溶けつつあるノルウェーの氷河で、数多くの古代の遺物を発見

考古学者たちは、古代の貴重な遺物を求めてノルウェーの山々に分け入っている。Johan Wildhagen/Palookaville
  • ノルウェーの氷河が融解し、石器時代、鉄器時代、中世の遺物が姿を現している。
  • 古代の遺物の多くはまだ謎に包まれているが、山を越える交易路が存在していたことを示唆するものもある。
  • ここでは、この夏、最も氷が溶けた地域でノルウェーの氷河考古学者が発見したものを紹介する。

世界各地で氷河が融解する中、神秘的で興味深い遺物が姿を現している。

毎年、凍った山々から奇妙な木製の道具、像、古代の人骨などが見つかり、考古学者たちを引き付けている。

ノルウェーは、「氷河考古学」という新たな研究分野の最前線に立っている。「Secrets of the Ice(氷の秘密)」というプログラムを共同運営するエスペン・フィンスタッド(Espen Finstad)によると、同国では約4500点の遺物が発見されており、これらは世界の氷河考古学における発見の半数以上を占めるという。

そして彼らは、発見したものをつなぎ合わせ、氷河を越えて発達した古代の交易路や産業について解明しようとしている。

今回の発掘シーズンには特に大きな成果が得られたという。彼らが発見したものを紹介する。

何千年にもわたり、人々は交易のためにノルウェーの氷河を越えて歩んできた

エスペン・フィンスタッドは考古学者チームを率いて、発掘現場まで3時間かけて山道を歩く。Andreas Christoffer Nilsson, secretsoftheice.com

石器時代から、狩猟や移動、交易のための道は、ノルウェーの海岸と内陸部を結ぶ山々を越えていた。

「我々にとってラッキーなことに、これらの交易路のいくつかは、氷の上を通っていた」とフィンスタッドはBusiness Insiderに語っている。

古代の旅人たちが残した物は、何世紀もの間、氷の中で凍りついていたが、近年になってようやく発見された

1700年前の馬用「かんじき」。ノルウェーのレンドブリーン氷河で見つかった。Glacier Archaeology Program

人類がエネルギーとして化石燃料を燃やし、熱を閉じ込めるガスを大気中に放出してきた結果、地球の気温は数十年にわたって上昇し続けている。その影響で世界各地の氷河が融解し、その中に閉じ込められていた古代の遺物が姿を現している。

遺物の中には、現代でもなじみ深いものもある。例えばこの手袋だ

現代のものとそっくりな、古代の手袋。Johan Wildhagen/Palookaville

だが、この「攪拌棒」のように、現代のものとは大きく異なるものもある

考古学者は、これを「攪拌棒」だったと考えている。Innlandet County Municipality, Secrets of the Ice

レンドブリーン氷河からは、大量の遺物が発見されている

2006年(上)と2018年(下)に撮影されたレンドブリーン氷河。Espen Finstad, secretsoftheice.com

「その氷の中にはたくさんの宝物が眠っている」とフィンスタッドは言う。

バイキング時代から中世にかけて、レンドブリーンを超える移動ルートがよく使われていた。考古学者たちはほぼ毎年そこに足を運んでいる。

2024年の夏、氷の融解が進んだことで、数多くの新たな発見がもたらされた

2024年9月3日にチームが到着した時のレンドブリーン氷河の様子。Espen Finstad, secretsoftheice.com

フィンスタッドによると「発掘シーズンが終わるころ、融解が急速に進んだ」という。

約7人の考古学者からなるフィンスタッドの研究チームは、山脈にある12カ所ほどの遺跡を訪れ、遺物を探し続けた

フリーズドライされた矢を感嘆のまなざしで眺めるチームメンバー。Glacier Archaeology Program, Innlandet County Council

チームは馬で道具を発掘現場に運び、そこにキャンプを設営した

荷物を運ぶのに荷馬が使われた。Innlandet County Municipality, Secrets of the Ice

チームは9日ほど発掘現場に滞在した。

「これまで発掘した中でも最も保存状態の良い矢が2本見つかった」

氷の上に落ちていた矢は、1300年前のものだった。Espen Finstad, secretsoftheice.com

見つかった矢のうちの1本は、まるで発見されるのを待っていたかのように、氷の上にそのまま落ちていた。通常はある程度、掘る必要があるが、この矢に関してはただ拾い上げるだけでよかった。

「氷の上でここまで完璧に保存された矢を見つけるのは極めて珍しい。まるで贈り物のようだった。本当に美しかった」とフィンスタッドは語った。

氷河では矢が発見されることが多いとフィンスタッドは説明する。鉄器時代から中世にかけて、トナカイ狩りは「ほとんど産業のようなもの」だったからだ

トナカイは夏になると、寄生虫であるウマバエを避けるために氷や雪のある場所へ移動していた。これが古代の狩人にとって絶好の狩りの機会となった。Glacier Archaeology Program, Innlandet County Council

彼らは基本的には自分たちが食べるために狩りをしていたが、獲物を売ることもあった。

発掘された矢から、過去の社会についての手がかりが得られることもある

鉄器時代の矢を手に取る「Secrets of the Ice」プログラムのメンバー。Espen Finstad, secretsoftheice.com

例えば、氷河で見つかった矢じりの中には、遠くから運ばれたと思われる淡水ムール貝の殻を使ったものがあり、これにより人々がどれほど遠くまで移動して交易を行っていたのかについて、手がかりを得ることができる。

フィンスタッドのチームが今回の発掘シーズンで発見した先史時代の矢の中には、矢羽根がまだ残っているほど良好な保存状態のものもあった

ストールグローヴブレアン氷河で発見された1500年前の矢には、矢羽根まで残っていた。Museum of Cultural History

矢羽根は非常に繊細で、通常は何千年も残ることはないため、極めて珍しい発見となった。

発掘されたものの中には「奇妙」としか言いようのないものもあるという

レンドブリーン峠で見つかったこの木製の遺物の用途は、まだわかっていない。Kathrine Stene, secretsoftheice.com

木や革、布などの断片は、どのような用途だったのかを特定することが極めて難しい。

2024年、フィンスタッドのチームは、レンドブリーンでそのような謎めいた小さな遺物を約50点発掘した

レンドブリーンで見つかった縫い目のある革。靴だったと思われる。Øystein Rønning Andersen, secretsoftheice.com

「発掘されたのはすべて、小さな日用品のようなもので、バイキング時代やそれ以前のものだと思われる。これらは少なくともノルウェーの他の発掘現場では見つからない。時間とともに劣化してしまうからだ」とフィンスタッドは述べた。

今回の発掘調査は、大量の積雪により中断することになったが、チームは次の夏にどこを調査すべきか目星をつけることができた

レンドブリーン氷河で発見された中世の蹄鉄。May-Tove Smiseth, secretsoftheice.com

「また発掘現場に戻るのが楽しみでしょうがない」とフィンスタッドは述べていた。

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