネを外したい」熱量が反映されていたり……?
キム・ヨンハ氏:少なくとも私はメガネ派です。開発スタッフにも同じようにメガネ派の者が何人もいます。できることなら、メガネをかけていないすべてのキャラクターにメガネをかけさせたいくらいです。 その一方で「メガネをかけることだけが正義ではない」という風潮もあるんです。
そのため、普段メガネをかけているキャラクターについても、メガネを外すことで新たな魅力を演出できたり、ユーザーのみなさんから望む声があるのであれば、メガネを外すことは許せるかな、という気持ちもあります。
──ヨンハさんはメガネ派なんですね。メガネを外す生徒が多い印象だったので意外でした。
キム・ヨンハ氏:というのも、以前手がけた『魔法図書館キュラレ』では、私の感覚をもとにキャラクターをデザインした結果、メインとなるキャラクター5人のうち4人がメガネをかけているキャラクターになっていたんです。
──(笑)。
キム・ヨンハ氏:そこで好みを反映しすぎたなと思うようになり、個人的な好みと実際に反映されるデザインに関しては少し線を引く必要がある、というのは意識するようになりました。
画像左下の「セラ」ももともとはメガネをかけていた。本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合がございます