「まるで戦時下の報道だ」広陵高校の暴力問題→甲子園主催の朝日新聞は沈黙…見て見ぬふりをした新聞社の責任とは(文春オンライン)

 さてこうなると主催の朝日新聞が読みたくなる。高校野球を汗と涙と青春の美談祭りで報道してきたからだ。ビジネスにも利用してきた。  美談は行き過ぎると偽善になる。具体例として朝日新聞の偽善を挙げると、当コラムでは2018年に『高校野球「熱中症で力尽きたエース」記事が朝日新聞に見当たらない、という問題』を書いた。  西東京大会決勝で投げた投手が試合後に脱水症状を伴う熱中症を発症した。9回途中まで154球を投じたが試合後に全身に痛みを訴え、救急車が神宮球場のグラウンド内まで入り都内の病院に搬送された。当然ながら新聞ではこの件は大きく扱われた。サンスポは「力尽きたエース…熱中症で救急搬送 」。日刊スポーツは「154球……熱中症 救急車で搬送」。一般紙も毎日、読売、東京新聞が伝えた。しかし、朝日新聞はこの事実を報じなかったのである。  東京版では決勝戦を2ページにわたって大々的に報じていたがどこを探しても「エースが熱中症で搬送」は書かれていなかった。その代わりに「『壮絶な試合』両校たたえる 閉会式で都高野連会長」という記事や、「ご協力に感謝します」という東京都高野連と朝日新聞社連名の感謝のことばを載せていた。 《猛烈な暑さが続く中での大会でしたが、各チームとも温かい声援を励みに、激戦である東京の大会にふさわしい好プレー、好試合を見せてくれました。》

 不適切にもほどがある。まるで戦時下の報道だ。先の戦争では新聞による翼賛報道も軍部の片棒を担いでいた。高校野球に依然として漂う軍隊のような古い規律に精神主義、暴力、美談報道は似たような構図を思い出させる。そして今回だ。朝日は商売的にも押し切りたかったろうがSNSがある今、どうすることもできなかった。朝日はまた敗れたのである。  広陵の辞退発表の翌日、朝日新聞は1面下、社会面、スポーツ面で報じた。  社会面では暴行発覚後の経緯について、 《学校は県高野連を通じて日本高野連に報告し、日本高野連は3月に「厳重注意」をした。厳重注意は、学生憲章に基づく規則で原則公表しないと定められているため、当時は高野連や学校からの発表はなかった。》  高野連と学校側は正しい対処をしたもんね。という行間を感じたのは私だけだろうか。ポイントはそこではなく、被害者側の声をろくに聞かずに対処したことがここまで大きな問題になったのではないか? どこか朝日新聞の書き方には冷たさを感じた。  スポーツ面の「見えづらい寮生活 改革のとき」では、朝日新聞と日本高野連が加盟校を対象に5年ごとに実態調査をしていることを強調していた。寮生活の改革に成功した学校の話にも触れていた。強気だが、記事が小さいのが気になった。  では他紙はどうか? 読売新聞と産経新聞は広陵の辞退発表から3日後に社説で取り上げた。読売社説は、被害者の生徒は転校を余儀なくされたとし、いじめ防止対策推進法に言及していた。いじめで子供の生命や心身、財産に深刻な被害が生じた疑いがある場合を「重大事態」と位置づけ、調査組織の設置を義務づけているからだ。そう、今回は重大事態なのである。朝日新聞は書いていない重要な視点だ。  そのうえで、 《高野連の判断にも疑問が残る。被害者が転校せざるを得なかった暴力行為への処分は「厳重注意」が妥当なのか。被害者側の声も聞かず、広陵側の言い分だけで処分を決めていいのか。審査方法の見直しを検討する必要がある。》


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 朝日新聞のあっさりした経緯とは異なり具体的だった。また、「閉ざされた寮生活の中で、暴力が蔓延していたのではないかと疑いたくなる」ともあり、「見えづらい寮生活」と書いた朝日よりも踏み込んでいる。

 産経新聞の社説は広陵の校長が事実の隠蔽や矮小化などは「一切ない」とも断言したことについて「それなら大会を辞退する必要はなかったはずだ。被害生徒側が不満を残した初動調査の不徹底こそ、大いに反省すべきである」と書く。読売も産経もライバルの朝日が高校野球の主催だから社説でもさっそく書いたのかもしれないが、指摘はその通りではないか。  この時点(8月13日)で朝日新聞は広陵問題に社説では触れていなかった。もしかしてこのままスルーなのか、そう思える沈黙が続いた。すると17日にようやく社説で取り上げた。『広陵高校辞退 暴力を根絶するために』というタイトルだった。面白かったのは次だ。 「高野連と、夏の甲子園大会を共催する朝日新聞社は、対応を考えねばならない。」  のんきだなぁ、今さらか。まるで他人事である。そして次。 「より透明性の高い仕組みを目指してどんな手を打てるか。高野連とともに責任と役割を積極的に担っていきたい。」  何か言ってるようで何も言っていない、社説のお手本のような書き方だ。それなら記者を何人も広陵に送り込み、「見えづらい寮生活」などと寝ぼけたことを書いてお茶を濁さず、実態のスクープを連発したらどうか。それが主催の新聞社としての責任だろう。  朝日新聞にとって高校野球は「大事なお客様」という点でジャニーズ問題とも似ている。あれも見て見ぬふりをし、それまでの偽善と欺瞞がバレた案件だった。反省したはずだが今回と何が違うのか。  8月13日の朝日夕刊のコラム「素粒子」は、 《「南京事件はなかった」という国会議員。気に入らぬ雇用統計を出した局長をクビにする米大統領。「なかったと100回言えば、なかったことになってしまう」。731部隊の元隊員が、本紙に。》  と憂えていた。それなら朝日新聞さん、高校野球の暗部にもどうぞ踏み込んでください。期待しています。 ◆◆◆  文春オンラインで好評連載のプチ鹿島さんの政治コラムが一冊の本になりました。タイトルは『 お笑い公文書2025 裏ガネ地獄変 プチ鹿島政治コラム集2』 。

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