村山談話の会、首相答弁は「軍国主義の復活」で撤回を 台湾有事は「CIAが騒いでいる」
日本による「過去の植民地支配と侵略」を認めた「村山談話」の継承・発展を掲げる団体が8日、国会内で記者会見し、高市早苗首相の存立危機事態を巡る国会答弁について「台湾有事の際に日本は戦争体制に入れることを国会で明言した日本軍国主義の復活に等しい行為」と主張し、撤回を求める声明を採択したと発表した。
中国の主張や見方を代弁か
村山談話は、戦後50年に合わせて1995年に当時の村山富市首相が閣議決定し、日本が過去の一時期、「植民地支配と侵略」によって多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に「多大な損害と苦痛」を与えたとして、「痛切な反省の意」と「心からのお詫びの気持ち」を表明したもの。8日の声明は「村山首相談話を継承し発展させる会」(村山談話の会)が採択し、高市首相の国会答弁への反論として「今こそ、『村山談話』を想起すべきだ」と訴えている。
会見では、中国政府の主張や見方を代弁するかのような発言も聞かれた。
台湾有事「自衛隊仕掛け論だ」
記者会見の呼びかけ人となった、日中の労働者階級の友好と連帯を図る「日中労働者交流協会」の伊藤彰信会長は、「日本は戦争への道を進んでいる。中国の脅威をあおり、マスコミや教育が先陣を担う。労働組合も(戦時期の官製の労働者組織)『産業報国会』化している」と述べ、「首相が戦争すると言っているから、まさに戦争前夜だ。社会経済を含めた総力戦を戦う態勢が出来上がろうとしている」との見方を披露した。
高市早苗首相の国会答弁の撤回を求める「日中労働者交流協会」の伊藤彰信会長(左端)=8日午後、国会内(奥原慎平撮影)台湾有事については「日本の軍事介入のシナリオは『米中戦争巻き込まれ論』ではない。『自衛隊仕掛け論』だ。『中国が攻めてきた』といって『武力攻撃事態』による反撃を行うのだ」と独自の考えを示した。そう考える根拠として満州事変の発端となった1931年の柳条湖事件などを挙げ、「日本軍国主義が仕掛けた」と述べた。
武力行使を排除させる手立ては?
ただ、中国の習近平国家主席は、台湾統一は「党の揺るぎない歴史的任務だ」と語った2022年の共産党大会で、平和的統一の実現に「最大の誠意と努力を尽くしている」と述べた一方、「武力行使の放棄を約束せず、あらゆる必要な措置を取る」と明言している。
台湾では、中国による武力侵攻への懸念が強まり、頼清徳総統は今年11月26日の記者会見で、「北京当局は2027年に武力統一をなし遂げることを目標に軍備を加速している」と訴えた。
中国の台湾に対する武力行使を放棄させる手立てはあるのか─。
武力侵攻の懸念に反論「平和統一で一貫」
こうした懸念に対し、村山談話の会理事長の藤田高景氏は、「台湾がむちゃくちゃな挑発をしない限り(中国による武力統一)はない」と一蹴し、こう持論を展開する。
「27年の武力行使を騒いでいるのは米国の中央情報局(CIA)だ。調べ尽くしたが、何ら根拠がない。それに乗っかるのが日本の政権だ。ほとんど起こる可能性のない台湾有事を振り回すことこそ、おかしい」
青山学院大名誉教授の羽場久美子氏も「基本的に中国は台湾を平和的に統一すると考えている。何人かの中国研究者に聞いたが、『台湾併合は百年待てる』といわれた」と述べ、米国などの特殊な動向がない限り、中国が侵攻する可能性は短期的に見て低いとした。
伊藤氏も「中国共産党の台湾政策は鄧小平以来『平和統一』で一貫している。台湾独立を外国が支援するとき、やむを得ず武力行使するといっている」と述べ、「台湾に軍事侵攻すれば、台湾に近い中国大陸は人的被害を受ける。批判は政権に向かう。リスクを負う確率がどれだけあるか」と疑問視してみせた。
南京や731で「若者交流やめないで」
会見の呼びかけ人からは、中国との民間交流行事が中止されたとして懸念する声も相次いだ。
伊藤氏は今月13日に予定していた中国・南京訪問が中止になったといい、「民間交流も事実上途絶えた。(首相答弁への)中国側の受け止め方は深刻だ。われわれは肝に銘じないといけない」と嘆いた。
羽場氏は「広島、長崎、沖縄の若者が、夏や秋に南京や(細菌兵器開発に従事したとされる旧日本軍の)『731部隊』のミュージアムに行き、中国の若者と交流した。彼らは『中国と私たちは21世紀の未来をつくる』と言っている。中国の方々にお願いしたい。若者の交流を止めないでください」と訴えた。
高市早苗首相の存立危機事態を巡る国会答弁撤回を求める緊急記者会見=8日、国会内(奥原慎平撮影)南京事件は「氷山の一角」
村山談話は不十分だと主張する声も上がった。
「ピースフィロソフィーセンター」の乗松聡子代表は、村山氏について「歴代総理の中で一番マシ。中国の人は日本人以上に村山談話を覚えている」と述べた上で、「必ずしも十分なものではない。閣議決定であって、国会決議ではなく日本人の総意で示されたものではない」と語った。
その上で、中国側の首相答弁に対する反応について「歴史問題だ。抗日戦争の屈辱がよみがえったと感じている」と指摘した。「南京大虐殺は氷山の一角だ。戦後80年で許せる罪では到底ない。それなのに中国は日本の軍国主義と日本の人民を分ける形で積極的に許してくれた。台湾には絶対介入するなよと約束を取り付けて復活した日中関係だ」と1972年の日中国交正常化を振り返った。
戦争を起こさせない政策を
元外務省条約局長の東郷和彦氏は、中国海軍の戦闘機による自衛隊機へのレーダー照射について「中国の怒りがいかに深いかの証左だ」と指摘した。
その上で、東郷氏は高市政権に対し、こう注文した。
「一つ言えることは対話に対する努力を放棄しないこと。(会場の)皆さんの評価は分かれるかもしれないが、首相は中国と戦争したくて、ああいう発言をしたとは思えない。責任ある国家として日本がやるべきは『戦争しない』とは違って、東アジアで『戦争を起こさせない』政策ではないか」(奥原慎平)