スーパーに並ぶ「中国産」ウナギの蒲焼きはどこから?稚魚が遡る河川のない香港からの大量輸入…取引を覆う黒い闇(Wedge(ウェッジ))

 店頭に並ぶウナギの蒲焼きを見ると、国産のものと、それより割安な中国産のものが並んでいることが分かる。国産の場合は静岡産や鹿児島産といった県レベルでの産地を示す表示がされている一方、筆者の周辺のスーパーを見る限り、中国産の場合は「ウナギ(中国産)」などの表示がされているものがほとんどだ。  ウナギ科ウナギ属に属する16種のうち、日本の在来種として生息しているのはニホンウナギとオオウナギ。このうち蒲焼きになるのはニホンウナギの方である。中国についても、蒲焼きとなって日本に送られるウナギのうち、在来種はニホンウナギにとどまる。  ところが、中国から提出された報告によると、中国の2021年における養殖ウナギのうち、在来種のニホンウナギ生産量は全体の約3割強(2万8000トン)で、残りの大半の66%は(6万1000トン)は、アメリカ大陸由来のアメリカウナギとなっている。  中央大学の白石広美研究員らの著した学術論文(Shiraishi, Han, and Kaifu, 2025)でも、日本の小売店で販売されていた合計133点のウナギ蒲焼をDNA分析したところ、中国産ウナギ蒲焼き82点のうち、約6割の49点がアメリカウナギであったという結果が示されている。つまり、スーパーで売っている「ウナギ(中国産)」の蒲焼きの6割以上はニホンウナギではなく、アメリカウナギということになる。

 現在ウナギの稚魚をゼロから人工的に育てる技術は確立していないことから、中国はアメリカウナギの稚魚を養殖用として輸入していると考えられる。中国政府は、2011/12年漁期(11年11月〜12年10月)から2023/24年漁期にかけて、ニホンウナギの稚魚については養殖用種苗として輸入していないとする一方、「ニホンウナギ以外の種のウナギ」については稚魚14〜39.5トン輸入したと報告している。  養殖用のウナギ稚魚のアジアの中継地点となっているのは香港である。その統計を見てみると、17年から23年にかけて、6.3トンから25トンが香港を通じて中国に再輸出されている。  香港にはウナギ稚魚が遡る河川はなく、これらはほぼ全て他国から香港に輸入されたものである。では、この香港のウナギ稚魚はそもそもどこからきているのか。  先ほどの香港政府統計によると、ヨーロッパウナギの供給先と思料されるアメリカ大陸からとしては、カナダ、米国、ハイチを原産地と報告されたものがほとんどを占め、特にハイチが22年と23年に突出して多いことがわかる。  カナダに関しては、23年までのウナギ稚魚の許可採捕量は9.96トンに過ぎない。密漁の蔓延を受けカナダ政府は24年3月に同年の稚ウナギ採捕許可を取りやめる決定を下している。にもかかわらず、正規の許可採捕量の2〜4倍の量が香港1地域に輸出されていることになる。  実は以前より、本来はカリブ海・中央アメリカ諸国で採捕されたウナギ稚魚の一部が「カナダ原産」と偽ってカナダから東アジア諸国に再輸出されていることが指摘されている(Gollock et al., 2018, p. 47)。相当量のウナギ稚魚は、カナダで違法に採捕され香港に輸入されたか、あるいはもともとはカリブ・中央アメリカ諸国原産だがカナダ産と偽って香港に輸入された可能性が少なくない。


Page 2

 国際社会には、定期的に会合が開催されているものの、実質的に何の実効性も伴っていない、単なるお喋りの場と化している政府間のフォーラムや会議体、国際機関が存在する場合がある。例えば国連には「国連森林フォーラム(UNFF)」という会議体が存在しており、その淵源は92年の地球サミットに辿ることができるが、何一つ実効的な合意を打ち出したことがないと批判されることがある。こうした立場からは、むしろ逆に法的拘束力のある国際合意を阻害しているとも言い得る。  ロシアのウクライナ侵攻でもそうだが、戦場において敵方の攻撃を欺くための囮の標的=デコイを設置することがある。例えば、敵方のミサイルやドローン攻撃の「無駄打ち」を誘発するため、目立つように戦場に設置した張りぼての戦車や装甲車などが「デコイ」と呼ばれる。これをもじり、有効な取組を却って阻害するだけで無意味あるいはむしろ有害な「張りぼて」の国際フォーラムや機関、制度のことを国際政治学でも「デコイ」あるいは「空の制度(empty institution)」などと呼ぶことがある(Dimitrov, 2019)。ウナギの4カ国非公式協議も、有効な規制をなし得ない「デコイ」と呼べはしないだろうか。

真田康弘

Wedge(ウェッジ)
*******
****************************************************************************
*******
****************************************************************************

関連記事: