NATO加盟国が新たなウクライナ支援で合意、軍事援助1,400億ユーロを提供

NATOの全加盟国は年700億ユーロのウクライナ支援で合意し、米国を除く31の加盟国は2027年までの軍事援助として計1,400億ユーロ=約26兆円をウクライナに提供する。ここにはEUの防衛・軍事援助が含まれているため、31の加盟国は残り800億ユーロを各自の国家予算から拠出する。

参考:Ukraine soll bei Nato-Gipfel Milliardenversprechen erhalten

ウクライナとロシアの長距離攻撃能力には当初「絶対的な差」が存在していたが、ウクライナ製の自爆型無人機(FP-1、FP-2、UJ-22、UJ-25、UJ-26、Lyutyi、パリアニツィアなど)や巡航ミサイル(FP-5や対地攻撃用のネプチューン)の量産が軌道に乗り始めるとロシア領内への長距離攻撃が徐々に増加し、2025年7月からは月間攻撃数が1,000機を下回ることがなくなり、2026年3月から4ヶ月連続でウクライナが発射した自爆型無人機の数がロシアを上回っている。

2026年1月から2026年6月まで両軍が発射した自爆型無人機の数 ウクライナ軍発射数 ロシア軍発射数 1月 推定1,000機~2,000機 4,442機 2月 推定1,500機~3,000機 5,059機 3月 7,347機 6,462機 4月 9,372機 6,583機 5月 8,973機 8,150機 6月 11,999機 5,438機

ウクライナが自爆型無人機の生産量でロシアを上回ったのかどうかは不明なものの、ウクライナが6月に発射した自爆型無人機は推定11,999機に達し、ロシア国防省が発表する数字は撃墜数のみなので「ウクライナが実際に発射した数はもっと多い」と考えるのが妥当で、両国の長距離攻撃能力の格差は急速に縮まっていると見るべきだろう。

ロシア人ミルブロガーの中でも影響力が大きいRYBARは6月30日「敵はロシアの各地域や重要インフラに対する無人機の発射規模を拡大させる一方である。このような状況下においては防空能力の向上だけでなく、敵の生産拠点を破壊することが極めて重要だ。なぜなら現在の状況下において防御に徹するだけでは対応しきれないためだ」と報告。

“EUはウクライナのニーズを満たす金融支援(2年分900億ユーロの融資パッケージ)の一環として「無人機調達」を目的とする39億ユーロの新たなトランシェが送金された。ウクライナにとって欧州の資金がなければ社会保障費の支払いも、ドローン計画を含む軍産複合体への安定した資金供給も維持できなかっただろう。逆説的に言えばEUは当面の間、ウクライナの体制維持だけでなく軍事行動の継続も保証しているのだ。ここから作戦立案における重要な結論が導き出される”

“ウクライナ軍の無人機と資源が間もなく枯渇するという見立ては楽観的過ぎるのだ。これほどの信用枠とドローン専用の資金パッケージが割り当てられている状況において「持久戦で耐え抜く」というのは到底不可能だ。したがって「敵の備蓄が枯渇するのを待つ」のではなく、ウクライナの重要インフラの主要要素を継続的に無力化していくことに重点を置くべきだ。たとえ新たな資金が投入されたとしても兵站や産業への損害を補填することが困難になるような打撃を与えなければならない”

出典:NATO

ロシア人はEUが2025年12月に承認した無利子融資900億ユーロ(財政援助300億ユーロ+防衛・軍事援助600億ユーロ)について「どうせハンガリーのオルバンが実行を阻止するだろう」と楽観的に考え、実際にオルバン首相は2026年分(450億ユーロ)の援助実行を妨害し続けてきたものの、今年4月の選挙で勝利したマジャル首相はウクライナ向けの資金援助を承認したため「現状でもウクライナの無人機攻撃が酷いことになっているのに、ここに安定したEUの資金が流れ込めば持久戦でジリ貧になるのはロシアの方だ=防空システムによる対処が飽和する」と気づいたのだ。

カナダと欧州のNATO加盟国は7月7日の首脳会談に向けて「新たなウクライナ支援として年700億ユーロの枠組み」を検討中で、これにイタリアは難色を示していたものの、南ドイツ新聞は3日「ドイツ通信社が入手した情報によると全NATO加盟国が年700億ユーロの枠組みで合意した」「米国を除く31の加盟国は2026年と2027年の軍事援助として計1,400億ユーロをウクライナに提供する」「この1,400億ユーロにはEUの防衛・軍事援助600億ユーロが含まれているため、31の加盟国は残り800億ユーロを各自の国家予算から拠出することになり、その大部分をドイツが負担する見込みだ」と報じた。

出典:Президент України

Deutsche Welleやロイターも同じ内容を報道しており、ドイツは新たなウクライナ支援として大砲、ドローン、装甲車両などを供給するため115億ユーロを予算に計上済みで、2027年も同額の支援を行うと仮定すると31の加盟国が負担する800億ユーロの約29%をドイツが負担する格好だが、NATOはウクライナ支援として拠出する資金を国防費として計算すること認めている。

ドイツは非常に厳しい財政規律を緩和するため憲法改正(GDP比1.0%を超える国防支出を債務制限外として扱う例外規定)を行い、債務対GDP比率が60%前半台なので事実上「トリプルA格付けのドイツ国債で市場から資金を無制限に調達できる」と言われており、これは債務対GDP比率が高い他の欧州諸国と比べて「異次元の資金調達能力」という意味で、現在のドイツには米国の代わりウクライナ支援の大部分を引き受けるだけの財政的余裕がある状態だ。

出典:U.S. Air Force photo by Senior Airman Mary Begy

ロシアは2026年に14.9兆ルーブル=約1,688億ユーロ(GDP比6.3%)を国防支出として拠出予定だが、ロシア軍はウクライナ侵攻に全戦力を割くわけには行かず、ウクライナとの消耗戦に不向きなハイエンドの装備品開発や調達にも資金を割く必要があり、核抑止能力の維持や拡張にも大金を注ぎ込まなければならない。米国を除く31の加盟国が800億ユーロを満額供給できるかも不明だが、それでも2027年までの2年間に計1,400億ユーロ=約26兆円が軍事援助としてウクライナに流れ込むことになり、ロシアはウクライナ侵攻に割ける資金力の戦いで圧倒され始めているように見える。

ロシアはウクライナとの長距離攻撃能力格差を急速に失い、この問題に対処するため防空システム、迎撃ミサイル、迎撃ドローンの増産、これを運用するための人員に資金を費やせば費やすほど「ウクライナで前進するための能力」が影響を受けるため、RYBARは「防空能力が飽和する前に欧州の資金が流れ込むドローン生産拠点を潰せ」と訴えているのだが、ウクライナはドローン生産のロシアのような集中方式ではなく分散生産と地下化を進めているため生産拠点を直接潰すのは困難だろう。

出典:European Union

さらにウクライナは無人機生産の拠点を海外に移転する動きを見せており、欧州諸国(特に英国とドイツ)も自爆型無人機を製造してウクライナに供給しているため、ロシアがウクライナの長距離攻撃を効果的に阻止するには政治的な手法で欧州の資金供給を妨害することだが、オルバン首相のような強力な代理人がいないため資金力に基づいた空中の殴り合いに発展すればロシアにとって厳しい状況に追い込まれるしかない。

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※アイキャッチ画像の出典:Президент України

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