セブン&アイ、スーパーとの「食」の共創に疑問符-実験店に見る課題
セブン&アイ・ホールディングスが主張するコンビニ事業とスーパー事業とのシナジー(相乗効果)に、社内外から疑問の声が上がる。成長の要である「食」分野強化に向けシナジーを模索する実験店の映す可能性や課題を探った。
お菓子の量り売りや、チルドではなく店内仕上げのラーメン、レジ横のマシンでは入れ立ての紅茶を提供する。
セブンは昨年2月、通常のコンビニでは見られないサービスを提供するSIPストア(千葉県松戸市)をオープンした。セブン-イレブン、イトーヨーカ堂、そしてパートナーシップの頭文字を組み合わせて、SIPと名付けた。
店の面積を全国の既存店平均と比べ2倍近くまで広げ、肉類の温度管理のために特注の什器を導入した。スーパーで培った知見を取り入れた象徴的な取り組みだ。
セブンはSIPストアについて、「ワンストップショッピング」ができる新たなコンビニと説明する。ただ、コンセプトや強みが消費者に伝わっているとは言いがたい。匿名を条件に取材に応じた女性客は、SIPストアから出てきたところで「一カ所でまとめて買えて助かる」と感想を述べたが、その足で向かいの大型スーパー「オーケー」に向かった。
矛盾する動き
カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールの買収提案後、セブンは構造改革を加速。昨年10月には、スーパーなどコンビニ以外の非中核事業を中間持ち株会社のヨーク・ホールディングスに集約し、分離する計画を発表した。とはいえ食品の開発など協力するため、セブンはヨークHDの株式の一部を持ち続けるという。
シナジーを重視しつつ、資本関係が弱まるのは矛盾するようにも見える。SBI証券の田中俊シニアアナリストは「自社による成長が最優先となる中、シナジー創出のために割くリソースや意欲がどれだけ維持されるかは不透明だ」と指摘する。
そもそもイトーヨーカ堂の影響力を疑問視する声もある。消費経済アナリストの渡辺広明氏は店舗数が「2万店超のコンビニと店舗縮小が続くイトーヨーカドーでは、仕入れ力をとってもコンビニに分がある」と指摘する。
売り上げ増加
SIPストアを担当するセブンーイレブン・ジャパン(SEJ)のみらい事業創造部長の山口圭介氏によれば、冷凍食品は売り場面積を全国の店舗平均と比べ3倍に広げて売り上げは7倍に跳ね上がった。けん引役が冷凍パンだ。売り場効率が悪いためコンビニで取り扱ってこなかったが、需要があるとみて注目する。イトーヨーカ堂の仕入れ先を活用したという。
冷凍パンをはじめ、SIPストアにはイトーヨーカ堂が持つノウハウが生かされている面もある。ただ、海苔(のり)とごはんを分けることで、海苔が湿らないようにする包装や、コンビニの新たな収益源として定着したレジ横のコーヒーなど、過去のセブンの「発明」と比べると、見劣りする。
SIPストアを回った消費経済アナリストの渡辺氏は「知見を掛け合わせたというより、店の中にコンビニエリアとスーパーエリアがあるだけ」と冷ややかだ。
SIPストアは元々、直営のセブン-イレブンだった。昨年2月に改装オープンした所、前年同月に比べ売り上げ・客数ともに20%以上増加。5月には目の前に「オーケー」が開店したが、昨年9月まで同10%増を維持した。
ただSIPストア自体が全国各地に広がる訳ではないようだ。セブンの広報担当者は、実証実験の場と位置付けており、同様の店舗を増やす意向はないと開店当初から伝えてきたとしている。レジ横の紅茶や、温かいパンなど一部の有望なサービスを既存店に広げる手法をとっているが、SIPストアならではの施策とは言いがたい。
SEJの山口氏は、当初はシナジーがあるとの仮説から始まったとしつつ、目下注力するのは「短中期的に現実的な」施策と説明。既存店に展開する具体例として、今年はレジ横の食品展開を強化する意向を明らかにした。専用什器を他店舗に広げるのはハードルもあり、生鮮食品の展開は「研究段階」だ。
「創業家に配慮」の声も
シナジーが生み出せるか不透明な中、食領域での協業を理由に中間持ち株会社の株式の一部を持ち続けることに疑問を持つ声も社内からは上がる。
セブン&アイOBの一人は匿名を条件に取材に応じ、祖業がイトーヨーカ堂であることから「創業家への配慮として残すための方便に聞こえる」という。ある社員も「イトーヨーカ堂の品質は高かったと思うが、規模縮小が続く中で優位性を維持できているかは疑問だ。SIPストアを前向きに捉える声は聞こえてこない」と漏らす。
SBI証券の田中氏も「シナジーのようなものを出さなければいけないと、取って付けたような感じだ」と述べた。
クシュタールからの買収提案を受け、創業家陣営は事実上の対抗策として打ち出したMBO(経営陣が参加する買収)の金策に走る。クシュタールが買収の意図や日本事業の扱いについて、インタビューなどを通じて説明する一方、創業家はこれまで目的や目標を明らかにしていない。
セブンの社外取締役で構成する特別委員会はクシュタールと創業家、双方からの買収提案に加え、現経営体制での単独での事業運営の3案について検討している。クシュタールの傘下入りを避けたとしても、残る案に中長期の成長を投資家が抱けるほどの説得力があるとは言いづらい。
SIPストアの駐車場でバイクに乗ろうとしていた松戸市の会社員後藤孝さん(53)も、しまっていた野菜はスーパーで買ったもの。「コンビニではタバコくらい」と、明確に使い方を分けていた。